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共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

がんと闘う往年の名QB 元NFLビルズのジム・ケリー氏

2018.4.17 11:16 生沢 浩 いけざわ・ひろし
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3度目のがん治療に臨む元NFLビルズのQBジム・ケリー氏(AP=共同)
3度目のがん治療に臨む元NFLビルズのQBジム・ケリー氏(AP=共同)

 

 NFLの往年の名QBジム・ケリー氏が自身3度目となるがん治療を終え、ニューヨーク市内の病院を退院した。

 ケリー氏といえば1990年代にバファロー・ビルズを4年連続のスーパーボウル出場に導き、そのすべてで敗れたQBとして知られる。

 

 負けたことばかりが強調されるが、ケリー氏のパッシング能力は間違いなくNFLの一時代を築いた。

 彼の剛腕から繰り出されるパスは威力があり、かつコントロールもよかった。まるで銃弾のように飛ぶパスからついたあだ名が「ケリー・ガン」。

 ノーハドルで展開するテンポのいいパスオフェンスは当時流行した「ラン・アンド・シュート」そのもので、ビルズは「ハイパーオフェンス」と呼ばれた得点力の高いオフェンスでAFCのトップチームに君臨した。

 

 1996年シーズン限りで11年間のNFL生活にピリオドを打ち、2001年に資格1年目にしてプロフットボール殿堂入りを果たしている。

 

 引退後のケリー氏のプライベートライフは難病との戦いだったと言っても過言ではない。最初に病魔が襲ったのは息子ハンター君だった。

 97年2月14日(この日はケリー氏の37歳の誕生日でもあった)に生まれたハンター君は生後間もなくクラッベ病と診断された。

 クラッベ病とは中枢、末梢神経に起こる障がいで有効な治療法は見つかっていない。ハンター君のように生後間もなく発症するケースでは2、3歳で死亡することが多いそうだ。

 既にフットボールから引退していたケリー氏はハンター君の看病に全力を注ぐことになる。

 NPO団体を立ち上げて基金を設立するとともに、クラッベ病の啓蒙活動にも積極的に行った。

 

 殿堂入りの記念式典のスピーチで最後にケリー氏はハンター君の病気について言及した。「私の息子は生まれて間もなくクラッベ病と診断された。その瞬間から私と妻は病魔と闘う決意を固めた」と切り出す。

 「殿堂入りが決まったとき、この式典にハンターが出席できることを祈った。神様のおかげで今日、それが叶った。現役時代の私はタフだと言われ続けてきた。でも、私が今まで出会ったなかで最もタフなのは私の英雄であり、戦士でもある息子のハンターだ」

 ハンター君が天に召されたのは、このスピーチから4年後のことだ。8歳だった。

 

 その後NFL解説者として活動していたケリー氏だが、今度は彼自身が病気と闘うことになる。

 2013年に左の上あごにがんが見つかり、手術を行った。翌年には上顎洞(=じょうがくどう、鼻骨と頬骨の間の部分)にがんが転移した。こちらも除去手術が成功し、その後4年間はがんとは無縁の生活を送っていた。

 

 しかし、今年になって右の上あごに転移が見つかった。放射線治療の後、3月28日に12時間に及ぶ手術が行われた。がんに侵されたあごの骨を削り、そこにすねの骨を移植。さらにふくらはぎの皮膚をほほに移植するという大手術だった。

 それから2週間半での退院である。依然として流動食ではあるが、あごの骨が安定し、後に予定されている義歯の挿入が終われば通常の食事ができるようになり、会話も病気前と変わらずに可能になるそうだ。

 執刀したマーク・アーケン医師は「ジムの忍耐強さと前向きな姿勢には驚かされた」と述べる。「NFLでのプレー同様、やはり彼はタフな人だった」

 

 ケリー氏の前向きな姿勢は、3度目のがん治療に入ることを発表した3月初めの彼自身の発言にもうかがえる。

 ケリー氏はこう言った。「私は確かに4年連続でスーパーボウルで負けた。でも、がんは今までに2度もぶちのめしてやった。3度目もきっとそうするさ」

 この言葉はがんと闘う多くの人に勇気を与えただろう。彼らにとってケリー氏はスーパーボウルの敗戦QBなどではなく、英雄であり戦士なのだ。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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