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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

環境が育てた名WR スーパーボウルMVPジュリアン・エデルマン

2019.2.4 17:28 生沢 浩 いけざわ・ひろし
パスをキャッチした後、相手のタックルをかわすペイトリオッツのWRエデルマン(11)(AP=共同)
パスをキャッチした後、相手のタックルをかわすペイトリオッツのWRエデルマン(11)(AP=共同)

 

 ジョージア州アトランタで行われたNFLの第53回「スーパーボウル」は予想に反するロースコアの試合となり、AFC代表のニューイングランド・ペイトリオッツがNFC代表のロサンゼルス・ラムズを13―3で破り、スティーラーズに並ぶ史上最多となる六つ目のビンス・ロンバルディ杯を手に入れた。

 

 ラムズはレギュラーシーズンでの1試合平均得点がリーグ2位の32・9点、ペイトリオッツが27・3点で同4位だったから、派手なシュートアウトゲームになるのではと見られていた。

 だが、実際には非常にディフェンシブな試合で、スティーブン・ゴストコウスキーの2FGと新人RBソニー・ミシェルのTDランで得点したペイトリオッツが勝利した。

 

 MVPにはWRジュリアン・エデルマンが選ばれた。ファンの投票によるこの選出に疑問を持った人も多いのではないだろうか。

 試合で唯一のTDを決めたのはミシェルだし、勝利を決定づけるインターセプトをしたCBステフォン・ギルモアも有力候補だった。

 総合的判断でQBトム・ブレイディの可能性もなくはなかった。いずれにせよ、ビッグプレーという観点からエデルマンの印象は薄かったと言わざるを得ないのだ。

勝利を決定づけるインターセプトをするペイトリオッツのCBギルモア(AP=共同)
勝利を決定づけるインターセプトをするペイトリオッツのCBギルモア(AP=共同)

 

 一方でいかにもペイトリオッツらしい選手が選ばれたとも言える。

 NFL9年目のシーズンを最もいい形で終えたエデルマンだが、彼を形容するとき「リーグ屈指の」とか「NFLを代表する」といった文言はほとんどつかない。

 その意味でエデルマンはチームメートのTEロブ・グロンカウスキーやブレイディのようなスーパースターとは違う。

 

 しかし、エデルマンには(グロンカウスキーを除いて)ほかのレシーバーには与えられない称号がある。それは「ブレイディのナンバーワンターゲット」だ。これは彼に対する最大の賛辞にほかならない。

 

 今季は禁止薬物使用による出場停止処分で開幕から4試合に欠場したことも響いて、パスキャッチ(74)はチーム2位だったが、獲得距離(850ヤード)はチームトップ、TD数(6)もミシェルと並ぶチーム最多だった。

 

 プレーオフに入ってからは26回のパスキャッチで388ヤードとオフェンスの中心となる活躍をした。

 サードダウンでターゲットになることが多く、エデルマンがブレイディのパスをキャッチするたびにファーストダウンが更新されていくという印象すら抱かせる。

 

 エデルマンはルートランニングが巧みで、それによってディフェンダーを振り切ってオープン(ノーマーク)になることが多い。

 ルートランニングが「巧み」といったのは、プレーによってルートを変えることがあり、そこにブレイディとの完璧なコミュニケーションがあるからだ。

 

 その好例がAFC決勝のチーフス戦であった。7―0とリードした第1クオーター残り32秒で、チーフス陣内10ヤードでサードダウン2ヤードの場面だ。

 左からモーションして右スロットに位置したエデルマンは、スナップと同時に縦にまっすぐ走る。このとき、彼のインモーションについてきたチーフスのDBチャバリアス・ウォードがエデルマンの位置よりもやや内寄りに守っていることに気づく。

 そこで3ヤードほど縦に進んだところでウォードから遠ざかるアウトサイドに方向転換し一歩リードする形を作った。

 

 これをブレイディが見逃すはずもなく、エデルマンのパスキャッチでペイトリオッツはファーストダウンを更新することに成功したのだ。

 この試合のテレビ解説者のトニー・ロモ(元カウボーイズQB)は「イッツ・イージー」と評したが、これは「簡単なパスだ」という意味ではなく、「(エデルマンがこういうパスコースを走れば)簡単にパスが通る」との意味だ。つまり、エデルマンの判断によってパスが通りやすくなったということだ。

MVPに選ばれ、メディアの質問に答えるペイトリオッツのWRエデルマン(AP=共同)
MVPに選ばれ、メディアの質問に答えるペイトリオッツのWRエデルマン(AP=共同)

 エデルマンは身長が178センチで、NFLのWRの水準ではないし、特別スピードがあるわけでもない。

 その彼がここまで一線で活躍できているのは、正確なルートを走ることによってブレイディが投げやすい状況を作ることができるからだ。

 もちろん、ブレイディが望むことを正確に把握し、ディフェンダーの動きに合わせてブレイディと同じ判断を下せることが大前提になる。

 

 エデルマンはケント州立大学でQBとしてプレーした。2009年のドラフトでは評価が低く、ペイトリオッツがWRとして7巡で指名しただけだった。

 カナディアンフットボール(CFL)のチームからQBとして誘いを受けたが、ポジションを変更してでもNFLでプレーする道を選んだ。それが正解だったことは言うまでもない。

 

 身体能力がそれほど高くない選手を一流に育ててしまうところに、ペイトリオッツの常勝チームたるゆえんがあるのだが、エデルマンもペイトリオッツの環境でトップレシーバーの仲間入りを果たした一人だ。

 彼がもしほかのチームに指名され、ブレイディやビル・ベリチックHCに出会うことがなかったら、ここまで選手になれたかどうかは疑問だ。

 エデルマンこそが、ペイトリオッツというチーム環境で育つべくして育った人材なのだ。

 

 スタッツにおけるタイトルやNFLの表彰にほとんど無縁だったエデルマンだが、ようやくスーパーボウルMVPという大きな勲章を得た。

 それは数字にはなかなか表れない、エデルマンの魅力と長所がようやく正当に評価された結果なのだ。

 

試合後の記者会見で質問に答えるペイトリオッツのベリチックHC(AP=共同)
試合後の記者会見で質問に答えるペイトリオッツのベリチックHC(AP=共同)

 

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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