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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

「楽しむ」とは集中して全力を出すこと 自身が綴る中村多聞物語68

2019.4.4 10:00 中村 多聞 なかむら・たもん
チームの女性トレーナー、ヘザー・ブリストルさんにテーピングをしてもらう多聞さん
チームの女性トレーナー、ヘザー・ブリストルさんにテーピングをしてもらう多聞さん

 

 ▽1999年3月12日(前回からの続き)

 2日目の練習が終わり、全身が筋肉痛に見舞われますが、自分の能力より上の人たちばかりの中でプレーできることがいかに素晴らしいかを、改めてかみしめています。

 

 今でこそ「全てのプレーで全力を出せ」「少しの油断もせず集中しろ」なんて若い選手たちを偉そうに指導していますが、当時の自分はこの「集中」「全力を出す」というテクニックをマスターしかけの頃で、この二つにとにかくチャレンジして楽しんでいました。

 フルスロットルで密集の中を走りながら、集中しきった時は景色が全然違って見える(感じる)のです。

 そのスリルと高揚感は他では味わったことのない素晴らしいものでした。そしてうまくいった時の達成感や喜びが、体の底からわき上がってくるのです。

 本当に楽しい時間です。これが「楽しむ」ということの神髄なんだなと知りました。ニヤニヤヘラヘラしながらテキトーに楽しむのとは、全く違うわけです。大抵のヘタクソや勘違いしている人は、ここをはき違えています。

 

 この感覚を少しでも多く味わいたくて、ハードに全力プレーすることがやみつきになると同時に、自動的に技術も向上しました。

 このチームでは僕は圧倒的に補欠ですが、練習相手はチームの1軍守備陣となります。

 アメリカンフットボールでは通常「1軍攻撃VS2軍守備」「1軍守備VS2軍攻撃」でセットプレーの練習をします。

 2軍側は、敵チームを演じるためのミーティングや勉強、繰り返しの練習を経て最終的に自チームの1軍を鍛える存在に徹するのが習わしです。

 その中でキラリと光る者がいれば「ちょっと君、明日は1軍側で少し参加しなさい」となります。

 2カ月前までNFLでプレーしていたようなスーパーマンを相手に練習しているのですから、僕でもうまくなって当然です。

 

 前年度のプロ経験から始まり、アサヒ飲料チャレンジャーズへ移籍後過去最高のパフォーマンスを発揮し、個人としての成長を実感するところまでは登ってきましたが、まだまだ絶対的な実力や経験、そして安定感が欠けていることも理解しています。

 日本での試合では当然のようにできることも、プロのアメリカ人相手にはほんの少しの判断ミス、特に判断の遅れがあると一切仕事をさせてもらえません。

 

 100キロを超える体重だったのですが、敵と接触する直前に重心の高さを少しでもコントロールミスすると、小兵の僕はたちまち子どものように吹き飛ばされます。

 スピードを出し過ぎてレーンを間違え、オフェンスラインの背中に激突しても、彼らには蚊に刺された程度にしか影響はなく、安心してプレーできる環境を楽しみながら日々成長していきます。

 

 今年は「ヘタクソ過ぎるアジア人」からの脱却を目指し、コーチたちにだんだんと好印象を与え試合での出場プレー数を増やし、少ないチャンスでもしっかり結果を残す。

 つまり「活躍」「得点する」が具体的な目標ですが、予想では数日後から始まる例の「スネ痛」が、どんなマッチョなディフェンダーより怖いのです。

 

 ▽1999年3月13日

 この合宿に曜日の感覚など必要ありませんので気にしていませんでしたが、今日は土曜日だそうで、午前の練習が終われば午後はミーティングのみです。

 アフリカ系アメリカ人たちは「サタデーナイトはオフ、今夜は練習なし♪」なんてラップを歌いながら大はしゃぎです。日曜の夜にミーティングがあるので、ちょうど24時間のオフが与えられました。

 

 チームの事務員みたいな人が、選手の名前を呼んで確認しながら封筒を配り始めました。

 そうです「ペイデイ」です。今からオフ。そして100ドル(金銭感覚的には約1万円)の小遣いをゲット。最高ですね! 

 というわけでスコティッシュ・クレイモアーズの辻氏と堀口氏に連絡を取りディズニーワールドの近所でジャパニーズ夕食会です。

 大量のビールを飲み、楽しい時間を過ごしました。二人とはバイバイし、ホテルへ帰ろうとしたその時「イェーイ、タモーン!」と5、6人の大男たちが叫びながらこっちに歩いてきました。ライン・ファイアーのチームメートです。「おいタモン一人か? 俺らと一緒に行こうやー!」と誘われて巨大なクラブに到着です。

 

 到着すると、初日の身体検査の時に出会ったアメリカ人選手たちがウジャウジャ遊びに来ていました。

 考えることは全員同じ。何百人ものアメフト選手が集結していてオフの気分が逆に台無しです。

 英語しか使えないで過ごすとエネルギーを10倍消耗するのに、大音量で音楽がかかっていて余計に英語が聞き取れません。

 しかもみんな酔っ払い。そんな時はこの作戦に限ります。「最も多く飲んで最も酔っ払って最も暴れる」作戦です。

 

 気がつくと静かな部屋で寝ていました。誰かがきちんとホテルの部屋まで送ってくれていたのです。

 僕は何も覚えていません。口からウオッカを霧のように吹き出し、火をつけてダンスホールをぐるぐる回っていたところだけ、かすかに覚えていました。送ってくれた人、結局誰かわからんかったけどありがとう!

 

 ▽1999年3月14日

 もちろんゴリゴリの二日酔いです。汗をかいて酒を抜こうとジョギングに出かけました。

 ただこれは間違った酒の抜き方だとこの10年後に知りました。汗では酒は抜けず、水をたくさん飲んでたくさん尿を出すのが正しいそうです。

 そしてしんどい中、このように遊び過ぎてしまう人間がいないかどうかのチェックのためだけのミーティングが始まりました。

 監督から「明日も練習や。はよ寝て準備せえよ!」みたいなことを言われて解散となりました。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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