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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

上達する前にまず「体作り」 今の自分に満足しないことが大切

2014.8.8 11:28 中村 多聞 なかむら・たもん
米国のスポーツ選手は、若い頃からさまざまなトレーニングで体を強く大きくしている(AP=共同)
米国のスポーツ選手は、若い頃からさまざまなトレーニングで体を強く大きくしている(AP=共同)

 スポーツで将来はトップになる、と夢見ている人は多くいらっしゃるかと思います。記憶がないほどの幼年期から親御さんの希望でそのスポーツを始める人、自身の希望で学校やクラブで始める人、いろいろな人がいます。

 ほとんどの人にとって「うまくなっていい選手になる」のが目標だと思います。目指す目標は人それぞれで、世界一や地域一、今日の自分より上などさまざまです。

 競技をやってみて段々上達。楽しいだけの時間がしばらく続き、ある時に越え難い壁が立ちはだかります。世界を目指す人はこの壁を何度も何度も努力工夫して乗り越えられる人です。

 でも、結局はその時だけの努力では太刀打ちできない時が来てしまうので、初心者の頃からしっかり準備しておきましょう、というお話しです。

 まず、深く考えずに毎日楽しく練習をしています。自分に合う競技やポジションであれば自然とドンドン上達します。試合にも出たりしてなかなかの活躍をするようになってきました。そしてある時に「もっと速く動ければなあ」「もっとパワーがあればなあ」となったら黄色信号です。

 体力があって体格がよくてのフットボール。引退するその日まで「技術と体力」は成長させていかなければ「運動家」として失格ですが、この「技術と体力」の成長順序が重要です。

 先に「技術」が育ち、その後に「体力」をつけて体を変化させると、競技成長期に身につけた技術がいい方向にいくこともありますが、残念ながらそれは稀なケースです。特にフットボールなど球技の場合は、動きがあまりにも複雑なためです。

 「知識や経験ほぼゼロ」の時に反復練習で身につけ、やがて中上級者になった体の操作技術は、とても繊細に複雑に体と脳に刷り込まれています。

 体の細かった中高生時代には俊敏でいい選手だったが、大学、プロとステージが上がる毎に体が大きくなり俊敏さが失われ、けががちになり、その時にトレーナーや自分が気付いた身体能力の不足点を一生懸命補おうとします。

 動きが遅くなったのは単に体重が重くなったからだけではなく、その鎧を自由自在にかつ安全に作動させる技術が追い付いていないからなのです。競技独自のパワフルで安全で繊細な技術の向上は、筋肉の肥大速度よりどうしても遅くなります。

 ならば「今の体を自由に動かせるようになればいいのでは」となりますが、コレも少しの効果しかありません。

 確かに最初は難しいのですが、訓練し慣れてくれば新しい動きを覚えることができます。以前は出来なかった動きが出来るようになった! と嬉しくなるでしょう。

 でも、残念ながらその技術は単なる付け焼き刃。実際の競技中に役に立つことはない上に、体に無理が生じるのでけがをするリスクが飛躍的に上がります。

 例えばここに高校でも大学でも好きなだけ走れたランニングバックがいたとしましょう。プロなり社会人なりのレベルでも最初から「スーパー」な活躍をします。

 しかしある時に負傷します。手術が必要なほどかどうかはさておき「運が悪かった」以外の部分でけがの原因を探ろうとします。

 「もう少し○○の部分の筋力をつけてみよう」だとか「股関節の動きがどうこう」とか、「背骨が…、骨盤が…、可動域が…、動体視力が…」などと悩むこともあるでしょう。そしていろんな人がそれぞれ得意の分野のいろんなアドバイスなり助言をします。コレを鵜呑みにし、心酔してのめり込むともう終わりです。

 選手としてもう一皮むけて、もう一花咲かせたい。この思いはどんな逆境にも耐えて壁を乗り越える原動力になるでしょう。しかし、残念ながらこの方法では試合の結果として全盛期の自分を越えることはありません。

 何故か? 遅いのです。気付くのが遅いのです。

 競技を始めた時に伸び盛りの自分に酔い、謙虚な気持ちがどこかに行ってしまっていたのです。練習でも試合でもかなりの活躍をし、まわりからチヤホヤされ勉強なしで好きな学校に進学できてしまうと「自分に足らない部分」を必死のパッチで補おうとする普通の行為がおろそかになってしまうのです。

 謙虚さが欠けていたのです。うまいのだから結果を出しているのだからそれは当然でしょう。またはアタマが良くないというか、のんびりと構えて何も考えていなさ過ぎなのです。

 コレをビシッと指導というか意識改革、修正してあげることができる大人はそれほど多くはいません。

 いつもチームを勝たせてくれる有頂天なスターの鼻をへし折り、将来彼が目指せるゴール地点を客観的に冷静に見定めて、技術が成熟し切ってしまう前にやっておかねばならない「基礎作り」を、自チームの目の前の勝利より優先してくれる指導者が何人いますかね?

 うまくなってしまう前に、またはうまくなりながら、将来の最高到達地点で必要な体躯やパワー、スピードを見定めて、筋肉も関節も脳みそも柔らかい若年のウチに鍛えまくって体作りをしておかねばなりません。前述の体の動かし方を学ぶのも、最初の頃からやっておかねばなりません。

 今どき体重が60キロのランニングバックでは活躍の場は限られます。高校生だから、今は活躍できているから60キロでいいのではなく、アメリカに挑戦するかもしれないのなら先に90キロ、100キロになっておかねば結局残念な思いをするだけです。

 日本の社会人リーグで活躍したい場合も同じです。何が何でも先に大きく強く、そして体の使い方の名人になっておく必要があります。

 上手くなってしまう前に誰よりも鍛えておく。屈強な体を用意してから上級者にならなければ「超一流」になれず「一流」で終わります。

 いい選手は足が速い、俊敏、パワフル、クレバー、といった「今の自分のジャンル」で満足していることが多いのではないでしょうか。これは決して傲慢なのではなく、単に勉強不足、意識不足なだけしょう。

 フットボール以外のスポーツに通じるかどうかはわかりませんが、うまくなってから鍛えたのでは遅いのです。

 自称「体を鍛えることに詳しい」という職業の人も、フットボール全てのポジション、全ての局面で必要なことを熟知しているわけではありませんので、局面局面を分割して指導してもらうしか方法はありません。

 どんな時にどのような塩梅で力を入れて云々は、結局のところそのポジションの超上級者と本人にしかわかり得ません。ですから疑問点を質問するためにも、自らを鍛えるためにも体のことを勉強するのは毎日のトレーニングと同じぐらい重要です。

 いろんな運動、武道をして、それぞれの良い所を全て取り入れ、強くて速くて器用で柔軟な体を作りながら、技術と経験を積み重ねるのが理想です。体を作って行きながら技術の向上を同時に進行することができる環境を自分で作りましょう。

 しかし、以前もココに書きましたが、ニッポン人とアメリカ人の大きな違いはダントツで技術力です。強い肉体を持ち、子どもの頃から最高地点の選手を見て憧れ続け、多くの強敵を相手に経験を積む。若い人ほど体を鍛えに鍛えて頑張ってもらいたいなと思います。

 ファンが待ち焦がれる秋の本番開幕まであと少し。毎日暑いですが、選手の皆さんはけがのないようにシーズンを迎えてください。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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