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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

元日航パイロット候補生の決断 NFL挑戦の李卓さん「言い訳しない」

2019.3.6 13:16
NFL挑戦のため渡米した李卓さん=2月2日、成田空港
NFL挑戦のため渡米した李卓さん=2月2日、成田空港

 

 一つの夢を胸にしまった若者が2月、もう一つの夢に挑むため、単身渡米した。

 日航が自社養成するパイロットの候補生だった李卓さん(24)。大学生当時、アメリカンフットボールの日本代表に選ばれた逸材は、先輩機長の「言い訳をしない」という言葉を胸に、最高峰の米プロフットボールNFLを目指す。

 181センチ、89キロ。ポジションは一貫して、攻撃の花形であるランニングバック(RB)。

 愛知県の南山中・高で頭角を現し、慶応大では2年連続で、関東大学リーグのリーディングラッシャーとなった。

 大学3年だった2015年の世界選手権では、大学生で一人だけ日本代表のメンバーに選ばれた。

 

 在日韓国人4世として生まれ、14年には日本国籍を取得。パイロットは、幼いころから「国際色が豊か」と憧れだった。

 17年4月、パイロット候補生として日航に入社し、航空業界のイロハを学ぶため、まずは成田空港での地上業務に配属された。

 勤務の合間にトレーニングに励み、千葉県習志野市を拠点とする日本社会人Xリーグの強豪オービック・シーガルズでプレー。1年目のシーズンで最優秀新人に選ばれるなど、社会人アメフットでも第一線で活躍していた。

Xリーグの強豪オービック・シーガルズでRBとしてプレーする李卓さん
Xリーグの強豪オービック・シーガルズでRBとしてプレーする李卓さん

 

 「アメフットが文化として根付いている街の観客を、自分の走りで沸かせたい」

 今春にはパイロットになるための本格訓練に入るはずだったが、高校時代にアメフットの本場の米国への遠征で感じた情熱を忘れることはなかった。

 二つの夢を載せたてんびんは、揺れ続けていた。高校でアメフット日本一を逃した悔しさ。大空への思いを語り合った同期の候補生。パイロットの訓練が本格化すれば両立は不可能だ。

 「今しかできないことをしなければ一生後悔する」。昨年9月、日航を退社した。

 

 今年2月2日、慣れ親しんだ成田空港から、アメリカン航空機で海を渡った。

 3月から4月にかけてテキサス州で開かれるNFL選手を目標にする選手が集まるキャンプ「スプリングリーグ」に参加。スカウトたちの前で、プレーを披露する。それまでは、アリゾナ州フェニックスで自主トレーニングに励んでいる。

 

 NFLにこれまで日本人のプレーヤーは誕生しておらず、壁は高い。誰もがうらやむ職業に手が届きかけながら、いばらの道を選んだ李さんを支えるのは「言い訳をしない」という言葉。入社が決まった李さんら候補生への講話で、日航機長の三輪邦雄さん(50)が伝えた。

 三輪さんは、言葉に込めた思いについて「人間は弱く、言い訳が癖になってしまったらプロとして失格。常に一歩踏み出す気持ちが大事と伝えたかった」と話す。

 

 渡米前に「どんな局面でも言い訳せず、どうしたら成長できるか考えたい」と語った李さん。

 三輪さんは、初対面での李さんの印象を「まっすぐで強い意志を秘めた目をしていた」と振り返り「自分で決断したことに挑戦できるのは、幸せなこと」とエールを送る。

 

 くしくも、自主トレ施設から車で1時間ほどの距離には、日航パイロットの訓練施設があり、同期の候補生や教官の三輪さんもいる。

 同じ夢を追った仲間がコックピットから見つめる青空の下、フィールドを駆け抜ける日々を過ごす。

 

 フライト中の機長の仕事は、刻々と変化する天候への対応など「決断」の連続とされる。

 自らの可能性を信じ、人生の航路を切り開こうとする若者の決断は、プロフェッショナルだ。(共同通信社社会部記者 丸田晋司)

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