「敵は自分である」 とことん熱中し、のめり込め

もう1カ月以上、(共同通信の)宍戸さんから次の原稿はまだかと言われていた。サボっていました。
4月24日から5月13日まで、大学世界選手権でスウェーデンのウプサラ市に行っていたからというのは、言い訳にならない。
監督というのは名ばかりで、全ては関大の板井君や立命大の池上君を中心に若いコーチがやってくれた。
チーム作りは、膨大な量のゲーム映像をチェックし選手を評価することから始まり、プレーを作って練習して、それを映像でまたチェックすることを繰り返して選手を絞り込む。
メンバーが固まったら練習しチェックし、ミーティングで修正を選手に説明し、また練習することを更に繰り返す。そうしてチームを仕上げていくのであるが、大変な作業である。
しかも、与えられた練習日数は多くないから、無駄は許されない。しかし、彼らは実によくやってくれた。
練習機会を確保するために、数日早く現地入りしたのも正解であった。お陰でチームは見事に仕上がったと思う。
まさに「フットボールはこうしてやるんだ」ということの一側面を示すものであり、今回の試合に参加した若いコーチや選手たちは大変勉強になったことだろう。
これが、今後の我が国のフットボールのレベルアップと発展につながることを、強く期待する。
しかし、残念ながら決勝戦ではメキシコに敗れてしまった。小生にとってメキシコのチームを見るのは初めてである。
聞いていたところでは、これまでの世界大会でのメキシコチームは、高い運動能力を備えている反面、仕上がりがよくなく、そこにチャンスがあるということであった。
しかし、今回のメキシコチームは違っていた。スーパーアスリートはいないものの、規律のとれたよく仕上がったチームであった。
サイズのあるパワフルな選手が多いし、ファンダメンタルもしっかり身についていると思った。
被得点の原因は、スピードのあるRBに2度ロングランされたこと、多分「リードオプション」と思うが、何度かQBに走られたこと、一度飛距離80ヤード近くもあろうと思われるスーパーパントで、敵陣深くから大きく陣地を奪われたことであろう。
しかし、許したのは2TDだから、ディフェンスとしては悪いゲームではないだろう。一方、オフェンスが1TDに終わったのは、不本意と言っても間違いないだろう。
それまでの日本のオフェンスは、ランが主体であったから、メキシコのコーチは「ランストップ」を基本としたディフェンスゲームプランを立てたと思われる。
大きくて強いメキシコのディフェンスフロントに、日本のオフェンスラインと勝負させることであり、結果としてそれが正解だったのではないか。
ランストップにウエートを置いた分、パスラッシュはさほど脅威ではなかったと思うが、パスプレーが十分に機能しなかったのが痛かった。チーム力は互角だったが、結果としてメキシコのゲームプランに軍配が上がったと思うのだが。
もちろん、勝負は時の運。何かがちょっと変わっていたら違った結果になっていただろう。
しかし、何もしなかった小生にこんな批判をする資格はない。もちろん、こう見えても一応コーチの端くれだから、いろいろこうしたらああしたらというアイデアが沸くが、全力で仕事をしているコーチたちを見ると、たとえ良いことを言えたとしても、コーチの方針をディスターブすることになってはと思うと、一切言葉を挟む気にならなかった。
だから、毎日練習を見るのは楽しいのだけれど、あとは何もすることがなく、本ばかり読んで過ごすしかなかったのは、苦痛と言えば苦痛であった。
原稿を書く時間はたっぷりあったのだが、生活のリズムが狂ってしまって、気持ちが乗らない。帰ったらすぐに書こうと思っていたのだが、すぐに追手門大学と高校の練習とそのための準備で朝から晩まで休みなし。と言うわけでサボることになってしまった。
今、一番心掛けていることについて。我が国のフットボール最前線を見ると、前にも書いたがカレッジフットボールの影響か、選手をチームに組織しその力を生かしてどうゲームに勝つかということが、コーチングの主流となっている。
しかし、追手門のように力のある選手があまりいないチームはどうしたらいいのだろう。いくら良いプランを立てても、それを実行する力がなくては、勝利はあり得ないのである。
対戦相手に対抗できる選手がそろっておれば、チームを仕上げることに集中すればよい。
しかし、弱いチームはまず選手を強くしなければならないのである。こういう未完のチームでは、チーム練習より個人が自分を強くする。個人のための練習の方が、はるかに大切なのである。
このような練習が楽しいことは期待できないだろう。敵は自分である。楽しいうちはもっとできるから、本気で強くなりたいなら、ここでやめることはできない。
つらい苦しいところまでやらないと気が済まないのである。本当に楽しいのは、こうして熱中しのめり込むことである。
今は、こういう文化をチームに根付かせたいと思っている。
しかし、それが究極の目的では当然ない。それは、本当に強いチームへのスタートなのである。
