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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

がん克服し救世主に スティーラーズRBジェームズ・コナー

2018.10.17 11:42 生沢 浩 いけざわ・ひろし
力強い走りでスティーラーズのラン攻撃を支えるRBコナー(AP=共同)
力強い走りでスティーラーズのラン攻撃を支えるRBコナー(AP=共同)

 

 NFLのスティーラーズは、同地区ライバルのベンガルズを破って第6週にして今季初となる連勝をマークし、ようやく白星が先行した。

 QBベン・ロスリスバーガー、WRアントニオ・ブラウン、ジュジュ・スミスシュースターらの活躍で徐々にポテンシャルを発揮し始めたオフェンスだが、RBに昨年までのエース、レベオン・ベルの姿はない。

 契約延長交渉がまとまらず、チームの提示した1年契約へのサインを拒んでホールドアウトしているためだ。

 

 不在のベルに代わって先発を務めるのが2年目のジェームズ・コナーだ。6試合を消化して453ヤードラッシング、7TDの成績を残している。

 ベルのようにボールを持つたびにビッグプレーの脅威があるとまではいかないが、迷いのないダイブと鋭いカットバックで奮闘し、ファンの支持は高まる一方だ。

 ベルが来季にも退団する可能性が噂される中で、スティーラーズは新たな人材を見つけた。

ベンガルズの守備選手のタックルをかわして前進する、スティーラーズのRBコナー(AP=共同)
ベンガルズの守備選手のタックルをかわして前進する、スティーラーズのRBコナー(AP=共同)

 

 コナーの台頭とともに脚光を浴びたエピソードがある。それは彼が大学時代にホジキンリンパ腫という病気を克服して現在に至ることだ。

 ホジキンリンパ腫とは悪性リンパ腫でがんの一種だ。若年層と中年層で罹病率が高くなるという。

 

 コナーがホジキンリンパ腫であることが分かったのは、ピッツバーグ大学3年時の2015年のことだ。

 前年には1765ヤードラッシング、26TDを記録してアトランティックコースト・カンファレンスの最優秀オフェンス選手、MVPに輝いた。

 

 アーリーエントリー(大学4年を待たずにプロ入りを宣言すること)でのNFL入りも期待されるほど順風満帆なフットボール人生だったが、3年時の初戦で膝の靱帯を断裂したことをきっかけにそれが暗転する。

 膝の靱帯損傷はプロを目指す選手にとっては価値を下げる重傷だ。それだけではない。その年の12月に胸部にホジキンリンパ腫が見つかったのだ。

 この時点でコナーがNFLスカウトのリストから削除されてもおかしくない。実際に彼を見限ったスカウトは少なくなかっただろう。

 

 がんの進行度はステージ2だったが、幸いに早期発見だったことで有効な治療法がすぐに選択された。

 2016年の春まで化学療法に専念することで、夏にはがん細胞の消滅が確認され、経過観察は必要であるものの、一応の完治とされた。

 その年のうちにコナーはフットボールに復帰し、1000ヤードラッシュを達成する。翌春にはスティーラーズから3巡指名を受けて念願のプロ入りを果たしたのだった。

 

 ルーキーの昨年はベルのバックアップでほとんど出場機会がなかったが、今季は開幕から6試合で5回の先発を務めた。

 ベルのホールドアウトを快く思わないスティーラーズファンは、すでにコナーをチームのフィーチャーバックと見なして声援を送る。

 

 NFLは10月に「クルーシャルキャッチ(Crucial catch)」期間と銘打つキャンペーンを繰り広げている。がんの早期発見を啓蒙する運動だ。

 「発見」の意味も持つCatchとパスキャッチをかけ、早期発見こそ決定的に重要(Crucial)だと訴える。

 

 このキャンペーンの代表的な存在としてコナーが取り上げられることが多いが、本人はそれが本意ではないようだ。

 コナーは「がんを克服した選手としてではなく、一人のNFL選手として評価してほしい」と語る。

 

 しかし、彼がフィールド上で活躍する姿が闘病生活を送る多くの人々に勇気を与えることもまた事実だ。

 がんを克服したことは、これまで彼がフットボールで刻んできた実績に勝るとも劣らない立派な足跡だ。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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