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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

練習でNFLのフットボールを徹底的に学ぶ 自身が綴る中村多聞物語67

2019.3.28 10:00 中村 多聞 なかむら・たもん
ライン・ファイアーの用具担当スタッフと多聞さん
ライン・ファイアーの用具担当スタッフと多聞さん

 

 1999年3月12日

 いよいよ練習開始です。スネが痛くならないように「飛ばし過ぎずシッカリとやる!」をテーマに臨みます。

 しかしさすがプロチーム。初日からいきなりスクリメージがプランされています。

 ニッポンのシーズンインだと、カラダの準備ができていない〝意識低い系〟の人が多数存在するため、いきなり試合形式の対戦メニューなどは考えられません。下手をするとしばらくの期間は走ったりだけの軽い練習が続いてしまいます。

 全員集まらないと頑張れない心の人が多いからだそうです。僕にはよくわからない心理ですので、そういうタイプとは関わらないように心掛けております。

 

 当時の僕は「意識が高い」がウリの選手ですので、ぬかりなく準備はできています。いつでも試合ができるコンディションで渡米してきています。

 

 1999年ライン・ファイアーのオフェンスの作戦は昨年と半分以上同じですし、覚えることも少なく勝負に徹することができそうです。

 攻撃側のコーチは全員昨年と同じ人で、声や話し方にも慣れていますからコーチたちが話す英語の理解度も高く、リスニングに多大なエネルギーを使用せずともちゃーんとプレーに結びつくので、何をやってもソコソコうまくいきました。

 

 選手というものは、コーチに高く評価されてこそ生きる場所が与えられます。

 実際の実力はどうあれ、評価する側のコーチにその能力を見てもらわなければ全く意味がありません。

 そこにはスピードやパワーといった計測できる数値はもちろん、良いプレーをするかしないか、情熱や熱心さ真面目さ、その他いろいろが加味されて「評価」となるのは言うまでもありません。

 

 ニッポンと本場米国のコーチでは評価方法も基準値も違います。アメリカ人に情熱的でない人は少ないですし、日本人にはコーチの言うことに逆らう人が少ないように、国民性も違えば何もかも違います。

 ただ僕もアメリカ人とのフットボールは2年目。昨年度に手痛い洗礼を無数に浴びていますのでウッカリミスは犯しませんし、アメリカ人が「何を嫌がり何を好むの」かもかなり勉強させられましたので、しっかりと知織化されています。

 

 他のポジションも同じかもしれませんがRBにとって重要な「速い」「強い」「うまい」「賢い」をコーチに感じてもらうには、それを彼らがどのように見分けているのか、どこを見てそう感じるのかを勉強してきたつもりです。

 

 しかし細心の注意を払ってばかりいて「賢さ」の一端はアピールできても、肝心の「速さ」「強さ」がおろそかになっては意味がありません。

 「ココだ!」という時の「ココ」をしっかり理解しておき、絶対にフルスロットルで走ることが無意識に実行できていなければ、いくら俊足でもコーチ達にとっては「言うほど速くない奴」となります。

 

 僕のようにアメリカ人と比較して小柄でも、地面からの力と自分の体重、そして推進する速度をしっかりと調整してから激突すれば、はじき飛ばされるようなことはありませんが、これも無意識にできてこそ「チビやけど、当たれるやんけあの日本人」と思ってもらえます。

 「根性を決めて一大決心した結果強く当たれた」では、疲れているゲーム中や長いシーズンに希望はありません。

 

 走る速さとバーベルを上げることだけは、この時すでにアメリカ人に負けていなかったので、僕はそもそもこの部分でしか勝負する資格がありません。

 うまさや賢さではNFL選手と比較にならないのです。圧倒的な差があり、まあ残念ながら夢も希望もありませんでした。

 

 ライン・ファイアーの1999年のRBはこんなメンツです。

 元デンバー・ブロンコスのFB、サンディエゴ・チャージャーズの3本目(3軍)、マイアミ・ドルフィンズの3本目、デトロイト・ライオンズの3本目、ドイツリーグで活躍中のナイジェリア人、そして僕の合計6人です。

 元ブロンコスの選手は、今年でライン・ファイアー3年目のエースで、リーグ戦が開催されるドイツ国内でも超スター選手なので、アメリカでのキャンプではクビにはなりません。

 どういう契約かは未調査ですが、とにかく手抜きをしても絶対にクビになりません。ナイジェリア人と僕はドイツで出場しなければならない契約なので、これまたクビになりません。ですからあと1枠を3人のNFL選手が奪い合うのです。

 

 「インサイドゾーン」という中央を走るランプレーがありますが、その動きにはとても細かくコーチから指示が出ます。

 しかし身長が165センチくらいの小さな選手もいれば、185センチもいます。

 エースが185センチですので歩幅やタイミング、移動する距離も彼に合わせなくてはなりません。

 「1歩目2歩目3歩目はここに足を置け!」なんて指示され、少しのズレがあっても「タモン、それ狭いゆうてんねん!」「それは広すぎる!」「遅い!」と注意されます。それは他のNFL選手も同様で、慣れないうちは毎プレーで注意を受けます。

 

 しかし、練習の後半になればもうコーチのイメージする走行レーンを完全にトレースできているのです。

 歩幅の違う選手はそれなりに違う動きで、時間的なタイミングもコース取りもピッタリです。僕は幸い昨年度にさんざん練習しましたし、日本に帰っている間にも練習をしていましたので、今年はそれほど問題なくクリアし、強さや早さに意識をフォーカスせずともコーチから「ヨシ!」が出ました。

 

 これは、僕が最近若い選手たちをコーチする時に最も時間を費やす事柄の一つです。

 NFL選手は少しのレクチャーでできるのに対して、日本の選手は膨大な時間を使わなくてはマスターできません。

 毎回同じ動きを再現するという体の使い方が、アメリカ人と比べて劣っているのでしょう。

 これを「タモン式RB養成所」では「素振り」と呼んでおり、いつどんな時でも確実に同じ動きができるようになるまで反復してもらいます。

 コーチの用意した作戦を遂行するためには、時計のように正確に動き続けることが大切です。それができて初めて「闘い」や「勝負」に意識を集中できるわけですから。

 

 僕自身もこの時30歳。常識で考えればプロスポーツを始める年齢ではありません。

 もちろんあわよくばうまく事が運んでNFL入りできればいいなと思ってはいますが、どだい無理な話なのは百も承知で海を渡って来ています。

 昨年度のシーズンで、アメリカ人のフットボールから勉強したことをほんの少し使っただけで、日本のリーグである程度成功できました。

 

 「今年はもっともっとNFLのフットボールを徹底的に学んで、日本に輸入してやるぞ!」という、一歩引いた気持ちでの挑戦になっています。

 NFL選手の魂を込めた1プレーが、どれだけすごいかを知る者の中の一人として、このコラムやコーチ活動で普及していきたいと思っています。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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