メニュー 閉じる
スポーツ

スポーツ

週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

フィールド解説者席から見えた風景 第53回「スーパーボウル」

2019.2.12 13:03 生沢 浩 いけざわ・ひろし
第53回スーパーボウルで、NHK―BSのフィールド解説者を務めた生沢浩さん
第53回スーパーボウルで、NHK―BSのフィールド解説者を務めた生沢浩さん

 

 ペイトリオッツの6度目の優勝で幕を閉じた第53回スーパーボウル。筆者はNHK―BSの「フィールド解説」という立場で取材させていただいた。

 ジャパンタイムズでの仕事も含めて今回で19回目のスーパーボウル取材だったが、ゲームを終始フィールドレベルで観戦するのは初めての体験だった。

 NHKにあてがわれたのはラムズのチームエリア側のフィールドで、ラムズのロゴが描かれたエンドゾーン側から15ヤードの位置、サイドラインからは10メートルも離れていない絶好の場所だった。

 そこにフィールド取材を許された各国のテレビ局がひしめき、それぞれにリポートをする。ちなみにNHKの両隣はともにメキシコのテレビ局だった。

 

 使用できるエリアは約1×2メートルほどと狭く、そこにカメラマンと二人。基本的にインプレー中はそのエリアから出ることはできない。

 すぐ後ろは観客席で、興奮したファンにビールでも浴びせかけられるのではないかと不安になったほどだ。

フィールド解説者席から見える風景
フィールド解説者席から見える風景

 

 スーパーボウルは今回も、対戦する両チームにとって中立の場所で開催された。

 クラウドノイズが起きにくいというのが一般的な認識だが、最近ではブーイングも起こればクラウドノイズも発生する。

 さすがにレギュラーシーズンゲームほどではないが、それでも約8万人から一斉に発せられる歓声は想像を絶する。それはもう「声の集合体」ではなく大きな「音のうねり」でしかない。

 放送席とのやり取りで実況の声はもちろん、自分の声すらも聞こえづらいほどだった。

 

 スーパーボウルの迫力を味わうには最適のフィールド上も試合の観戦という点では難があった。

 プレーがなんとも見にくいのである。逆サイドのエンドゾーン近くのプレーはラムズのチームエリアに阻まれて肉眼では見ることができない。

 近いほうのエンドゾーンのプレーは見えるのだが、目の前でチアリーダーがパフォーマンスをしているので、視界はよくない。

 休憩用に用意された椅子の上に膝立ちになって、ようやくリポートできるだけの視界を確保することができた。

 

 とはいえ、肉眼で見るパスの軌道は迫力があった。普段はテレビやスタンド上段のプレスボックスから見下ろすパスを、フィールド上から見上げることができる。

 実際には大歓声の中で見たはずなのに、記憶の中にある映像は無音の中で放物線を描くパスだ。それほど強烈な印象を受けた。

 

 ラムズのオフェンスが始まるとPジョニー・ヘッカーがロングスナッパーのジェイク・マクエイドとウオーミングアップを始める。

 それがいつもNHKのエリアの目の前だった。放送でも紹介したが、ヘッカーのウオーミングアップはキャッチボールから始まる。それも「肩慣らし」ではなく、かなり真剣なパス練習だ。

 まるで控えQBがフィールド上に出るためのスタンバイをしているかのようである。パントフォーメーションからのフェイクパスも多いヘッカーらしいウオーミングアップだった。

 

 このようなリポートをする以外に、「フィールド解説」の大きな役割は試合後に選手の談話をとることだった。これが大きなプレッシャーだった。

 ポストゲーム取材を許されたメディアは試合終了から2分後にフィールド内に立ち入ることができる。

 そのころには優勝チームの選手の家族もフィールド上に入っているから多くの人でごった返す。その中をカメラマンと二人で「突撃取材」をするのだ。

 

 カメラはケーブルで繋がれているので動きが制限される。筆者とカメラマンの間にもケーブルがあるので離れ離れになることはできない。

 試合直後は誰もが極度の興奮状態にあり、祝福ムードの中でメディアなど眼中に入らない選手が多い。メディアにとっては極めて取材しにくい環境なのだ。

 そこで筆者が考えたのが背後から忍び寄る作戦だ。〝ブラインドサイド〟から選手に近づいて背中に触れながらファーストネームを呼ぶ。思わず振り返ったところでマイクを差し出し、「コングラチュレーションズ!」と声を掛けるのだ。これはうまくいった。

 DEディートリッチ・ワイズJr.もTEドウェイン・アレンもこれで談話をとることができた。

 

 ポストゲームインタビューで筆者のターゲットはマコーティー兄弟だった。SデビンとCBジェームズはスーパーボウル史上初めて同じチームで試合に出た双子だ。

 ともにこの試合に勝てば引退を表明していたので、その談話を聞きたかった。

 

 運よく二人がいるところに出くわしたのだが、それこそ多くの人に祝福されてなかなか近づけない。

 しかも、優勝記念Tシャツを着始めていて、背番号が隠れてしまうとどちらがどちらだかわからなくなってしまう。それほど二人はそっくりなのだ。

 

 あきらめてマコーティー兄弟から離れた瞬間に目に入ったのがTEロブ・グロンカウスキーだった。

 QBトム・ブレイディもそうだが、優勝チームの主要選手やHCはアメリカのテレビ局に占有されることが多いので、なかなかインタビューができない。

 そこにグロンカウスキーが歩いてきたのだから筆者も色めき立ってしまった。

 

 案の定、多くのメディアに囲まれていたが、タイミングが良かったのかうまい具合に筆者の質問に反応して答えてくれた。

 筆者にとっては何とか重責を果たしたと、ほっとした瞬間でもあった。

会場となったメルセデスベンツスタジアムの開閉式の屋根
会場となったメルセデスベンツスタジアムの開閉式の屋根

 

 ビンス・ロンバルディ杯授与式の際にトロフィーのすぐ横に立つ筆者がテレビに映ったために「いいポジションをとったね」とよく言われるが、これも半分は偶然だ。

 試合でインターセプトを決めたCBステフォン・ギルモアにインタビューした後、ほかの選手を探してさまよう間にプレゼンテーションの準備に出くわした。まさにトロフィーに手が届く距離(もちろん触りはしなかったが)だったのでそのまま居座ったのだ。

 おかげでトロフィーが元ペイトリオッツDTのビンス・ウィルフォークの手にわたって殿堂入りのエミット・スミス(元カウボーイズRB)、ジョー・ネイマス(元ジェッツQB)を介してペイトリオッツに渡されるプロセスをリポートすることができた。

 

 さて、スーパーボウルとともに2018年シーズンも幕を閉じた。シーズン終了に寂しさを感じるのは例年のことだが、すでに各チームは新たなシーズンに向けてスタートを切っている。

 その動きをまた丁寧に追いつつ、このコラムでも紹介していきたい。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

最新記事