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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

これぞコーチ冥利 「タモン式」の教え子が東西のリーディングラッシャー

2018.11.29 11:52 中村 多聞 なかむら・たもん
中村多聞さん(左)と早稲田大RB元山伊織選手=撮影:中村匡一
中村多聞さん(左)と早稲田大RB元山伊織選手=撮影:中村匡一

 

 いやー嬉しい! 聞いてください。夏に「タモン式RB養成所」が開催した「渚のゴリゴリキャンプin九十九里」に参加したメンバーが東西の学生リーグでリーディングラッシャーになりました。

 早稲田大学のエースRB元山伊織君とタモン式通信課程2年生、京都大学のRB佐藤航生君です。

 いやー嬉しいです。また来年度もこうやって活躍する選手に関わることができれば、テクニカルコーチとしての楽しみが増えるというものです。

 

 早稲田は東日本で優勝すれば、甲子園ボウル、ライスボウルとチャンピオンシップゲームは続きますのでこれで満足してはいられませんが、公式記録として歴史に残るのはレギュラーシーズンの成績です。

 確かに各チャンピオンシップゲームでの成績も永久に残りますが、レギュラーシーズンで成績を残せる選手は、シーズンを通して試合に出場し続ける強い体の持ち主であり「良いランナー」であると言えるでしょう。

 

 直接指導した選手たちのそのような結果にひとまず安心。コツコツやってきたことが、彼らの類い希な才能と見事に融合。一つの大きな結果を手にしたことに、とても満足しています。

 少し時間を戻しまして、早稲田大学ビッグベアーズは法政大学オレンジとの関東優勝決定戦でレギュラーシーズンが全て終了し、全勝を守り学生日本一決定戦の甲子園ボウル出場まであと1勝となりました。

 

 教え子のRBたちは、僕の思惑通りにフィールドを駆けてくれました。僕自身、このゲーム前はとても落ち着いていられず平常心を保つことが困難でした。

 試合前の練習時に、法政大の有澤玄ヘッドコーチと「コーチって、当日は何もできないしキツいよねー。こればっかりは選手時代の方が良かったよね」なんて笑いながら言葉を交わしました。

 

 昨シーズンの今頃、リーグ戦で日大に敗れた直後に「最終学年の来季は、何が何でも甲子園。どんなに過酷でもついていくから、タモンさんが現役の時にやっていたことを使って俺たちをシゴキまくってくれ」と、選手から依頼を受け2018年度のシーズンを迎えました。

 受ける条件は一つ。「自分に足りないことだけではなく、全ての志を入れ替える覚悟でやってくれ」でした。

 彼らは見事にそれを継続中で、僕の出すあらゆる難問に立ち向かいます。それならばこっちもそれなりの覚悟を持って臨む義務が発生します。

 ですからこの1年はとても充実していました。対象選手は複数名いますので、むしろ自分が選手時代よりも忙しかったかもしれません。

 

 チームの練習は強弱ありますが週に6度。それ以外のトレーニングなどはポジション別でやってはいましたが、中村多聞が過去にやってきたそれとはまるで別物の単なる「お気軽健康体操」でした。

 ここで何度も書いていますが、体づくりはある一定の線までは必ず身になります。ですからそこはとにかくゴリゴリのタモン式でやる。それしかありません。

 

 そして何と言っても彼らにはRBとしての戦闘力アップが最重要課題です。しかし、ほとんど全員が運悪く高校時代からフットボールをたしなんでいたようで「横へ横へと逃げ惑うニッポンハイスクールフットボール病」が全身を蝕んでいました。

 「コラム/最強RBへの道シリーズ」でご紹介したような、これまで先輩に習ってきた常識は間違っているかもしれないよという駄目な例を全て持ち合わせている、とんでもないポンコツのベース車体でした。

 

 これを全国レベルのピカピカにカスタムしていく作業が始まりました。表面の板金塗装だけでなく、フレームの裏側のサビも落とし、一から作り直します。

 所々に素晴らしいパーツが付いていますので、それがより生きてくるようにチューンナップします。

 コツコツと作業するこのレストアは本当にやり甲斐がある反面、彼らの人生がかかっていますので絶対に失敗できません。とにかく基礎から仕上げていきました。

 

 もちろん車体だけでなく、ドライバーの運転技術を訓練するのも僕の仕事ですので、試合で起こり得る局面を想定して話し合うのが大切でした。

 仮想や映像だけでも脳ではいろいろ考えますので繰り返していくと、経験値として積み上がります。

 話をするだけなのでしんどくもありませんから、この訓練は選手たちも気軽に応じてくれます。

 

 授業のない時間帯に1対1で話す時間を作ってもらい、ビデオでの反省やフットボールについての話をします。

 「中村多聞」という人間を全て知ってもらい、中村多聞のフットボール哲学を全て注入しました。

 体の動かし方から敵との戦い方、練習への取り組み方、エースとしての言動、仲間との関係性、栄養やトレーニング、リーダーとしての仕事など、事前に計画的なカリキュラムを用意せず、僕の脳みそにあることを片っ端から話しました。

 

 たいがい我が家で開催しますので、ミーティング後には妻の手料理も出されたりで、遊びにいくような気軽さがあったのかもしれません。

 こうやって時間をかけて、練習中や試合中に感じることを僕と同じ感覚になってもらい、ほんの一言でも極限の現場において意思疎通ができるようになってきました。

 

 とにかく彼らが成長すればそれで良いのですが、僕は早稲田の高岡勝監督のようなキチンとした人間性を持っていない単なる「昔うまかったオッさん」ですので、教えるのは下手です。

 流行の褒めて伸ばすもできません。こう言ったほうが理解してくれる、分かってくれる、自分を好いてくれるという作戦を一切用いず「単に全てを出す」に徹しました。

 徹しましたと言うと頑張ったように聞こえますが、つまるところあくまでも自然体。年下の友人に新しい遊びを教える近所のオッさんなわけです。

 

 自分の子どもと同い年な彼らをマトモな大人として扱い、我々の世界(年代)ではタブーとされるようなことにはイチイチ反応して叱り(例えば挨拶が「チャース」だとか、話しているのにスマホをいじること)中村多聞が何に腹を立て何に喜ぶのかも知ってもらいました。

 練習は試合よりも気持ちを込めて臨む。そのレベルをどんどん上げていけば、困難なシーンでも「今日はタモンに叱られない日」なので「試合をゲーム」として楽しめるまで心の準備をしてきました。

 勝たねばならない、活躍しなければならない時にどれだけの仕事ができるのか。どれだけの結果が残せるのか、心配で心配で大変でした。。。

 

 試合ではいくつものトラブルやドラマがあり、何が起こるかわかりません。当日は彼らのできるはずのことがキチンと発揮されているかどうかに目を光らせたいと思います。

 

 つづく

関西学生リーグのリーディングラッシャーになった、京都大のRB佐藤航生選手=撮影:佐藤誠
関西学生リーグのリーディングラッシャーになった、京都大のRB佐藤航生選手=撮影:佐藤誠

 

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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