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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

「浪速のやんちゃ坊主」 来季限りで退任する関学大・鳥内秀晃監督

2019.2.13 14:29 宍戸 博昭 ししど・ひろあき
昨年の甲子園ボウル出場を決め選手に話しかける、関学大の鳥内秀晃監督=大阪・万博記念競技場
昨年の甲子園ボウル出場を決め選手、スタッフに話しかける関学大の鳥内秀晃監督=大阪・万博記念競技場

 

 関学大の鳥内秀晃監督を「大阪の師匠」と慕う、大相撲の元横綱稀勢の里関本人から電話があったのは、引退を決意する直前だったそうだ。

 鳥内監督は振り返る。「彼の気持ちが痛いほど分かるだけに、声を聞いたらこっちが泣けてきて、何も話せなくなってしまった」

 

 「〝鳥さん〟も涙もろくなったな」と感じたのは数年前からだ。

 ライスボウルで、社会人の厚い壁にはね返された「ファイターズ」の選手、スタッフを前にした試合後のハドルで、目を赤くしながら震える声で自らの力不足を侘びるのだ。

 

 ボンボンの中に、一人だけ混じっている浪速のやんちゃ坊主。甲子園ボウルで2度対戦した鳥内監督の学生時代の印象だ。

 関学大の監督を務めた父・昭人さん(故人=本名隆一)の影響で、大学からアメリカンフットボールを始めた鳥内監督は、下級生の頃からキッカー(K)、ディフェンスバック(DB)として試合に出場していた。

 

 4度出場した甲子園ボウルは、いずれも日大に敗れた。この屈辱的な経験が鳥内監督が指導者を目指した原点である。

 大学を卒業後、約4年間の米国へのコーチ留学を経て母校のコーチになり、1992年に監督に就任した。

 

 当時はライバルの京大に加え立命大が台頭し、苦戦が続いていた。「勝てないとOBからいろいろ言われてしんどかった」という。常勝チームを率いるリーダーの宿命だ。

 

 2002年から05年までの4年間は、一度も甲子園ボウルに進出できない時代もあった。

 関学大が出場しない甲子園ボウル前夜。大阪市内の居酒屋で、努めて強気に振る舞いながら、時々見せる寂しげな表情をよく覚えている。

 

 大阪市城東区にある、大正14年創業の製麺会社の3代目社長として、早朝から従業員と仕込みや配達をしてから上ケ原の練習場に向かう。

鳥内監督と次男の將希さん
鳥内監督と次男の將希さん

 3人の息子たちもファイターズの選手として活躍。今は商社の米国駐在員をしている次男の將希さんに、優勝した甲子園ボウルで「お父さんって、どんな人?」と聞いたことがある。

 「朝早くから仕事をして、夜遅くまでビデオを見てフットボールの研究をしている。だから……」。言葉を詰まらせる將希さんから、父親への深い感謝の気持ちが伝わってきた。

富士通に敗れた今年のライスボウルでの鳥内監督=東京ドーム
富士通に敗れた今年のライスボウルでの鳥内監督=東京ドーム

 

 製麺会社の屋号は「関目東京屋」だが「東京と赤(日大)は大嫌い」。それは彼一流のジョークであることは誰もが知っている。

 人を惹きつける天性の話術を持ち合わせていて、記者から見ると「字になる男」となる。

 

 上京すれば、米国留学時代に現地で世話になった日大OBが経営する店にひょっこり現れ、昔話に花を咲かせる。細かい気遣いができる人なのである。

 昨年5月の定期戦で起きた「危険な反則タックル問題」で、関係がぎくしゃくしているライバル日大の本当の意味での復活を願っているのも鳥内監督だ。

 「強いとか弱いではなく、今の日大は俺の知っている日大とは、なんかちゃうねんな」

 

 11年からの4連覇を含め、ファイターズを大学日本一に11度導いた名将が、28年目となる今秋のシーズンを最後に退任する意向を表明した。

 「次の体制が整いつつある」というのがその理由だが、元号が変わる今年は、鳥内監督にとっては集大成のシーズンになる。

 

鳥内監督と元横綱稀勢の里関
鳥内監督と元横綱稀勢の里関

 3月10日には、浪速に春の訪れを告げる大相撲大阪場所が初日を迎える。

 親方「荒磯」を襲名し大阪にやって来る元横綱に、鳥内監督はいつものようにうどんを差し入れてこう聞くのかもしれない。「どんな指導者になって、どんな力士を育てんねん」―。

宍戸 博昭 ししど・ひろあき

名前 :宍戸 博昭 ししど・ひろあき

プロフィール:1982年共同通信社入社。運動記者として、アトランタ五輪、テニスのウィンブルドン選手権、ボクシングなどスポーツ全般を取材。日本大学時代、「甲子園ボウル」にディフェンスバック、キックオフ、パントリターナーとして3度出場し、2度優勝。日本学生選抜選出。NHK―BSでNFL解説を20年以上務めている。

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