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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

「さすが日大」と言わせてほしい 新生フェニックスを取材して

2019.5.8 13:22 生沢 浩 いけざわ・ひろし
公式試合出場資格停止処分の解除後初となった対外試合で、日本体育大と対戦する日本大アメリカンフットボール部の選手たち(手前中央ほか赤ユニホーム)=5月4日、東京都世田谷区の日体大グラウンド
公式試合出場資格停止処分の解除後初となった対外試合で、日本体育大と対戦する日本大アメリカンフットボール部の選手たち(手前中央ほか赤ユニホーム)=5月4日、東京都世田谷区の日体大グラウンド

 

 大型連休も終盤にさしかかった5月4日、日大と日体大の春季オープン戦を取材した。

 昨年春に起きた「危険な反則タックル問題」で、関東学連から受けた秋のリーグ戦への出場資格停止処分が解除されてから初めて日大が迎える対外試合である。

 あれだけ世間を騒がせただけあって、春季オープン戦では異例な数のメディアが集まった。

 

 それ以上に驚いたのは試合会場となった日体大世田谷キャンパスに集結した日大の保護者やOB、ファンの数だ。実数は明らかではないが、どう少なく見積もっても500人はくだらなかっただろう。

 約3000人を収容する東京・アミノバイタルフィールドであったとしても、スタンドがいっぱいになったのではないかと思う。

 その観客の声援に応えるように、日大が42―0と大勝して復帰戦を飾った。

 

 誰もが「新生フェニックス」に注目していた。

 監督やコーチによる抑圧的な指導を排除し、選手たちが自ら考え、行動するチームとなることが関東学連がフェニックスに与えた課題の一つだ。

 それを実践し、変化を示そうという姿勢はいたるところに見られた。

 

 試合後にメディア対応した橋詰功監督や贄田時矢主将(4年)はそろって「自主性」という言葉を口にした。

 橋詰監督は「昨年秋の(練習)試合では、ベンチから出ないように選手に声をかけなければいけなかったが、今日はそれを選手たち自身がお互いに心がけていたので、私は試合に集中できた」と言い、贄田主将は「(普段の練習でも)自主性を重んじ、去年よりも活発に選手たちが自分たちで動くようになってきた」と語った。

 

 橋詰監督はまた、選手の試合前の表情について「緊張感の中にも和やかな雰囲気があった」と述べたが、それは試合前練習を取材をしていても実感できた。

 真剣な中にも時折笑顔が見える。それは決してヘラヘラした表情ではなく、一つ一つのプレーを楽しんでいる姿だった。過去の日大にはあまり見られなかった光景ではないか。

 

 印象的なシーンがあった。攻守に分かれてスクリメージ形式で行う練習のときだ。

 スクリメージラインを抜け出したRBがそのまま30ヤードほど直線を全力疾走する。RBの目指す先に一人の学生コーチが立っていた。

 一昨年の学生日本一になった際に3年生で先発Cを務めた村田航平コーチだ。

 

 橋詰監督曰く「勉強が大好きで大学に残って」後輩の指導をしている。

 その村田コーチが満面の笑みでRBと握手を交わし、声をかける。これもまた新生フェニックスを象徴するシーンだった。

公式試合出場資格停止処分の解除後初の対外試合となった日本体育大戦で戦況を見つめる日本大アメリカンフットボール部の橋詰功監督(中央、白い帽子の男性)=5月4日、東京都世田谷区の日体大グラウンド
公式試合出場資格停止処分の解除後初の対外試合となった日本体育大戦で戦況を見つめる日本大アメリカンフットボール部の橋詰功監督(中央、白い帽子の男性)=5月4日、東京都世田谷区の日体大グラウンド

 

 プレースタイルは従来のフェニックスと大きく変わるところはないだろう。

 オフェンスは代名詞である「ショットガン隊形」からランとパスを繰り出す。

 ディフェンスはフロント7のスピードとDB陣の嗅覚の鋭さが目立った。

 

 オフェンスでは第1プレーで72ヤードのTDパスを成功させたQB林大希選手(3年)や、スクリメージラインを越えてからディフェンダーの追随を許さないRB川上宇理選手(3年)のスピードが目を引いた。

 ディフェンスではLB多田海太郎選手(4年)の守備範囲の広さが「日大らしさ」を醸し出していた。

 

 その一方でファンブルやキャッチミスなど「らしくない」失敗がいくつか見られたのは気になった。

 フェニックスといえば徹底した反復練習とミスを許さない緊張感で培われた技術力の高さも強さの秘訣だったはずだ。

 フェニックス関係者やファンの怒りを買う覚悟であえて正直に言うなら「日大は下手になったな」という感想を抱いた。

 

 関東学連の処分が決まってから、練習試合以外の実戦がなく、練習量もかなり制限されてきた影響はもちろんあるだろう。

 さらに言えば春の初戦であるわずか1試合を見ての感想に過ぎない。これをもって現在のフェニックスを評価するわけでは決してない。

 

 しかし、新しいフェニックスとは過去と「違う」だけでは許されない。過去を超えるフェニックスでなければならないのだ。そこにイージーミスを許容する余地はない。

 贄田主将が試合後に「フェニックスは歴史あるチームです。それでいて日本一でなければならないチームです」と語った。

2019年度の日大を率いるOL贄田時矢主将=5月4日、東京都世田谷区の日体大グラウンド
2019年度の日大を率いるOL贄田時矢主将=5月4日、東京都世田谷区の日体大グラウンド

 こう言い切れるのは、ほんの一握りのチームに許された特権だ。ただし、それを実現するには相当の覚悟と努力が不可欠だ。

 

 ただでさえ難しい日本一奪還を、フェニックスはゼロどころかマイナスから始めなければならない。

 まずは降格したBIG8から日本一を目指すことのできるTOP8への復帰が大前提となるからだ。

 

 それを克服して再び大学王座を手にした時こそ、新生フェニックスが完成するのだろう。

 その時は筆者に「さすが日大、フットボールがうまい」と言わせてほしい。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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