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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

尊重されるべきは人間の目による判定 インスタントリプレーとVAR

2018.6.26 12:32 生沢 浩 いけざわ・ひろし
サッカーW杯のコスタリカ戦、ゴール前で倒れるブラジルのネイマール(中央)。VARでファウルを認められず=サンクトペテルブルク(共同)
サッカーW杯のコスタリカ戦、ゴール前で倒れるブラジルのネイマール(中央)。VARでファウルを認められず=サンクトペテルブルク(共同)

 

 日本代表の「予想外」の活躍でサッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会が大いに盛り上がっている。今大会で話題となっているのが初採用のビデオアシスタントレフェリー制(VAR)だ。

 試合を左右する重要場面で適用されるビデオレビューで、PKの有無などレフェリーが下した当初の判定が覆るシーンがいくつも生まれている。

 

 アメリカンフットボール、特にNFLで30年以上(中断期を含む)にわたって使用されてきた「インスタントリプレー」がこれにあたる。

 全米大学体育協会(NCAA)ルールに準拠する日本のアメリカンフットボールでも2017~18年の公式規則に記載されたことを受け、昨年度のジャパンXボウルとライスボウルでインスタントリプレーが導入された。

 

 サッカーのVARとアメリカンフットボールのインスタントリプレーの大きな違いは、ペナルティーの有無が対象になるか否かだ。

 VARではペナルティーエリア内でのファウルがPKに値するか、レッドカードによる一発退場の判定など、主審による選手への処分が適切かどうかもVARの対象となる。

 

 しかし、アメリカンフットボールでは反則の有無は「基本的に」インスタントリプレーの対象にならない。

 「基本的に」と断ったのは、NCAA版ではヘルメットを使って相手にヒットを与える「ターゲティング」の有無はインスタントリプレーで確認する対象となり得るからだ。

 NFLでは反則適用後のボールの位置や計時が正しいか否かについてはリプレー対象となる。

 

 NCAAでもNFLでも、例えばパスインターフェアランスやホールディングなどビデオで視認すれば反則の有無が確認できる可能性のあるプレーでも、コーチやオフィシャルによるリプレー判定の要求は認められない。

 

 この最大の理由は試合時間の長期化を嫌うことだ。インスタントリプレーのたびに試合は数分間中断する。

 これによる試合時間の長期化はTV放送時間の延長につながり、NFL中継の後に予定されている人気番組が放送時間の変更を余儀なくされ、そのためにスポンサー離れが生まれた。

 NFLでのインスタントリプレーが1990年代に一定期間使用を見送られていたのはこのためだ。

 

 最近ではスポーツ専用チャンネルが増え、試合中継の後には分析番組が続くことが多いのでかつてほど試合時間の延長がすぐにスポンサー離れにつながることはなくなった。

 それでも、一般視聴者は3時間を超える試合中継に耐えうるほど我慢強くはない。試合時間の長期化は視聴者離れを生む深刻な事態なのだ。

 

 反則の有無を判断するのにインスタントリプレーを使用しないもう一つの理由は、オフィシャルの尊厳の維持だ。

 インスタントリプレーによってレフェリーはフィールド上での「神」から「審判者」になったが、それでも判定を下すための尊厳は維持しなければならない。その「最後の砦」が反則裁定なのだ。

 

 スーパースロー再生の登場や4K映像などの普及によってリプレーはわずか5年前と比べても格段の進歩を遂げた。しかし、それをすべてインスタントリプレーに反映させることがいいとは限らない。

 NFLにおけるパスキャッチ成立の定義は両足がインバウンズで着地し、ボールの完全なコントロールができていることだ。

 しかし、スーパースロー再生は肉眼ではとらえられないわずかなボールの揺れも映し出す。これをもってボールのコントロールが不完全だと判定することが、本当にアメリカンフットボールの競技の面白さに合致することなのか。

 

 反則にしてもそうだ。ルールではオフェンス選手は相手を手でつかんではいけないとされる。

 しかし、実際にはOLはディフェンダーの肩の内側をつかんでいても反則はとられない。その手が肩の後ろに回ってしまったり、ディフェンダーの腕を引っ張ったりするとペナルティーになるが、脇の下のショルダーをつかむ程度ならおとがめはない。

 

 これが鮮明な映像で映し出されるたびにインスタントリプレーで反則の判定が下されては試合そのものが成り立たなくなる。

 

 人間が行うスポーツである以上、人間の目による判定は尊重されるべきだ。

 ビデオ判定は人間の目の届かないところを補う目的で使うものであって、人間の目を超える性能をそのまま適用すべきではない。サッカーW杯を見ていて、こんなことを考えた。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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