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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

集まれ、脚を狙え、しがみつけ! 強くて速いRBの止め方教えます

2018.10.4 11:00 中村 多聞 なかむら・たもん
ノジマ相模原との試合でロングゲインを重ねた、富士通のRBニクソン選手(16)
ノジマ相模原との試合でロングゲインを重ねた、富士通のRBニクソン選手(中央)=写真提供・Pride One

 

 富士通のRBトラショーン・ニクソン選手のすごさとはなんぞやについて、先週から引っ張りまして、多くの皆様からお叱りを頂戴してしまいました。申し訳ありませんでした。

 

 まず体力的な優位性ですが、日本人より背が高く筋肉質。つまり強くて速い。これは何も僕が説明せずとも、彼を見れば誰でもわかりますよね。

 そして次にメンタリティーの違いです。日本ではRBの技術を最初に習う時、リスクから教え込まれます。タックルされるな、ファンブルするな、プレーを間違うななどです。

 ですから日本人RBは何かにぶつかることを非常に嫌います。ぶつかることを恐怖に感じている選手も多くいます。

 敵や味方の選手にぶつかればコケたりファンブルする可能性は増すので、徹底的に避けようとします。

 この習性の中で育まれた日本選手の既成概念から、いかに解放してあげるかがRBテクニカルコーチの僕の主な仕事と言えます。

 

 しかし、アメリカ人選手は「ドカンと走ってタッチダウン!」しか考えません。「ファンブル? そりゃもちろん防ぎたいけどする時はするよ」と思っています。

 大学生やプロになった、すなわち膨大なRB希望者の中から生き残った選手は、誰よりも強く、速く、うまく、賢くファンブルも少なかった人と言えます。

 

 日本の競技人口は大学生が最も多く、競争の原理が働かないため、つまんない走り方をする人や教え方をする人が多く残ってしまうのです。

 これはいますぐどうにかできることではありませんので仕方ありません。が、RB諸氏はニクソン選手の真似をすることは今すぐにできるのでお勧めします。

 頭が固いコーチに嫌われる可能性もありますが、現役時代は短いので融通の利かないコーチに仕えていても不幸になるだけですから、自分の道は自分で切り開きましょう。

 

 大きく2点です。①足の動き出しが早い②アクセルを開ける地点が早いと感じました。これだけでは何のことかわかりにくいので説明を書いてみます。

 

 昨今のタックル方法は、ボールを狙ってファンブルさせようとします。1980年代に、NFLの名LBローレンス・テイラーらが得意としていたタックル方法です。

 90年代になり、日本でもボールを狙うのは当たり前のテクニックになりました。しかし、体が強いタイプのRBからすると「ボールを狙う上半身へのタックル」は、転倒への致命傷にならない可能性が高く、実は非常にありがたいのです。

 

 RBトレーニングの中で「足を止めない練習」があります。誰かに接触し走行速度が落ちた時や、わずかでも減速した時、いかに力強くいかに素早く足を前に出すかという練習です。

 これが非常に難しくなかなかできません。昔の先輩がよく言っていた「ニーアップ!」に似ているのですが、失速時に重量のある太ももを上方向にあげると大きな抜重が生まれ、残った足の接地力が一気に弱まり倒れやすくなりますので、上方向のニーアップではなく前に出す練習をします。

 

 では逆に、失速した時に何をされたらRBは困るのか。ボールを狙った上半身へのセカンドタックル、サードタックルは怖くありません。止まりかけた脚(下半身)へのタックルやヒットが効果的なのです。

 しかし、現代のほとんどのチームではけがをするからという理由で、人間相手にハードな下半身への二人目のタックルを練習しません。タックルした側にもけがや脳しんとうの問題があります。

 

 脳しんとうを防ぐための新しいタックル方法がNFLから日本にも紹介され、どこのチームでも導入し始めていますが、そもそも日本では根本が違うのでまだそこに大きな意味が生まれていません。

 「そもそも首の力が弱すぎる問題」「生まれてこのかた、タックルの練習をそれほどしていないからそもそもド下手であるという問題」「タックルされる側のランナーがすぐコケるという問題」「本物のタックルを見たことがないので、何が正しいかわからない問題」のように本場米国とは大きな違いがあります。

 

 脳しんとうになる原因で最も多いのがタックルに行った頭部と太ももの激突だそうですが、タモン式の指導では自分の前に飛び出して来るヘルメットを太ももで蹴り飛ばす練習をします。

 「アタマを蹴る」という練習メニューですが、RBの皆さんはぜひ練習メニューに加えていただきたいと思います。

 目的は自分の前に飛び出して来たヘルメットを太ももで蹴り飛ばすことですので、バッグを使おうが人間だろうがタイヤだろうが何でも良いと思います。

 

 話を戻しますと、ニクソン選手は減速しても再加速へのアクセルオンのタイミングが日本人選手に比べて極端に早い上に、出した脚の置き場が正確で、つまずいたりしないわけです。

 よくこれを「密集を抜けるのがうまい(早い)」と表現されます。ここまでお読みいただいてのご感想は「そんなん当たり前やん!」だと思います。

 そうなのです。昔から日本に伝わるRBの基礎、基本とほぼ同じ項目をもう少しバージョンアップさせた理屈で、徹底的に遂行できるのがアメリカ人RBでありニクソン選手なのです。

 

 しかし、ニクソン選手は大きな体に任せてドカーンと中央に突っ込むランを得意としているわけではありません。

 守備の布陣次第で中央が詰まっていれば外側に用意している罠にハマってくれることもあります。

 彼の二次選択でコース変更時に下半身へ体当たりすればたちまち転倒します。しかし、近代守備ではついついボールを狙った高い位置へのしがみつきタックルをしてしまい、踏み込みが甘いと彼の長い手脚による深い間合いで致命傷を与える場所まで届かない、となります。

 守備も基本に立ち返り、抱きつくのではなく激しく下半身にヒットし、常に11人がギュッと集まるとランナーは非常に迷惑です。これもまた先ほどと同様に「それはみんな知ってるって!」だと思います。

 

 ゲインできるかできないかは、ランナーの判断にかかっています。「どこ」を走るのかを「いつ」決めたかが重要で、判断が早いとアクセルオンを早期に開始できますが、コースを間違う可能性もあります。

 逆に判断をギリギリまで遅らせるとアクセルオンが始められず、スピードに乗らないまま密集に進入となりますが、コース間違いのリスクは防ぐことができます。

 70キロや80キロの超軽量ランナーは、アメリカ人選手のような100キロ超級に比べて急加速能力に優れていますから、アクセルオンするための準備がそれほど必要ではありません。

 

 ただ、密集で誰かに少しでも引っ掛かりそうになると自分の弱さを知っているだけに大きく避ける習性が身についているので結局「軽量ボディーなのに急加速しない」ことによって密集を早い速度で駆け抜けることができません。

 止まったり曲がったりという、守備にとってはどうでもいいことだけ得意になっていき、結局は〝12人目の守備選手〟のようなRBが日本には多く存在します。

 

 その点、守備選手に少しぐらい触れられても、関係なく走り続けてやるという考えが当たり前のニクソン選手は「行けるか行けないかわからない時」にもそのまま力強く進んで来るのです。

 「ここで待っているんだからあっちに逃げるだろう」と考えている守備選手は、まんまと裏をかかれ、迷わず力強く突っ込んできたニクソン選手に先手を打たれ強いタックルをし損なう、ということになります。

 

 自チームが守備の時、ボールキャリアーを捕まえようとした瞬間、ベンチから「ボール、ボール!」「ボールを狙え!」なんて声を掛けるのがはやっているようですが、そんなものは全くの無駄です。

 そんな時にボールを奪えたためしがありますかね? いま捕まりそうだって時に、ボールをおろそかに持つランナーはおそらくトップリーグには存在しないでしょう。

 それより「集まれ」「脚を狙え」「しがみつけ」のような、ランナーにとっての迷惑行為を奨励する掛け声に変えてみてはどうでしょう。

 

 ノジマ相模原との試合で、ものすごいラン記録をたたき出したニクソン選手も、あまりゲインできなかったプレーが半分以上ありました。

 その全ては失速時に、二人目が足元に絡みついた時です。このまま日本記録を更新する気配濃厚ですが、素晴らしい教科書としてRBの皆さんは勉強してみてはいかがでしょうか。

 そして対戦する守備の皆さんはボールばかり狙わず、あの長い長い脚に「全員で強くヒットする」のが得策だと思います。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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