夢中で駆け抜けた7年 「アイシールド21」に込められた思い

2002年から7年間以上少年誌で連載され、後にアニメ化もされた人気漫画「アイシールド21」の原作者、稲垣理一郎さん(36)にアメリカンフットボールと作品に対する思いを聞いた。(聞き手=松元竜太郎)
Q・連載が2009年に終了してから3年以上経つが、近況は。
A・今は充電期間。家族と過ごす時間の方が大事。連載中は地獄だったので、できれば当分は休みたい。
Q・アメリカンフットボールとの出会いは。
A・BS放送のNFL中継を見るようになったのがきっかけ。最初は何も分からなかったが、だんだんとアメフトの魅力にはまっていった。
Q・「アイシールド21」を描くまでの経緯は。
A・最初にQBの蛭魔妖一、次にラインの栗田良寛というキャラクターが浮かんだ。主人公であるRBの小早川瀬那はあくまで読者視点で描いた。だから、蛭魔の言動や行動に作品のテーマががかなり反映されていると思う。
Q・マイナー競技を取り上げることに対して編集者の反応は。
A・とにかくおもしろければいいという文化だったので、マイナー競技ということは関係なかった。逆にアメフトという新しい視点が斬新だという評価だった。編集担当者たちは連載中もアドバイスはするけれども、最後は自分の意見を尊重してくれた。結果を出し続けなければいけないというプレッシャーはあったが、やりがいはあった。
Q・「アイシールド21」を書くために、取材したところは。
A・日本の高校、大学、社会人から米国のNFLまで、思いつく限りの場所を取材した。選手、コーチはもちろん、審判や協会関係者からも話を聞いた。
Q・取材した日本のアメリカンフットボール界の印象は。
A・決して大きな業界ではないが、みなさん快く取材に応じてくれた。アメフトを日本でメジャーにするために、「アイシールド21」をもっと利用すればいいのにということはずっと思っていた。
Q・2002年に連載が始まってから、高校や大学を中心にアメリカンフットボールの競技人口がかなり増えた。
A・いろんなところから反響をいただいた。たくさんの人が読んでくれていることが素直にうれしかった。毎週アンケートなどで読者の声がダイレクトに返ってくるので、おもしろいものが描けなかった週は、身投げしたいくらいの気持ちだった。
Q・「アイシールド21」の中で好きなキャラクターはいるか。
A・巨深ポセイドンのDL水町健悟。自分も含めて人は努力をしているというアピールをしてしまうものだが、彼は天然で努力ができるキャラクター。とにかく好きだったので、いろんなところで登場させている。
Q・アメリカンフットボールはどういうスポーツだと思うか。
A・米国の「肉食イズム」のようなものが色濃く反映されたスポーツだと思う。だから、日本人の気質にはあまりそぐわないのかもしれない。昔、五輪の柔道で負傷した足を攻めなかったという話が日本では美談になったが、アメフトでは相手に弱い部分があったらどんどん突いていくべきという考え方だと思うし、そうでないと相手に失礼だと思う。
Q・「アイシールド21」で伝えたかったことは何か。
A・「努力すれば必ず報われる、勝てる」という趣旨の漫画にだけはしたくなかった。だから原作も最後は米国に負けて終わっている。どんな世界でも努力や戦略などを超越した「スーパーパワー」が存在すると思う。アメフトで言えば、NFLのラインマンを間近で見た時にそれを感じた。これは日本が戦略どうこうで勝てる相手ではないなと。じゃあ、何のために努力するのかというと、その答えは人それぞれだと思う。作中でも各キャラクターが悩みながらも自分なりの答えを見つけている。
【稲垣理一郎(いながき・りいちろう)氏のプロフィル】
76年東京都生まれ。01年ビッグコミックスピリッツ増刊新僧(小学館)で「何度でも6月13日」でデビュー。同年、週刊少年ジャンプ(集英社)の第7回ストーリーキング・ネーム部門で、アメリカンフットボールを題材にした「アイシールド21」でキングとなる。




