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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

伝わってきた日大の逞しさ 初顔合わせで感じた「新時代の始まり」

2018.8.29 10:00 丹生 恭治 にぶ・きょうじ
第 回甲子園ボウルで対戦した関学と日大。背番号「1」はその後監督としてその名を残すことになる故篠竹幹夫氏
第10回甲子園ボウルで対戦した関学と日大。背番号「1」は後に監督としてその名を残すことになる故篠竹幹夫氏

 

 私たち関西学院のアメリカンフットボール部が初めて日本大学アメリカンフットボール部と戦ったのは、1954年(昭和29年)9月6日である。

 場所は私たちのホームグラウンドといってもいい西宮球技場。日大には大変失礼な言い方になるが、私たちにとって甲子園連覇への単なる第一歩に過ぎなかった。

 

 前回も述べた通り、炎暑の和歌山合宿を終えたばかりで、疲れがたっぷりとたまった状態だったが、練習台としては格好の相手ぐらいにしか考えていなかった。
 これがとんでもない間違いだった。この年の夏は結構暑く、秋口とはいえまだまだ気温は真夏さながらの厳しさだった。簡単に先取点を奪ったのも、その後の流れを考えるといささかまずかった。

 

 LHの山田昇がQB鈴木智之からのピッチアウトを受けて右へ鮮やかに展開。日大左サイドのバックスを存分に引き付けてから、REの西村一朗へ絵にかいたようなパスを決めて難なくTDを挙げた。
 しかしTFPはセンターの私がスナップをミスし、得点は6点止まり。逆に第2Qに入ってからパスで一気に攻め込まれてTDを許した。TFPも決まり6―7とあっさりリードを奪われたのである。

 

 とりわけ私たち2年生にとっては、またこれも失礼な言い方だが、実に苦々しい逆転だった。というのも、試合半ばで相手にリードされたケースなどは、4年前の関学高校1年生時以来だったからである。

 こんなことをなぜ苦々しいと感じるのか。当時の私たちのいささか思い上がった感覚の実例の一つとして、恥ずかしながら白状しておく。

 

 この後、関学はQB鈴木がLH山田へきれいなディレイパスを通して12―7と主導権を取り戻し、第3Qには鈴木から西村へのパス成功から、西村が鮮やかなフットワークでタックルをかわして快走。19―7と差を広げた。

 さらに試合終了直前に1TDを追加して25―7。どこが苦戦だ、何が辛勝だと言われそうな点差だが、日大の選手たちと当たり合った者にはすべて「苦戦、辛勝」の思いが残った。

 

 確かに合宿明けの疲労の蓄積があり、プランも何もないままに戦った実態はあったが、勝つことにここまで苦労するとは誰も思ってはいなかった。

 何よりもランプレーが何ひとつ出なかったのが大きく私たちを傷つけた。確かにパスはよく決まった。しかしランがもっとヤードを稼いでいれば、あそこまでパスの「個人技」に頼らなくて済んだのではないか、という思いが強かった。

 ランとパスのバランスの取れた攻撃など、口にし、実現してきた理想が、東から来たあまりよく知らないチームによって、ことごとく打ち砕かれた悔しさがあった。

 

 守備でも何度もロングゲインを許した。得点されたのは一度でも、攻め込まれて何度もたじたじとなった試合の流れは、屈辱そのものだった。

 体をぶつけ合うところから、ひしひしと感じられる相手の逞しさ、粘り強さが、私たちを苦しめた。こんな相手はこれまで周辺にはいなかった。少なくとも関西のリーグではお目にかからなかった。

 聞いてみると日大も合宿明けだったそうである。その上前日に立命大と京大とのダブルヘッダーまでこなしている。このスタミナ。このタフさは驚くばかりだった。
 

 

   この年の日大は竹本君三監督の一年目。主力は3年生だった。この中に後に名監督として一時代を築く篠竹幹夫がEで加わっていた。

 攻撃体系はあの「アンバランスT」。QBは川見博。しかし西宮球技場ではアンバランスTよりも、ひたすらあの逞しさ、粘り強さに押しまくられた印象だけが強く残る。

 4年生のバックスをリードする清水之男の闘志あふれる突進などは、その典型と言えた。新時代の始まりだった。

丹生 恭治 にぶ・きょうじ

名前 :丹生 恭治 にぶ・きょうじ

プロフィール:1934年生まれ。関西学院大学卒業後、東京新聞社で運動記者としてスタートし、1962年に共同通信社へ移籍。著書に、中学時代から関学で親しんだアメリカンフットボール生活を描いた「いざいざいざ」がある。甲子園ボウルには高校時代と合わせて6度優勝。

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