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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

ビデオレビューを反則の有無に適用へ NFL2019年シーズン

2019.4.2 12:33 生沢 浩 いけざわ・ひろし
セインツのWRルイス(左)パスキャッチを防ぐラムズのDBロビーコールマン(AP=共同)
セインツのWRルイス(左)パスキャッチを防ぐラムズのDBロビーコールマン(AP=共同)

 

 ついにビデオレビューが反則の有無についても適用されることになった。

 NFLはかねてからの懸案だった「パスインターフェアランス」について、オフィシャル(審判団)がペナルティーマーカー(イエローフラッグ)を投げたか否かにかかわらず「インスタントリプレー」の対象となることを決定した。

 ただし、これは2019年シーズン限定のもので、シーズン終了後に検証されることになる。

 

 各チームのヘッドコーチ(HC)は第2、4クオーターの残り2分とオーバータイムを除いてインターフェアランスの反則、もしくはそれが疑わしいプレーについてチャレンジをし、ビデオによる確認を要求することができる。

 前後半の残り2分とオーバータイムについては、オフィシャルが必要と認めればビデオリプレーが行われる。

 

 HCに与えられるチャレンジ行使の数は原則として2回まで。2回とも判定が覆る「チャレンジ成功」となった場合にのみ3回目のチャレンジが許されるのは従来通りだ。

 驚くべきはオーナー投票の結果が31対1という大差で決したことだ。反対票を投じたのはベンガルズだけだったそうだ。

オーナー会議でのコーチ朝食会の後、メディアの質問を受けるペイトリオッツのビル・ベリチックHC(AP=共同)
オーナー会議でのコーチ朝食会の後、メディアの質問を受けるペイトリオッツのビル・ベリチックHC(AP=共同)

 

 これまでオーナーたちは一貫して、反則に対するインスタントリプレーの適用には反対する立場を貫いてきた。

 反則を対象にしてしまうとオフィシャルの尊厳を著しく損なうことになるし、試合時間も延びてファン離れの原因となる恐れがあるからだ。

 それが大きく覆ったのはやはり、昨年のNFC決勝でのインターフェアランスの見逃しが影響しているに違いない。

 

 問題のプレーが起きたのは20―20で迎えた第4Q終盤だ。既に残り時間2分を切ってセインツはゴール前13ヤードにまで攻めていた。

 サードダウン10ヤードで、QBドルー・ブリーズはWRトミーリー・ルイスにパスを投げるが、彼をカバーしていたラムズのCBニッケル・ロビーコールマンと交錯してパスは不成功となった。

 明らかにロビーコールマンがルイスに接触していたにもかかわらず、パスインターフェアランスの反則はコールされず、フォースダウンを迎えたセインツはそのままFGに終わってしまう。

 

 試合終了まで1分41秒の時間を得たラムズはFGで同点とし、オーバータイムの結果セインツを破ってスーパーボウルに進出した。

 もしインターフェアランスがコールされていれば、セインツはファーストダウンを更新し、TDを挙げていたかもしくは時間を使い切って決勝FGを決めていた可能性がある。

 第53回スーパーボウルでペイトリオッツと対戦していたのはセインツだったかもしれないのだ。

 

 これはのちにNFLが誤審を認めたこともあり、問題視された。

 特にスーパーボウル出場チームを決める重大な場面で起こったプレーだけに、インターフェアランスに対するインスタントリプレー適用の機運が高まった。

 

 NFLには今回のようなプレーが起きた際にすぐに対応策を協議し、必要があればルール変更も辞さない柔軟性がある。

 全米でも絶大な人気を誇るプロスポーツリーグとして君臨する理由の一つは、この柔軟な姿勢によるところが大きい。

 その一方で、限定的とはいえ反則の有無をビデオレビューの対象にしたことは、後に大きな問題となる可能性も残す。

 

 パスインターフェアランスの有無の判断は難しい。厳密にとらえるならば、ボールが空中にある間に少しでも相手選手に接触して、パスキャッチもしくはインターセプトを妨害したと判断されればペナルティーとなる。

 それを一つひとつ〝摘発〟していれば、あっという間にチャレンジ権は使い切ってしまう。

 

 また、今回の限定した適用が正確なジャッジに寄与したと判断されれば、ほかの反則にも適用される可能性が出てくる。

 そうすればビデオリプレーはより煩雑になり、それだけ試合時間の長期化につながる。

 

 フィールド上のプレーがより正確な判断の上に行われるのは好ましいことだが、リプレーのテクノロジーは向上する一方で、すべてをビデオにゆだねれば、今まで見えなかったものまで反則と判断されることもあり得る。

 極端に言えば、オフェンスのスタートはスーパースローの映像で見れば一斉ではなく、それこそ「フォルススタート」がコールされてもおかしくない。それは生身の人間がするスポーツとして正しい姿なのか。

 

 インターフェアランスをはじめとする反則を、インスタントリプレーの対象とすることは必ずしも反対ではない。

 正確なジャッジの手助けとなるならば大いに結構だ。しかし、「正しいジャッジ」とは肉眼ではとらえきれない瞬間までも映像で描き出すことではないはずだ。

 

 NFLは、スーパースローの映像をインスタントリプレーに採用することまではしないだろう。ではどこで線を引くのか。この問題の答えを見つけるのはそれほど易しくない。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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