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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

30歳を前に人生最高の調子を維持 自身が綴る中村多聞物語69

2019.4.18 12:35 中村 多聞 なかむら・たもん
チームメートとつかの間のオフを楽しむ多聞さん
チームメートとつかの間のオフを楽しむ多聞さん

 

 ▽1999年3月15日

 この日は僕の父(中村まさお)の52歳のお誕生日です。20年前のことを書いている今の僕(50歳)とほぼ同じ年齢ですね。とにかくパパおめでとう。

 

 チーム内でのスクリメージが本格化。ボールキャリアにはタックルではなくタッチではありますが、腕力が強いので触られるととても痛いです。

 守備陣も生き残りがかかっていますので、とにかくコーチや周囲にアピールするためにしっかりとプレーしています。

 アジア人のチビに走られまくるわけにいかないでしょうし、僕が持っているボールを叩いたりしに来ますが、それが腕に当たったりするとメチャクチャ痛いのです。

 

 あるプレーで、エキサイトした守備選手に振り回された上に投げ飛ばされ、僕はゴロゴロゴローっと吹っ飛びました。

 「何やねんお前、アホか!」とその選手の背中にボールを投げつけて関西弁で叫びました。

 監督に呼ばれて「タモン。去年から言うてるやろ。KEEP POISE(常に冷静に) や。熱うなるな!」と叱られました。でも消極的だった昨年に比べれば、戦う気持ちを出せたので良しとします。

 

 昨年から監督が何度も何度も選手たちに言ってきたこの「KEEP POISE」。当時の僕は本当の意味をよくわかって居ませんでしたが、「落ち着け!」「冷静に!」みたいな感じのシチュエーションで監督が選手を諭していましたので、まあそん感じかなと解釈していました。

 スポーツ関係者の使いガラの悪い口語ですのでスペルもわかりません。スペルがわからなければ辞書で調べることもできませんし、していませんでした。

 

 「気合い入れろ!」「熱くやれ!」という檄ばかりが飛び交う日本のフットボールとは正反対。このチームのコーチは、気合いが入りすぎたり熱くなりすぎる選手を抑える方が仕事の割合が多いのです。

 もちろん試合で良くない状況に置かれた時は「元気出して自分の仕事をしっかりやろう!」と言う日本と共通の檄も飛びますが、昨年度のシーズンは勝ち越していた上に優勝した強いチームだったので、あまりそのようなシーンに出くわさなかっただけで、もっと長いシーズンだったり成績が悪ければどんな感じになっていたのかには興味があります。

 

 練習開始から4日が経って体の調子も抜群。日本のシーズンが終わってからの3カ月間で、しっかりと鍛えて調整してきた成果が出ています。

 とにかく人生で最高に早く走れていますし、フットボールというかランニングバックとしての動きも過去最高に感じています。

 ウエートトレーニングで持ち上げられる重さや回数の過去最高値が、毎日のように更新されていきます。

 

 そしてついこの間までNFLで戦ってきていたような本物相手に気持ちでも負けていません。全てのプレーで全力の集中力を発揮して、技術面でも成長していくぞと気合い満タンです。

 

 ▽1999年3月16日

 合宿5日目。そろそろ例の「スネ痛(シンスプリント)」が発症してもおかしくない頃合いです。

 朝食のためにベッドから出て眠い目をこすりながら廊下を歩きます。エレベーターに乗ると、その僕より不機嫌そうなごつい守備ラインのアフリカ系アメリカ人から「Sup(調子はどう?)」と言われます。

 僕はそんなスラングを知りませんでしたが、挨拶には違いないので朝だし「グッ、モーニン」とNHK基礎英語で身につけた単語を元気よく発音します。その後なんの会話もないまま1階に到着、チーン。

 後でわかりましたが、前日のスクリメージで僕がキレた相手でした。何が「オハヨー」じゃ、と思っていたのでしょう。

 

 懸念していたスネ痛ですがついに出てきました。朝ごはんを食べていたら眠気も覚めて、だんだんと痛みが襲ってきます。触ってみるとかなりの痛みを感じます。

 一気に弱気になる僕ですが、今年は友人の東洋医学習得者の先生から対処法を学んできています。

 冷やす、休める、握り潰す。この三つです。合宿中ですので休めません。冷やすのはアイシングすればいいだけの話ですが、三つ目の握り潰すが厄介です。

 

 何やらシンスプリントのメカニズムは、スネの骨から膜か何かが剥がれているので、それを手技で骨側に戻すと良いようです。

 その先生には昨年のこの同じアメリカ合宿で実際に治療してもらいましたし、やり方も覚えています。

 しかし大きな問題があります。治療時の手技がとにかく痛い。タオルを口に突っ込んで痛みに耐えると言う時間で体中汗だくになります。痛すぎて痛すぎて。

 でもこの20分ほどを耐え忍べば、明日の練習では痛い思いをせずに済むと考えれば、どうにか前に進む気もします。

 いずれの道も激痛が待っている、厳しいプロスポーツの世界を堪能する、中村多聞30歳の前夜でした。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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