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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

「学生は勉強の場として割り切れ」 多聞が語るライスボウル論

2019.1.10 11:45 中村 多聞 なかむら・たもん
ライスボウルの最優秀選手に選ばれた、富士通のRBニクソン選手(16)=撮影:武部真
ライスボウルの最優秀選手に選ばれた、富士通のRBニクソン選手(16)=撮影:武部真

 

 皆さま新年でございますね。昨年はお世話になりました。本年も宜しくお願いします。

 年明け早々アメリカンフットボール界のニュースと言えば、やはり日本一決定戦であるライスボウルでしょう。

 学生ナンバーワンと社会人ナンバーワンが対決し、近年は社会人が10連勝しています。

 日本選手権となってからの36年目の今回は、富士通が52―17で関西学院大学に勝ち「シラけた」などと言われる優勝決定戦となりました。

 

 今から30年前、1989年のライスボウルは、6年連続出場のレナウン・ローバーズが4年ぶりに復活した日大フェニックスと対戦し、40点差で日本大学が圧倒的勝利。日本大学はそこから91年まで、学生では最初で最後のライスボウル3連覇を達成しました。

 

 僕はその時ちょうど大学4年生。今ではノジマ相模原ライズで一緒の須永ヘッドコーチがエースQBだった当時最強の日本大学の戦いぶりを、羨望のまなざしでテレビ観戦していました。

 当時はバブルの影響で社会人チームが乱立。しっかり練習するというよりも学生時代に働きがよかった選手を集めて2、3年軽く楽しむといったレベルでしたから、無敵を誇った日本大学にはかないませんでした。

 

 その頃はもちろんSNSなどありませんから「腑抜けた社会人と命がけの学生が日本選手権で戦うなどナンセンスだ」なんて言う人たちがいたとしても、誰の耳にも届きませんでした。

 92年からは社会人の4連勝でしたが、ほとんどが小差の試合。「アメリカンフットボール」はドラマチックでエキサイティングなスポーツと印象付けるには大きな役割を果たしました。

 正月3日は、とりあえずテレビをつければNHKの手練れのアナウンサーが、見ている人に分かりやすく楽しめる工夫に満ちた放送をしていました。

 

 ただ、日本大学が3連勝した後の10年間は社会人が9勝しています。39点差の試合が2度。この辺りで時代は「社会人優位」となってきました。

 僕がアサヒ飲料チャレンジャーズの一員として出場し、法政大学に勝利した2001年が39点差です。

 試合終盤の第4Qにチーム員全員が出場し思い出を作りました。その時すでに50点差がついており、39点差まで追い上げられたので実際にそのまま手を緩めず戦い続けたらどんな事になったかわかりません。

 それは今年の試合でも、第4Qから控えの選手が出場していた富士通も同様ですね。

 

 社会人優位になった(と言われる)92年から今年までの平均点差はたったの11点です。

 社会人の23勝5敗。1タッチダウン差で社会人が辛勝しているのが7度。これがほんの少し違っていて社会人が負けていれば16勝12敗となり、それほどメチャクチャな数字ではなくなります。

 

 アメリカ人選手がいるから、社会人の方が大きいから、経験が豊かだからとまあ社会人有利と考える理由はいろいろありますよね。

 でもね、強豪大学の選手は入学した時から最終的な敵はそんな社会人チームだと分かりきっていたはずです。

 

 例えば僕の所属する早稲田大学ですと、生活費や学費を稼ぐために働きながらクラブ活動している人はほとんどいないはずです。

 海外の大学生のように勉強しまくるわけではなく、毎日数時間の授業を受ければ即フットボールの時間です。

 ミーティングやトレーニング、そしてチーム練習として使っている時間の中で「打倒社会人!」を掲げるチームはなく、基本は同リーグ内プラス関西リーグの強豪校を見据えた年間スケジュールが組まれています。

 

 社会人チームがどんなものか、誰も興味ありません。春にノジマ相模原と練習試合が決まり「相手は大きくて強いよ!」なんて発破をかけると「だからって僕はそんなに押されませんよ(笑)」と返答した下級生のラインマンもいました。

 「どんな選手が居るか知ってるの?」と尋ねましたが、日本代表経験者や、強豪大学の主将をしていたような人だけが社会人1部リーグでプレーしていることすら知らない様子でした。

 

 下級生のラインマンが125キロの熟練選手に予備知識なしに正面から向かっていっても勝てません。

 しかし相手もNFL選手ではありませんし、対抗手段を講じて練習に練習を重ねればどうにかなる相手です。でも、そもそも知らないのです。このように関心もなく知識もないのが大学生にとっての社会人チームなのです。

 

 僕は社会人時代ライスボウルに出場していますが、やはり学生リーグには関心がなく、相手チーム主将の名前を知っている程度でした。

 ビデオを見ることもしませんでした。相手になるわけがないと勝手に考えていましたので。

 自分たちの真の目標は社会人リーグ制覇であり、ライスボウルはいわばオマケ。昔でいうオールスターゲームのような感覚で、単に「ご褒美試合」と捉えていました。

 

 しかしいざ優勝してみると、社会人リーグ制覇の時(大阪で地上波は当日の深夜)よりNHKの地上波でライブ中継するライスボウルの方が、世間の注目度ははるかに上で、とても多くの皆さんからお祝いの言葉を頂戴したものです。

 しかし、今は地上波ではなくBSでの放送しかありませんし、お正月だからと家族でのんびりテレビを見る時代でもありません。

 テレビでライスボウルを見る人の数は著しく減ったと思います。翌日の朝刊も、主催社以外は大したスペースを使っていません。

 

 今年は大きく強く速いアメリカ人RBが、富士通の強さを象徴する働きをして、最優秀選手になりました。

 アメリカンフットボールというものがよく分からない人には確かに強い社会人がアメリカ人を擁して体力的に劣る学生をいじめているように見えると思います。

 試合のスコアボードだけを見るとそうでしょう。これだけ差がつく決勝戦だし、もうライスボウルの役割は終わったのではないかとネット上では話題です。

 

 「ライスボウルはどっちが勝つかな?」という展開は、超強豪じゃない社会人チームがうまくリーグを勝ち抜いて出場すれば実現するかもしれませんが、これがなかなか難しい。

 80年代のレナウン王朝から昨今の富士通まででライスボウルに出場したチームはわずか八つ。マグレでの出場は僕がいたアサヒ飲料だけです。

 社会人のリーグ戦も今季からシステムが変わりますが、マグレを許さない仕組みになりました。

 

 そこで結局何が言いたいのか? いきなりライスボウルがなくなったりすれば別ですが、学生さん側は「次元が違いすぎる」「死ぬ気でやってこいと指示できない」と完全降伏宣言をするならば、ライスボウルを勉強の場として割り切ればいいのです。

 20年前に僕らが海を渡り本物のNFL選手の中で修行し、大きな大きな経験を知識化して日本に持ち帰りました。

 自分以外が全員NFL選手の中で人生を懸けた勝負の中に放り込まれ、恐怖と戦いながら必死で生き延びてきました。

 そんな超ド級の経験があったからこそ、帰国後に僕がフットボールで成功できたのです。勝負勝負と無理をせず、プロ選手たちの生態を穴があくほど観察して勉強してきました。

 

 4年間しかチームに関われない大学生は、自分がいなくなった後のチームへの愛が社会人のそれとは全く別物です。

 その年のライスボウルで学んだことを来年以降のチームに残す貴重な財産として蓄えていく土壌を作っていくべきです。

 年に1チームしか招待されない特別なゲームに何が何でも進出し「スペシャル」を得ればいいのです。

 

 プレーオフやチャンピオンシップを勝ち進むとチーム力はグンと上がります。

 毎年同じチームだけがライスボウルでいろいろ学んでいてはどんどん差が開いてしまいます。2019年も早稲田大学はもちろんのこと、他の大学も打倒関西学院大学を目標としてともに頑張っていきましょう。

 

 そういう訳で打倒富士通、打倒関西学院大学は全国のフットボール関係者共通のキーワードでございます。

 今回大活躍した富士通のRBニクソン選手すごさの秘密、大学リーグで良い成績を収めた早稲田大学のRBの練習方法や考え方を、このオフシーズンに一般の皆様に勉強していただく機会として毎年開催しております「タモン式RB養成所2日間集中レッスン」の開催が決まりました。関東エリアでは1月の19日と20日です。

 興味のある方はこちらまでお問い合わせください。info@qbdojo.com

 お申し込みはこちら :https://goo.gl/z4WUXJ

クリニックを主催する中村多聞さんと参加者による記念撮影
クリニックを主催する中村多聞さんと参加者による記念撮影

 

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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