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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

日々の鍛錬で自分を超えろ 大切なのは時間を使って回数をこなすこと

2018.10.25 10:57 中村 多聞 なかむら・たもん
ウエートトレーニングで筋力アップを図る、早稲田大学の選手
ウエートトレーニングで筋力アップを図る、早稲田大学の選手

 

 日頃、現役選手たちといろんな形で接していると学生も社会人もフットボール以外の用事が忙しい。とにかく忙しいと僕は感じています。

 学生は本分である学業で手を抜くことはありません。最高の大学で最高の授業を受けられるわけですから、1分たりとも無駄にしてはもったいないと理解しているのでしょう。

 皆さん非常に賢く立派で親孝行です。社会人選手は平日の全てが仕事と家庭の行事で埋まっており、時間を作ってトレーニングなどができればまだいいほうだと思います。誰一人として、フットボールの準備に十分な時間を費やせていないのは事実ですし当然のことです。

 

 ただ、そういう中でも「日本一」を目指すのならば話は違ってきます。授業や仕事で埋まっている時間をやり繰りして「日本一になる準備」をしなければいけませんが、果たして「日本一になる準備」とはなんぞやという会話を選手たちとしょっちゅうしています。

 対戦相手のビデオを何度も見て相手の全てを調べ尽くす。多くのセットプレーを考え出してミーティングをする。みんながそれを覚えているかどうかを確認する。

 ここらへんのところまでは、昨今のフットボール選手であれば「やるな!」と言ってもやり通します。

 それが大好きだし作戦さえそろえておけば、勝てると信じているからです。僕が担当するオフェンスの選手は、作戦を提案して相手守備全員を欺き、誰にも触られずにエンドゾーンまで到達するプランニングがとても大好きです。

 

 しかし、フットボールの試合でそんなシーンは滅多に見ることはできません。痛んで疲れた体で相手に突進し、体力も気力も果てるまで格闘するのがフットボールという競技です。

 他のポジションでも大きくは変わらないとは思いますが、RBの場合はボールを持つ持たないに関係なく、毎プレーで屈強な敵のディフェンダーに激突することがほとんどです。

 疲労してくると集中力が散漫になり、安全に強く体当たりすることができなくなってきます。

 心も体もフレッシュで気合い満タンな試合開始早々の時間帯では、隅々にまで払えた注意力も、時間の経過とともにみるみる落ちてしまいます。

 

 その時、体に染み込んでいる「基礎基本」が出てきます。過去に最も多く使った方法を体が自動的に呼び出してきます。

 たとえそれが間違ったものであっても関係ありません。しんどい時に効率よく体を素早く強く自動運転する方法は、多く繰り返してきた「基礎基本」だからです。

 しかし僕が携わった選手のほとんどが、この「基礎基本」を間違って教え込まれているのです。

 これは彼らを最初に指導した人の責任ですが、この血を入れ替えるという作業に腐心しています。年月をかけて培ってきた考えや技術はそう簡単には入れ替わりません。ですからこの作業は選手と僕が対話しながら少しずつ修正しています。

 

 ところが上記のような基礎基本の入れ替えに手間取りすぎて「身体能力は業界最高レベル」を備えるのが「タモン式」の大前提であったはずなのに、それをウッカリ忘れていました。

 僕の場合は高いレベルでフットボールする前にパワーとスピードを用意していたので、あとはインテリジェンスとテクニックを装着すれば一流になれると信じてやっていました。

 ですから高い身体能力はそもそも備えておくものだ、という概念が邪魔をして選手にそこを厳しくしておくのがおろそかになっていたのです。

 

 筋肉を付けて体重が重くなり、膝などの関節に悪影響が出る、運動方法が変化して受傷率が高くなるなど、大きく強くなることに対して様々なネガティブ論がありますが、RBは体重制スポーツではない上に、不特定多数にあらゆる方向からコンタクトされるのです。

 ですから「最強のRB」になるためにはどのように身体能力を向上させるべきなのか、一般的な知識を学んだだけのトレーナーでは初級者にしか指導できないケースがほとんどです。

 

 速くて器用な選手はパワーアップに無関心。体重の重い選手は持久力に無関心。身体能力が全般的に高い選手は細かいテクニックや作戦に無関心。インテリジェンスの高い選手は身体能力の向上に無関心。

 日本一を競うレベルにおいて、強くて速くてうまくて賢いという理想的な選手など、ほとんど存在しません。

 誰しもが何か抜け落ちていたり苦手だったりします。これは米国のプロレベルでも全く同じで、全てを備えた選手は超有名で高給を得ています。プロなのに無名でサラリーが低い選手は何かが欠けているのです。プロもアマもレベルが違うだけで結局同じなのです。

 

 話を戻しまして、体のあらゆる部分にタックルやヒットを受けるRBがけがをする確率を少しでも下げようとするならば、テクニック以外の部分では体を鍛えるしかないのです。

 筋肉を分厚くしておくのも良し。力を強くするのも良し。どれだけの回数ダッシュしても疲れない持久力を持つのも良し。

 これらは「時間を使って回数をこなせば、必ず効果が出るのでとにかく毎日やりましょう」と、このコラムでも何度となく訴えています。

 

 昨日の自分、先週の自分に今日は勝つ。過去の自分には絶対に負けない。毎回の鍛錬で過去の自分を超える。この気概が強ければ強いほど「いい選手」に近づきます。

 その少しずつの積み重ねが後になって大きなものになるのです。最後の最後に出てくる一番デカくて強い敵は結局自分です。

 相手の強さや作戦がどうこうは関係ありません。自分のやるべきことをやるべきやり方でできるかどうかにかかっていると思います。

 

 フットボールはビデオゲームでもチェスでもありません。根性を擦り減らして体と体をぶつけ合う格闘技です。

 数年前のNFLのドラフト会議で、殿堂入りのDEチャールズ・ヘイリー氏が「ドラフトされたからどうした。大切なのは試合に出て相手をぶちのめすかどうかなんだよ」とコメントしていました。

 鍛えて鍛えて戦いまくってスーパーボウルリングを手にした超一流の言うことには重みがありました。

 

 これを読んでくださった本気のRB諸氏は、どんな方法でもいいのでチームの誰よりも体を鍛えてとにかく強くなることが大切です。

 強く速くなりながら、フットボールの奥の奥まで勉強しテクニックを磨いておけば、自然に根性も備わってきます。

 いざという時に実力を発揮できる集中力と度胸も養われます。全力で不可能と思われたことに挑んで失敗しながら、毎日ほんの少しずつだけ成長すれば最後には自分の望むトロフィーが手に入ると思います。頑張りましょう!

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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