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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

画竜点睛を欠く対応に不信感 残念な関東学連の虚偽回答

2018.8.6 13:03 生沢 浩 いけざわ・ひろし
日大アメリカンフットボール部の反則問題を巡り、記者会見する関東学生連盟の柿沢優二理事長。左は森本啓司専務理事
日大アメリカンフットボール部の反則問題を巡り、記者会見する関東学生連盟の柿沢優二理事長。左は森本啓司専務理事

 

 画竜点睛を欠く。

 「仕上げに瑕疵があって完成が損なわれたこと」を表す中国の故事だ。

 

 世間を騒がせた日大アメリカンフットボール部の「危険タックル問題」は、2018年シーズンの出場停止処分が7月31日に確定したことで一つの区切りを迎えた。

 日大フェニックスは処分が解除された場合でも、来シーズンは関東学生リーグ1部TOPプ8から同BIG8に自動降格となり、27年ぶりに手にした学生日本一の王座を防衛する権利を失った。

 

 この決断を下した関東学生アメリカンフットボール連盟は、5月の事件発覚から常に毅然とした態度を保ち、情に流されることのない判断をしてきた。

 危険タックル問題の真相究明に乗り出した「規律委員会」や、日大から提出された「チーム改善報告書」を精査した検証委員会、その答申を受けて開かれた臨時理事会など、難しい決断を行ってきた姿勢は評価に値する。

 

 しかし、最後になって致命的なミスを犯してしまった。フェニックスの出場停止処分が解除されないという決断を発表した7月31日の記者会見場で、メディアに虚偽の回答をしたのだ。

 

 問題となったのは、かねてから噂になっていた内田正人前日大監督と井上奨前コーチによる関東学連の処分に対する異議申し立てが実際になされたか否かだ。

 二人の除名処分が正式に決定したのは6月26日。通知を受け取った日から30日間で異議申し立てが認められているから、その期限は7月30日とされた。

 

 31日の会見でメディアから「一部報道で内田前監督から規律委員会の裁定に対して異議申し立てをする方向だということがあったが、現時点で事実は」との問いに対し、関東学連の森本啓司専務理事「出ておりません」と明言した。

 しかし、8月2日夜になって一部新聞報道により内田、井上両氏から異議申し立てが提出されていたことが発覚。記者会見での回答が虚偽であることが明らかになった。

 

 関東学連は虚偽の回答をした事実を認め、3日中に公式サイト上で釈明の声明文を掲載し、さらに午後になって各メディアにメール連絡を行った。

 それでは不十分と思ったのか、急遽同日午後5時半から日本アメリカンフットボール協会の都内オフィスで釈明会見を開くに至った。

 

 会見で関東学連は「内田氏の代理人弁護士から、情報管理には十分留意してほしいとの、また井上氏の代理人弁護士からは、申立てがあった事実ならびに内容の公表は控えてほしい旨のご要望をいただいたため」という声明文の主張を改めて述べ、それが虚偽の回答の理由となったことを認めた。

 

 会見に臨んだ寺田昌弘監事は「これから議論を行っていくなかで相手(内田、井上両氏の弁護士)の要望を聞いて信頼関係を築くことができることを重視した」と述べた。

 弁護士である寺田氏の証言は、交渉をスムーズに進めていくための方便であるとの意味で説得力を持つ。

 しかし、関東学連が処分を下した内田、井上両氏の異議申し立てについてそこまで忖度する必要はあったのだろうか。

 

 異議申し立ては内田、井上両氏に認められた権利だ。申し立てを行ったか否かの事実は、内田、井上側の弁護士が懸念したプライベートの侵害に当たるとは考えにくい。

 なによりも、相手の弁護士の要求をそのまま鵜呑みにして、メディアに対して嘘の回答をした事実は重い。

 

 内田、井上両氏が異議申し立てを提出するのではないかという報道は、7月中旬には各メディアが報じていた。寺田監事によれば、それが内田、井上側の弁護士を警戒させたのだという。

 

 「報道が出たときの先方の弁護士から抗議があった。連盟としては情報を漏らしたことはないとの立場だが、先方はそう思っていない。情報管理をしっかりしてほしいという要望があった」と寺田氏は言う。

 

 しかし、それとメディアに対して嘘の回答をすることは別のものだ。弁解の余地はない。遅れて会見に参加した柿澤勇二理事長はこうも言った。

 「先方の要求、要望があってそれは守らなければならない、それを最優先にするべきではないかと判断した。他に方法、言葉が考えられなかったかというのはあるが、私はあの時点で、今でもそうだが、それをとるのが最良の策であったと思う。虚偽の発言でないかと言われればそれまでだし、それによってみなさんに多大な迷惑をおかけしたし、それによって信頼関係も損なう事態になることは十分に予測できたが、それと天秤にかけたときに私としては相手と良好な関係、信頼関係はなくしたくなかった」

 

 最前列で会見に臨んでいた筆者は耳を疑った。我々メディアは世間の窓口である。メディアを欺くことは世間を欺くに等しい。

 そこで損なう信頼関係よりも、関東学連自身が処罰を決めた内田、井上両氏の弁護士との関係を重視したのだ。

 

 この会見で森本専務理事が明らかにしたところによると、異議申し立てが提出された事実は森本専務理事、寺田監事、柿澤理事長、そして実際に受領した前川誠常務理事の4人だけが知っており、出席した他の19人の理事には知らされていなかった。

 

 筆者の取材によれば、臨時理事会中にある理事から異議申し立ての有無が問いただされたそうだ。そこでの回答は受理を否定するものだった。

 つまり、理事にも正確な情報は共有されていなかったのである。そして、こうした状況の中で日大の処分解除は17対3で否決された。

 異議申し立て受理の事実が処分解除の是非に影響を与えたとは思わない。しかし、決議権を持つ23人の理事(2人が棄権、日大の理事1人は投票せず)に、情報が共有されていなかったことは問題だ。

 

 関東学連の釈明会見と同じ日に、日大の田中英寿理事長と大塚吉兵衛学長の声明文が同大学の公式サイトにアップされた。

 その内容にメディアのフォーカスが向いているが、筆者はあえて関東学連の態度を問いたい。

 

 日大フェニックスは処分の文言をその通りに受け取るならば、来年の4月からは処分が解けることになる。

 しかし、体制が改まらないままではそれは受け入れがたい。関東学連もルール上は復帰できると認めつつも、世間を納得させるだけの材料が必要だとしている。

 その一つが、日大の組織改善に向けての行動のモニタリングだ。それを行う責任があるのは関東学連だろう。その学連があろうことか内田、井上両氏サイドに忖度してしまった。これでは元も子もないのではないか。

 

 関東学連の一連の決断には敬意を表してきただけに残念だ。今回の虚偽回答により、有能な理事が責任を問われることにもなるだろう。

 それもまた関東学連にとってはマイナス要因になりかねない。前代未聞の不祥事に真摯に取り組んできた関東学連だけに、最後まで毅然とした態度を保ち、メディアを裏切るようなことはしてほしくなかった。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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