強い思いとインテリジェンス 富士通WR宜本潤平選手

今シーズンの印象的だったこと、第2弾です。今回はジャパンエックスボウルでの富士通最後のオフェンスシリーズのルーキーWR宜本潤平選手のプレーについて書こうと思います。まずは試合の終盤を振り返ってみましょう。
24対3とオービックリードで迎えた第4クオーター。富士通、まずはQB出原章洋選手からOL白木栄次選手へのパスでTD(TFPは2ポイントコンバージョン失敗)、24対9とします。そしていよいよ時間との戦いとなってきたところで出原選手が自ら走りTD(TFPキック成功)、24対16。
残り2分23秒、富士通がワンポゼッション差まで迫ります。そして富士通はオンサイドキックを狙うも成功ならず、攻撃権はオービックへ。
オービックは時間をしっかり使ってプレーしつつも第3ダウン、ファーストダウンには届かず。ここで富士通は最後のタイムアウトを使い時計を止めます。この時点で残り44秒。オービック、第4ダウンでパント。
富士通、最後の攻撃。残り27秒。自陣31ヤードより第1ダウンで10ヤード。(※1)
宜本選手へのパス成功。ファーストダウン確実。宜本選手はフィールド中央でダウン。 チェーンが移動されるまで時計が止まります。残り20秒。
敵陣48ヤードより第1ダウンで10ヤード。(※2)
投げ捨て。残り9秒。
第2ダウンで10ヤード。(※3)
再び宜本選手へのパス成功。ファーストダウン確実。ここで宜本選手は無理して走りません。サイドラインに出るわけでもなく、フィールド中央でスライディングをするのです。そしてすぐに「スパイク! スパイク!」とジェスチャーします。残り3秒。
敵陣36ヤードより第1ダウンで10ヤード(※4)。
スパイク。時計がとまりました。残り1秒。
富士通最後のプレーはヘイルメリーパス(※5)。
3人のレシーバーがエンドゾーンへ走り込みます。ボールは宜本選手のもとへ。オービックの選手たちが囲みます。そしてオービックのDB三宅剛司選手がこのボールをカット。試合終了。オービックシーガルズ4連覇が決まりました。
※5:富士通のヘイルメリーパス・動画
http://www.47news.jp/sports/turnover/movie/other_movie/138783.html
このシリーズ、宜本選手がどんなことを考えてプレーしていたのか、聞いてみました。
まずは最初のキャッチ。(※1)
「あまり粘らないと決めて縦に走りました」
投げ捨て(※2)のあと。
「ハドルの時点でボールをとったらすぐにダウンしようとみんなに言いました」
そして次が注目のプレー(※3)です。
「本来のコースのところにオービックLB塚田(昌克)選手がいたので、いつもより短めに走りました。ですが、いざボールをとって景色を見ると、欲なのか迷いなのかわかりませんが、すぐにはダウンできませんでした。そして冷静になり走りながら電光掲示板を見ました。5秒あったと思います。これならダウンしてスパイクしてヘイルメリーパスを投げることができると確信しました。電光掲示板を見ていたのでLBは横目に見ていたくらいでダウンしました」
VTRを見ると、確かに電光掲示板を確認するために、走りながらちょっと顔をあげる宜本選手が確認できます。そして時計は残り3秒で止まりました。
実はこの「3秒」というのもポイントなのです。このあとしたスパイク(※4)について、今シーズンから新しいルールが導入されています。「スパイクに要する時間は最短で2秒」。ですからもし宜本選手が残り2秒でダウンしていたら、たとえスパイクをしてもそこで試合終了となってしまうわけです。
つまり3秒以上なければスパイクの後にプレーはできない。スパイクの意味がなくなってしまうのです。
これらのことから、宜本選手は残り時間を1秒も無駄にしない、あの時点での最高のプレーをしたということになります。
あとはヘイルメリーパスが決まれば、そして2ポイントコンバージョンが決まれば、同点に追いつくことができました。
結果は日本一にはあと一歩手が届かなかったですが…。残り時間もない、タイムアウトもない「極限状態」。そんななかで宜本選手の冷静で的確な判断が、勝利の可能性を最後まで消さなかったのです。まさに「これぞフットボール!!」というシリーズでした。
最後のヘイルメリーパス。とることができず(※5)、しばらく立ち上がることができなかった宜本選手。「何とも言えない感情になりました。そして起こしに来てくれた(中村)クラークさんと兄の(宜本)慎平の顔を見ると…。ほんまに勝ちたかった、悔しいという思いがこみ上げてきて立てませんでした」
小柄な身体に秘める強い思いとインテリジェンス。
ルーキー宜本潤平選手。これから先の富士通のキーマンであると確信しました。