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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

これぞコーチ冥利 教え子が理想の走りでタッチダウン 

2018.12.6 10:00 中村 多聞 なかむら・たもん
2年ぶりの甲子園ボウル出場を決めて喜ぶ早大の選手と中村多聞コーチ(右端)=写真提供・早稲田スポーツ
2年ぶりに関東大学1部TOP8を制した早大の選手と中村多聞コーチ(右端)=写真提供・早稲田スポーツ

 

 ランニングバック(RB)には走り方、ぶつかり方、逃げ方、パスの捕り方など、多種多様なテクニックがありますが、そこには必ず目的が存在します。

 全ての行動はその結果に向かうためですので、目標を明確にする必要があります。ボールキャリアであればゲインすることが目標ではなく、エンドゾーンまで行くことが目標であり目的です。ですからボールをキャリーした場合には、常に意識がそこに向かっていなくてはなりません。

 

 敵に不意を突かれた場合でも、自分の目的や仕事はビックリしたり敵をかわしたりではなく、エンドゾーンまで行くことであるということを、脳みそだけでなく細胞の全てにまで植え付けてしまわねばなりません。

 脳で考えるのではなく反射的にそうなる必要があります。試合での行動には全て練習が必要で、その為には求められる正しい結果を知識化し癖づけておく必要があります。

 

 選手は同じことや同じようなことを毎日毎日うんざりするほど聞かされてきたことでしょう。

 しかし、それも先に「俺が何度も同じことを言うときは、君たちが分かってへん時か俺が酔っ払ってる時や!」と申告済みです。

 「僕が嫌なら別枠で練習するもよし、僕が辞めてもよし。僕は君らが求めてくれるから存在しているので、不要ならスグに言うてくれ。明日からもう来ないし関わらないから」とも言ってありました。

 

 雪の降る寒い日も、立っているだけで辛いほどの灼熱の真夏も、あらゆる場所であらゆる鍛錬を重ね時間をともに過ごしてきたところでだんだんと信頼関係が構築され、今秋のシーズンに臨みました。

 試合でやるべきことを練習で徹底的にこなし、あとは静かな心で練習してきたことを全力でやる。それが良い結果に結びつくこともあればそうではないこともあります。

 

 相手投手が投げた最高の決め球をバットの真芯で捕らえて力いっぱい振り抜いたとしても、誰かのグラブに入ってしまいアウトになるかもしれません。

 なので結果ばかりを重要視しません。僕の見立てで本人なりのベストを尽くしていればそれでよし。

 結果が駄目だった場合は「しゃあない」で、うまくいったら「遅い!」と叱ります。もちろん全然褒めません。

 わざわざ褒めなきゃ頑張れない選手などトップを取れるわけがないのです。必要なことをアナウンスしてそれができればいい。これが「タモン式」です。

 

 僕は、海外のプロを経験してXリーグのアサヒ飲料時代にメキメキと上達し、チームの勝利に貢献できるようになった頃は、結果ばかりを追い求めていました。

 でも、能力が安定してきて優勝した頃には「プレーの結果は問わず、魂を込めていたかどうか」だけを振り返るようになっていました。

 

 そして同じくアサヒ飲料時代に指導しに来てくださっていた第1回スーパーボウルにコーチとして出場したトム・プラットさん(当時65歳・2013年からNFLのアリゾナ・カージナルス)が僕たちの魂に植え付けてくれた「One play at a time」。これを練習の前後にみんなで合唱しろと仰っていました。

 日本語だと「一球入魂」てところでしょうか。こういうのも試合中に集中力が散漫になってきた選手にかける言葉として、現在も大きな意味を持っています。

 

 僕が選手として成功するに至った道を思い出して、毎日指導している(遊んでもらっている)選手たちにこのように経験してきたことを延々と自慢話や苦労話として聞かせています。

 彼らはもっともっと努力できるし、まだまだ余裕が残っていると僕は見ています。とは言っても昔の僕とは覚悟もハングリー度も違いますので、全てをまねろとは言えません。

 しかし、彼らなりの限界ラインで頑張ってきました。おそらく今年度のRBとしての練習は、早稲田大学が日本で一番やってきたと自信を持って言えます。

 

 法政大学戦に勝利して甲子園ボウルに一歩前進したことで、その努力は報われました。

 リードして迎えた後半、だめ押しのタッチダウンをエースの7番元山伊織(豊中高校出身)が25ヤードほどを駆け抜けました。

 後ろから見ていてプレーが始まった瞬間に「行った」と分かりました。これで(得失点差も含めて)逆転されることは考えにくくなり、一つの目標が達成されたのです。

 僕にイジメまくられてもイジメまくられても耐えて耐えて食らいついて来た彼(ら)に教えた走り方が、パーフェクトに発揮された二重丸な走行でした。

 

 タイミング、選択したコース、アクセラレーション、力強さ、視線、重心、力の抜け具合、ストライド、そしてそれを支えた自身による心の安定感。実力的に今回のはマグレなのですが、強敵相手の試合でそれを発揮できるまでになりました。

 それを見た僕は感動して涙が溢れ出て止まりませんでした。誰にも見られないように隅っこで上を向いていました。

 勝って嬉し泣きは18年ぶりです。もちろんコーチになってからは初めてです。こんなに心が躍り幸せな気持ちにさせてくれたフットボールとチームの関係者に感謝しながら、次に戦う準備を開始しました。

 

 今日もLINE(ヤングはLINEじゃないと連絡がつきません)で数人の選手を叱りました。

 連絡もロクにできず、「4年生がいなくなって、来年も同じクオリティーの仕事ができるようになるのか!」なんて感じです。さあ今日もハードワーク、ハードワークです!

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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