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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

「上級者」への道はただ一つ 心を鍛え練習あるのみ

2018.12.27 11:25 中村 多聞 なかむら・たもん
オフのトレーニングに励む早稲田大学の選手たち=東京・代々木公園
オフのトレーニングに励む早稲田大学の選手たち=東京・代々木公園

 

 最近、家にたくさんあるVHSテープに録画された過去の古い試合をDVDにダビングする作業をしています。多くの試合を見ている中で、ふと気付いたことがありました。

 もちろん僕はボールを持っている人を追うのですが、ボールキャリアには2種類あることに気づきました。

 テレビ放送されていますので、確実に1部リーグの学生や社会人の試合です。つまり「出演者は皆さん一流である」と定義づけてもそれほど乱暴ではないでしょう。

 

 まず一つ目のタイプです。それはズバリ「タックルされたくない」という気持ちが強い人です。

 ボールキャリアは多くの場合ランニングバック(RB)ではありますが、どのポジションでもだいたい同じような印象を持ちました。

 もう一つのタイプは、もちろん「とにかく最後までもがいて暴れて前進してやろう。相手のタックルなんて怖いと感じたことない!」という普通の選手です。

 

 「え? ボールキャリアは誰だってタックルされたくないのでは?」。ええその通りです。もちろんそうです。たくさんタックルされたいと思っている選手など皆無です。

 僕だって現役選手の頃は「今日は1度もタックルされずに活躍してやろう!」なんて考える日もありましたから。

 

 タックルされたくない。そこだけを切り取るからややこしいのですね。つまりタックルされたくないという気持ちが「少しでも前に進む」という当初の目的よりも強く表に出ている人が存在するのです。

 敵にボールを持っていることが見つかってしまい、逃げることに夢中になるや否や前進する気持ちを喪失するのです。

 その目的がガラスのように砕けるのか、落し物としてどこかに落とすのかは不明ですが、何をしに出てきたのか全くわからない選手が存在するのですね。

 

 マトモな人間ですと、体当たりされそうになっても全く気にせずそのまま自分の道を行ける精神力は持ち合わせていないでしょう。

 そうなのです。その選手は至ってマトモな人間なのです。生物としてけがをする危険をいち早く察知して身を守る。

 それは自分の命や家族の命を守ることにもつながる誰しもが持っている本能でしょう。

 

 ただし、激しい体当たりがあるのが最初から分かっている極めて特殊な競技を選択したのは自分であり、活躍したり勝利したりを目標に活動しているのも自分の意思のはずです。

 ボールを持って走れば毎日体を鍛えてタックルの練習ばかりしている大男たちに激しく体当たりされるのは承知の上でプレーしているはずなのに、どうしてそれほど嫌がるのでしょうか。

 

 おそらくですけど、推測ですけど、心の奥では多分怖いんです。怖がっているのです。

 過去にどんな嫌な目に遭ったのか分かりませんが、競技中の恐怖にはいろいろな種類があります。要するに恐怖から逃れたいがために、エネルギーをそちらに向けすぎてしまうのでしょう。

 

 残念ながらこのような人は指導しても上達が非常に遅いことも分かってきました。

 「怖がらずに突っ込めよこのヘタレ!」なんて叱咤したところで、恐怖が心を支配しているのでその恐怖に打ち勝とうとするあまり、逆に気持ちが入りすぎて体中に力が入って硬くなったりで、持ち前のしなやかで俊敏な能力を「逃げる」というベクトルに向けすぎてしまうようです。

 

 エンドゾーン方向に逃げられる場合はナイスゲインやナイスプレーとなるのでいいのですが、基本は敵と激突せずとにかく逃げたいので、残念なことにその向きは敵陣に向かった縦方向ではなく、横方向になるのがほとんどです。

 

 顔を下げるか目を閉じるかして「エイヤー!」とテキトーに相手に突っ込むタイプの人もいます。

 下を向くとか目を閉じるという行為は、現実から目をそらす最も簡単な方法ですので彼らはこれを多用します。

 しかし、目を閉じたまま前が見えないまま、通常時と同じ速度と力強さで約20人がひしめくフィールドを駆け抜けられるはずはありません。

 

 これはどうやら体が大きい小さい、強い弱いとは比例しないようです。初心者の時にやっていた練習方法が原因なのか、それとも生まれつきの怖がりなのか、そもそも練習量が足らないのか、原因はわかりませんがとにかく心の問題です。

 しかしそこにゆっくり時間をかけなければいけない選手は、本場米国だと淘汰されて選手生命は終わりですが、日本では何かほんの少しの才能があればチームに存在することが許されてしまいます。

 

 痛む体や折れそうになる心にムチ打って、最初から最後までハードにプレーし続けられること。テレビに映るレベルのフットボール選手であれば、それがスタートラインだと思います。

 「いつかは2部に上がろう!」なんてレベルやっていた僕ですが、上のレベルに行けば行くほどそんな弱虫は減っていきました。

 

 パワハラ問題もあり、怖がっていたり痛がっている人に「無理してガンバレ」は通用しない時代です。

 けがを負うリスクを抱えて体当たりの練習をたくさんするか、けがしないように柔らかく練習するか、この線引きに正しい答えはありません。

 怖がらず敵をかわし安全に体当たりできる「上級者」になるには、とにかく練習しかありません。

 

 「心技体」という言葉がありますが、RBはこの三つのキーワードをもっと分解してそれぞれを鍛え上げていく必要があります。これはまた次回以降に検証していきたいと思います。

 

 皆さん、今年も僕のコラムを読んでくださりありがとうございました。良い年をお迎えください。

 1月3日のライスボウルが楽しみです。またお会いしましょう!

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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