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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

安全対策の一環で検討 NFLにキックオフ廃止論

2018.4.3 14:25 生沢 浩 いけざわ・ひろし
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オーナ会議のコーチ朝食会を終え、記者の質問に答えるペイトリオッツのベリチック・ヘッドコーチ(AP=共同)
オーナ会議のコーチ朝食会を終え、記者の質問に答えるペイトリオッツのベリチック・ヘッドコーチ(AP=共同)

 

 NFLからキックオフがなくなる?

 こんな襲撃的なニュースがネットで流れたので驚いた方も多いだろう。

 3月末にNFLはフロリダ州オーランドで春恒例のオーナー会議を開催し、ルール変更について協議した。毎年重要性を増す安全対策強化の一環としてキックオフ廃止が話し合われたことは事実のようだ。

 

 ただし、すぐにこれが実現するという話ではなく、あくまでも将来の選択肢の一つとして検討対象になったにすぎない。

 とはいえ、脳振とうをはじめとするけがの対策が叫ばれる中、キックオフの廃止は重要課題となった。

 

 キックオフはオフェンスの開始位置を決定する、いわば「はじめの一歩」だ。リターン側は少しでも前進するべくブロッキングとリターンコースに工夫を凝らす。

 キッキングチームは可能な限り早くリターナーをタックルしてディフェンスをアシストしたい。リターンTDやリターナーに対する激しいタックルはキックオフにおける醍醐味だ。

 

 その一方で個々の選手の走る距離が長いため、コンタクトの際の衝撃が大きく危険なプレーであることも否定できない。

 NFLはキックオフにおける負傷を減らすためにキック位置を自陣30ヤードから35ヤードに移し、キックオフにおけるタッチバック後のオフェンス開始位置を従来の20ヤードよりも5ヤード前に進んだ25ヤードラインとするなどルール改正を繰り返してきた。

 

 タッチバックの機会は以前よりも増えたが、脳振とうが起きるケースはNFLが期待したほど減少していない。

 依然としてボールをリターンしようとする選手は少なくないし、リターナーがタッチバックをした時でさえフィールド内ではすでにカバーチームとブロッカーの間でコンタクトが発生しているから、危険度は変わらないとの指摘もあるのだ。

 NFLがここまで脳振とう対策に腐心するにはいくつか理由がある。かつての選手たちが補償を求めて裁判を起こし、それをリーグが受諾したこともその一つだ。

 

 また、アメリカではサッカー人気が爆発的に広がっている。子どもの健康を願う親たちは、フットボールよりもコンタクトが少なくて安全なサッカーを勧める傾向がある。

 NFLにとってサッカーは急成長する競合スポーツであり、フットボールの競技人口の減少を招く驚異の存在となりつつあるのだ。

 より安全なスポーツとなることがフットボールの生き残りの重大な条件なのだ。

 

 来年2月に発足予定の新プロリーグ「アライアンス・オブ・アメリカンフットボール(AAF)」はキックオフを行わず、オフェンスが自陣25ヤードから開始するルールを正式に採用する。

 新興リーグなど歯牙にもかけないNFLだが、キックオフを行わないAAFのやり方は注視、分析するに違いない。

 キックオフ廃止には根強い反対論があるが、より有効な安全策が講じられない限り廃止論への流れは止められないかもしれない。

 

 実際に改正されたルールも紹介しておきたい。これも安全対策の一環だが、ヘルメットを低くして当たりに行くタックルはすべて15ヤード罰退の対象となる。

 そればかりか、この反則をとられた選手には退場処分が科せられる可能性がある。

 一発退場となるかどうかは、5月のアトランタでのNFL会議で再度協議される予定だが、審判は退場処分を決断する際にオフィシャルリプレーを使って確認することが容認される。

 

オーナー会議の後、記者会見に臨むグッデルNFLコミッショナー(AP=共同)
オーナー会議の後、記者会見に臨むグッデルNFLコミッショナー(AP=共同)

 

 NFLは、これまで反則の有無はリプレーの対象としてこなかった。しかし、この「ヘルメットルール」についてはリプレーを解禁する方向だ。

 このルールはもう少し深い議論が必要だろう。頭からタックルに行く選手は依然として多く、このままでは退場者が続出する恐れがある。

 また、その都度リプレーで確認していたら試合時間は長くなる一方だ。これらも5月のNFL会議で話し合われるだろう。

 

 この2、3年で大きな問題点とされたパスキャッチ成立の判断基準は簡略化された。

 基準となるのは三つの条件で①ボールの確保②インバウンドでの両足または体の一部の着地③キャッチ後の「フットボールムーブ」が行われること、である。

 ③の「フットボールムーブ」とは、3歩目を踏み出してランナーとなったり、第1ダウン更新のラインやゴールラインを越えるためにボールを持った手を伸ばしたりすることを指す。これらの行為ができるためにはボールをしっかりと確保していることが前提条件となるので、「フットボールムーブ」をキャッチ成立の証拠とみなすのだ。

 

 昨年までのルールでは「レシーバーがグラウンドに倒れ込みながらパスキャッチを試みる際、一連の動きが完結するまでボールの確保ができている必要がある」との条件があった。

 これが審判の間でも統一した見解がとれておらず、同じようなプレーでもキャッチ成立と失敗がわかれ、混乱が生じていた。

 

 昨季終盤のスティーラーズ対ペイトリオッツでは、第4クオーター終盤にスティーラーズのTEジェシー・ジェームズがQBベン・ロスリスバーガーからのパスを受け、倒れ込みながら腕を伸ばしてボールをエンドゾーン内に入れた。腕がグラウンドに着いた際にボールがこぼれたため、これはパス成功と認められなかった。

 一方スーパーボウルでは、決勝TDパスキャッチとなったプレーでTEザック・アーツがエンドゾーン内でボールをはじいているにもかかわらずキャッチ成立と判断された。

 どちらのプレーも試合の勝敗に大きく影響を与えるものだ。これらのキャッチは来季のルールではいずれもキャッチ成功とみなされる。

 

 現行ルールに問題点が指摘されれば、すぐに改正を検討するのがNFLの柔軟性である。

 その反面安全対策を強化するあまりに、フットボールそのもののスリリングな魅力が減っているという声がファンのみならず選手の間からも聞かれる。

 こうした声に耳を傾けつつ有効な対策を講じることは、NFLが長期で取り組むべき難しい課題だ。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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