メニュー 閉じる メニュー
スポーツ

スポーツ

週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

NFLでにわかに流行するQBの併用 異なるタイプを同時にフィールドへ

2018.11.14 12:30 生沢 浩 いけざわ・ひろし
レーベンズのQBフラッコ(左)とジャクソン(右)(AP=共同)
レーベンズのQBフラッコ(左)とジャクソン(右)(AP=共同)

 

 今年のNFLは高得点の試合が多いのが特徴だ。

 第10週はスティラーズ(52点)とセインツ(51点)が50点越えを達成。リーグ全体の総得点も過去最高を記録するペースだ。

 

 得点力にはオフェンスの力が大きく反映しているのは言うまでもないが、多岐にわたるオフェンススキームの中でレーベンズとセインツが興味深い試みを行っている。それはポケットパサーとモバイル系の異なるタイプのQBの併用だ。

 レーベンズはジョー・フラッコがエースとして健在にもかかわらず、今年のドラフト1巡でラマー・ジャクソンを指名した。

 ジョン・ハーボーHCはチーム内でQBの世代交代が起こるとの憶測を否定し、あくまでもオフェンスの幅を広げる目的だと強調する。

 オフシーズンにはフラッコとジャクソンを同時にフィールド上に立たせるプレーを考案すると宣言し、事実そうしたプレーが毎週数プレー展開されている。

 

 今年のドラフトでは5人のQBが1巡指名を受けたが、唯一先発出場のないのがジャクソンだ。これはフラッコがエースの座を不動のものにしているからであり、少なくとも今季はハーボーが言うように世代交代はなさそうだ。

 もっとも、現在はフラッコが負傷中との情報もあり、次週のベンガルズ戦(ホーム)にジャクソンが先発する可能性もある。

 そこでジャクソンが活躍し、必ずしも得点力が高くないレーベンズオフェンスに大きな変化をもたらすことがあればフラッコの立場も安泰ではない。

 

 ジャクソンがQBに入るときはもっぱらランプレーが多い。ルイビル大学時代は脚力を生かしてハイズマントロフィーを受賞した実績があるだけに、ランでビッグプレーを生む期待は常にある。こうしたプレーではフラッコはWRの位置にセットする。

セインツのベテランQBブリーズ(9)(AP=共同)
セインツのベテランQBブリーズ(9)(AP=共同)

 セインツではベテランQBドルー・ブリーズが絶好調だ。第10終了現在でパスの成功率は77.3%で、自身が昨年更新したNFL記録の72%を大きく上回る。

 このブリーズに対して、スポット起用されるのが2年目のテイソム・ヒルだ。

 

 ヒルは昨年ドラフト外でパッカーズに入団したが、開幕直前にセインツに移籍した。1年目はほとんど試合出場がなかったが、今年からいろんな場面で起用されるようになった。

 基本的にはジャクソンと同じような起用法だが、面白いのはキックリターナーも務めることだ。控えとはいえ、QBがキックリターナーを担当する例はNFLでは皆無に等しい。

 セインツではもう一人、テディ・ブリッジウォーターがいるからこそ実現しているユニークな起用法だ。

 

 現在のNFLではロースター上に3人のQBを登録していても、それら全員を試合に出場登録するチームはほとんどない。

 ところがセインツは貴重なロースター枠を使って3人のQBを使い分けている。第10週のベンガルズ戦では最初のプレーでブリーズとヒルを同時に投入し、ブリーズがQB、ヒルがTEの位置に入った。つまり、ヒルは控えQBでありながらTEとして先発出場を果たしたのである。

 

 ジャクソンやヒルの起用法の特徴は、それぞれフラッコやブリーズがオフェンスのラインアップに残り、QB以外のポジションでラインアップすることだ。

 QBが本来とは違うポジションでセットする例は2008年に流行した「ワイルドキャットフォーメーション」でおなじみだ。

 ただ、ワイルドキャットはRBがQBとしてラインアップし、ほとんどがランプレーだった。

 

 レーベンズやセインツは二人のQBをオフェンスに同時起用するのが特徴だ。これにはアドバンテージとディスアドバンテージがある。

 アドバンテージは、二人のQBを併用することによってディフェンスがプレーの予測をしにくくなることだ。

 例えばこういうケースが考えられる。ジャクソンがハドルに加わったのを見た相手チームはQBのランを警戒して通常の4―3―4のパーソネルを用意したとする。その場合レーベンズはQBにフラッコを置き、ジャクソンをレシーバーに起用することでパスプレーを選択し、裏をかくことができる。

 逆にニッケル(DBが5人)やダイム(DBが6人)ディフェンスに対してはジャクソンの脚力を使ったオプション攻撃が有効だ。

 

 QBは事実上戦力外になるとのディスアドバンテージもある。これはレーベンズで顕著だ。

 ジャクソンがQBに入るとフラッコはWRの位置にセットするが、プレーが始まるや否やスクリメージラインから数歩下がってディフェンダーからのコンタクトを避ける。

 これはもちろんフラッコの負傷を防ぐのが目的だが、ディフェンスはフラッコがWRとなった時点でカバーの対象から外すことができるのだ。

 実質的にオフェンスの10人に対してディフェンス11人で対処することになり、人数のミスマッチが生まれる。

 

 セインツも同様なのだが、ラムズに今季初黒星を与えた第9週の試合では、ヒルからブリーズへのパスがデザインされていたと思われるプレーがあった。

 結果的にはヒルがスクランブルランをしたのでブリーズへのパスは実現しなかったが、この辺りにレーベンズとセインツの考え方の違いが見える。

 

 こうした、タイプの違うQBを併用する動きが一般化するかどうかはこの2チームのオフェンスがそれによって成功するか否かによるだろう。

 QBのランプレーは負傷の危険が伴うし、年俸の高いQBを複数人数登録する余裕もない。その一方で、カレッジやハイスクールではポケットパサーが年々減少し、スプレッドからのランニングQBが活躍する傾向が強まっている。

 こうしたQBをNFLで有効に活用するには、レーベンズやセインツのような併用策が必要となるのかもしれない。

 併用策が目立った成果を生んでいるとは言えない現状だが、少なくとも新しい戦術の一つと言えそうだ。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

最新記事