メニュー 閉じる メニュー
スポーツ

スポーツ

週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

毎日が感動 3年目を迎えた早稲田大学の夏合宿に参加して

2018.8.16 11:48 中村 多聞 なかむら・たもん
指導して3年目を迎えた早稲田大学の教え子との夏合宿での中村多聞さん(右端)
指導して3年目を迎えた早稲田大学の教え子との夏合宿での中村多聞さん(右端)

 

 今年も山梨県で開催された早稲田大学ビッグベアーズの夏合宿に参加しました。

 今回で3度目です。過去2回は仕事の都合もあり半分の期間だけしか参加していませんでしたが、今回は初日の練習から最終日まで何とか見届けることができました。

 

 自身、早稲田大学に参加して今年で3シーズン目ということもあり、担当しているランニングバック(RB)陣が下級生の頃から見ています。

 非常に熱心で才能豊かな選手ばかりですので、僕としても今年度は練習を休みたくないのです。土曜と日曜はノジマ相模原の練習がありますので一旦離れましたが、どうにかなりました。

 

 僕自身、学生時代に夏合宿というものを体験したことはもちろんあります。でも夜な夜な出かけて朝まで宴会、お金がないときは少なくとも部屋で缶ビールというのは当たり前な不真面目なチームでしたので、夏合宿というものの価値をあまり理解できていないのです。

 他校もやっているらしいし、とにかく逃げ場をなくして欠席者が少ない中でそれなりにいい感じのノリで夏に青春の思い出を作る。程度にしか認識していませんでした。

 

学生たちの食事にも目配りするのが中村多聞さんの仕事
学生たちの食事にも目配りするのが中村多聞さんの仕事

 「何も夏の暑い時に詰め込まずとも、シーズン終盤にかけて涼しくなってく中で心技体を向上させていけばエエヤン!」が僕個人の考えです。

 しかし、これは単独で走り込んだり鍛えたりが徹底的にできる人間性を備えた僕ならではのワガママ自己中心的な発想で、チームスポーツなのだから他の人の都合も考慮しないといけません。

 学生にとっては長い休み中であり、社会人の先輩たちも会社を休みやすい時期、宿舎などは割引が効かないハイシーズンになりますが、それはイコール世の中の人が遊べる時でもあります。

 

 これまで人様の都合など何も気にせず選手時代を過ごしてきた僕が、長い合宿に参加したのです。

 A型で一人っ子の魚座ですから、他人(特に目上)と同じ部屋で暮らすのは非常に苦手です。特に他人の出す「音」がとても嫌で、もの凄いストレスになります。ですから前半はチームの宿舎から車ですぐのところに自分専用のペンションを予約しました。

 練習とミーティングはそこから通い、寝るときだけ個室で穏やかという環境です。朝ごはんはシャレた洋食が用意され、静かな湖畔のペンションでコーヒーをたしなんでから練習に向かいました。

 

 前半を終え、オフになったのでノジマの練習に行き、また山中湖に戻りました。もう合宿の雰囲気にも慣れてきたので、チームが用意してくれた宿舎に滞在しましたが、1年間心の準備をしていたので、何とかストレスなしで最後まで過ごすことができました。

 

 フットボールのことですが、RB諸君、特に先発出場が見込まれる数名は合宿前半途中で体力が落ち込みスピードが出なくなっています。

 僕の指導スタイルは「常に全力」を前面に出していますので、東京での練習時より遅く走っていると「もっと思いっきりやらんかい!」となりOKが出ません。

 しかし、彼らは既に体が限界に達しており「合宿前にできなかったことを克服する」という大前提の手前で失速してしまっているのです。

 

 この体力切れは僕の想定範囲外でした。彼らの苦手とする事項は、フルスピードでの走行中にありますので、その練習ができないのです。

 ですから早くも4日目から軌道修正。フルスピードでの練習は東京に帰ってからに持ち越されました。まあそれは仕方ありませんし、頑張った結果ですので良しとしましょう。

 

 しかしチームスポーツであり、チーム愛旺盛な彼らはその限界の状態(あまりスピードが出ていない)で練習を続け、走り込みもウエートトレーニングも東京にいる時と同様にプログラムが組まれていますので、疲れていようがいまいが関係なくやり込みます。

 一日に2度のグラウンド練習ですから時間にも追われています。そうしながら最終日までやり切るのです。

 

 学生さんたちの人間性は僕なんかよりもはるかに大人ですが、選手としての完成度はまだまだです。

 作戦面などでは社会人リーグ顔負けのアイデアや実行力がありますが、戦闘の部分、心の在り方、本当の意味での練習方法、作戦の裏側というような僕がいろんなレベルのいろんなチームで時間をかけて学んできた「コレがホンマのアメリカンフットボールや!」的なことは全然知りません。

 

 ですから、今自分たちに見えている道をとにかく一生懸命突き進もうとするのです。実直に真剣に、監督やコーチ、先輩の言うことを全力で信用し、とにかく頑張れるのです。

 こんな凄いこと、学生時代の僕には到底不可能でした。もし当時の僕の大学がこんなに厳しければ〝1000パーセント〟退部していたと思います。絶対に続けていけません。

 

 アルバイトをして稼ぐ時間もありませんから、車やバイクも買えません。遊びにもロクに行けません。

 僕が学生時代に満たしてきた欲求を全て断ち切って彼らはフットボールをしているのです。そんな姿を見ていると、本当に感動する毎日です。

 

 彼らの目標はもちろん全国制覇です。勝負はいろんなことが起こりますので、みんなで一生懸命頑張れば必ず勝利できるというものではありませんが、いい結果につながればいいなと本当に思います。

 

 僕から見れば彼らの努力が全く近道に思えないこともしばしば起こります。しかし彼らの人生というかフットボール人生は僕のように「とにかく結果さえ出ればいい」という単純なものではありません。

 仲間との関わり、喜怒哀楽、学生時代の楽しい思い出など、今のうちにいろいろと体験しておかなくてはなりません。

 

 他のチームも同じように一生懸命練習していることでしょう。シーズンが終わり結果が出て、彼らが流すのはうれし涙であってほしいなーとしみじみ思っています。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

最新記事