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共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

ファンに愛された「鉄人」が引退 ブラウンズLTジョー・トーマス

2018.3.21 10:00 生沢 浩 いけざわ・ひろし
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地元で行われた記者会見でファンやチームメートにあいさつするジョー・トーマス(AP=共同)
地元で行われた記者会見でファンやチームメートにあいさつするジョー・トーマス(AP=共同)

 

 NFLは3月14日をもって年度(リーグイヤー)が入れ替わり、正式に2018年度シーズンが始まった。今年はQBを中心に移籍が相次ぎ、例年になく動きの激しいオフシーズンとなっている。

 

 そんな喧噪の陰で、輝かしいNFLのキャリアに終止符を打つ選手もいる。クリーブランド・ブラウンズのLTジョー・トーマスもその一人だ。

 トーマスと言われてもピンとこない人が多いかもしれない。過去15年間プレーオフとは縁のないチームで、注目されることの少ないOLなのだから。

 しかし、トーマスこそがプロフットボール発祥の地としてのプライドを持つブラウンズファンが心のよりどころとし、胸を張って自慢できる選手だった。

 

 2007年のドラフトで1巡(全体の3番目)指名を受けると、新人ながらOLで最も重要なLTのポジションの先発に抜擢され、昨季10月22日に三頭筋の腱断裂の重傷を負うまでオフェンスの全プレーに出場した。

 そのプレー数は1万363にも及び、公式な統計はないがNFL史上最多ではないかと言われる。まさに鉄人だ。

 

 故障が少ないだけの選手ではない。常に高いレベルでのプレーを見せ、その証拠にプロボウルは昨季を除く10シーズンに出場、オールプロはファーストチームに7回、セカンドチームに2回選出されている。弱小チームにあって孤軍奮闘した選手なのである。

 

 引退の直接の理由は膝のけがだ。この2年ほどは練習もままならず、さらに背中から腰にかけての張りも年々強くなり、故障箇所が他の部位に悪影響を与える形で次第に体が蝕まれていったのだとトーマスは言う。

 「NFLでのプレーは僕の体にダメージを蓄積してきた。気持ちの上ではまだまだやれると思うのだけれど、体が言うことをきかない。自分が目指すレベルでのプレーができる状態ではなくなった」とトーマスは語る。

 

自らのナンバー「73」をあしらった釣り用具をプレゼントされるジョー・トーマス(AP=共同)
自らのナンバー「73」をあしらった釣り用具をプレゼントされるジョー・トーマス(AP=共同)

 

 トーマスはクリーブランドへの愛情も惜しみなく注いだ。ウィスコンシン州出身のトーマスは、ブラウンズ入団とともに自宅をクリーブランドに移した。

 シーズン中だけ所属チームの街に居を構えるNFL選手が多い中で、トーマスは年間を通してクリーブランドに居住する選択をした。

 

 トーマスほどの選手であれば、他のチームからの誘いも多くあったはずだ。低迷するチームに在籍する名選手が、スーパーボウルを目指す環境を求めて移籍する例は多い。

 もし、トーマスがそれを望んだとしてもクリーブランドファンは喜んで彼を送り出したのではないだろうか。それほど彼はクリーブランドファンに敬愛されていた。

 

 だが、トーマスは決してクリーブランドを離れることはなかった。実際にこの2年ほどはトレードの噂もあった。

 それでもトーマスはブラウンズの一員であり続けた。これもまたファンの心を揺さぶる男気である。

 

 残念なのは、トーマスがプレーオフで戦う姿を一度も見ることができなかったことだ。彼が在籍中のブラウンズはポストシーズンには届かなかった。

 勝ち越しのシーズンがわずか1回あったのみだ。実力の世界だから仕方ないとはいえ、トーマスほどの名選手が、NFLのプレーオフを経験することなくユニフォームを脱ぐのは悲しい。

ファンに向けたお引退のスピーチを終え、アニー夫人と抱き合うジョー・トーマス(AP=共同)
ファンに向けた引退のスピーチを終え、アニー夫人と抱き合うジョー・トーマス(AP=共同)

 

 

 トーマスのNFLでの選手生活は幕を閉じた。彼の安定したパスプロテクションや、DTを一気に押し込むランブロッキングはもう見られない。

 しかし、彼が伝統あるブラウンズに残した足跡はファンの心に深く刻まれている。

 チャンピオンシップこそ手に入れられなかったが、彼は誇り高いクリーブランドファンの心をしっかりとつかんだに違いない。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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