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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

生まれながらのリーダー 立教大2年生SF森上衛

2016.3.29 13:26 宍戸 博昭 ししど・ひろあき
2年生ながらチームを引っ張る森上選手=埼玉県富士見市の立教大グラウンド
2年生ながらチームを引っ張る森上選手=埼玉県富士見市の立教大グラウンド

 ヘルメットからはみ出した長髪をなびかせながら、立教大の2年生セーフティー(SF)森上衛は、誰よりも声を出し、プレーで仲間を引っ張る。

 高校アメリカンフットボール界の名門・関学高等部から、昨年「ラッシャーズ」に入部した異色の経歴の持ち主は、既にリーダーの風格を漂わせている。

 2014年度の高校日本一を決める「クリスマスボウル」は2年前の12月23日、大阪市のキンチョウスタジアムで行われた。

 関学高等部の主将だった森上は、DB陣の要として出場。関東代表の早大学院高に13―10で競り勝ち、チームに10年ぶり17度目の優勝をもたらした。

 この年の関学高等部は、春から練習試合を含めて負けてばかりだった。そこで森上をはじめとする3年生は考えた。「さてどうしよう。チームとしてよくない自分たちにできることは少ない。何か一つ決めてやり切ろう」と実行に移したのが「返事」と「素早い集散」の励行だった。

 戦術や技術の向上より、規律や精神面に重きを置いたことで、チームはまとまりを見せ始める。

 春の兵庫県大会の初戦で「絶対に負けたくない相手」(森上)という姉妹校の啓明学院高に敗れたのも発奮材料になった。

 関学高等部には、3年生が背中で下級生を引っ張る伝統があるという。有言実行を最上級生が守ることで、チームは結束した。

 「3年の夏合宿では、あんなしんどいことはもう二度とないんちゃうかと思うくらい練習した」という。2年生からディフェンスリーダーを任され、上級生と話す機会が多かったことも、森上にとってはいい勉強になった。

 立教大には、将来家業の物流会社を継ぐことも視野に入学した。専門知識を身に付けることができる学部があったからだ。

 1年だった昨シーズン、立教大は関東学生リーグのビッグ8に所属。高校のエリートはレギュラーのSFとして全試合に出場。抜群のプレーリードと確実なタックルで、守備陣の中心的な役割を果たし、チームが上位リーグのトップ8に復帰する原動力になった。

 トップ8への昇格は、甲子園ボウルに出場するチャンスを再び手にしたことを意味する。低迷が続く1934年に創部した日本アメリカンフットボール界の「ルーツ校」はこの春、復活を目指し本腰を入れて組織の改革に乗り出した。

 その最大の目玉が、監督として京大を6度の大学日本一に導いた水野彌一さんの招聘だ。4月1日付で正式に「シニアアドバイザー」に就任する水野さんは、既に埼玉県富士見市にある専用グラウンドで、精力的な指導を始めている。

 その水野さんが、「ぜひ会ってじっくり話をしてみたい」と言っていたのが森上だった。

 中村剛喜監督、市瀬一ヘッドコーチを交えた面談での水野さんの森上評は「関学のDNAなんでしょう。素晴らしい考え方とリーダーとしての資質を持っている。彼には、たくさん仕事をしてもらわないといけないと思っている」。名将は一目でその才能を見抜いていた。

 「水野さんが来て、劇的に練習メニューが変わって最初は戸惑ったが、今はチームにいい変化が表れている。水野さんは、ワクワクするような話をしてくれる。例えば『アメリカ人より、ヒットに関してはうまくなれる』とか、その気にさせるのがうまい。これをやれと押しつけるのではなく、こちらの意見も取り入れて柔軟に対応してくれる」

 関学と京大。関西学生リーグの両雄は、対照的な文化でチーム作りをしているというのが一般的な認識だが、異文化交流による“化学反応”は、いい方向に向かっているようだ。

 水野さんが目指すのは、ずばり立命と関学のディフェンスだ。森上によれば、それは「選手個々の戦術に対する理解度が高く、アサインメントに縛られないディフェンス」だという。

 最後尾を守るSFというポジションの性質上、そうしたコンセプトの確立が、とても重要であることはよく分かっている。

 中村監督が、こんなエピソードを披露してくれた。3月のトレーニングキャンプ最終日。ハドルを締めたキャプテンに、森上が「ちょっといいですか」と声をかけた。

 「この程度で満足していたら駄目。去年、早稲田に負けて悔しい思いをした日大はもっとやっている。もっと突き詰めてやらないといけない。当たり前にできることからやろう。それもできないうちに、日本一はないでしょう」。まだ2年生。高校時代の実績もあるが、こうした物言いを嫌みなくできる男なのだそうだ。

 177センチ、77キロ。大学に入って体も大きくなった。「高校の時もコーチに恵まれたが、水野さんとこうして一緒にフットボールができるのは、運がいいと思う」

 神戸生まれの生粋の関西人。「関東風の味噌汁が苦手」と笑う好青年が指さしたのは、水野さんの指示でグラウンドのネットに貼られた張り紙だった。そこには「早稲田戦まで164日」と書かれていた。(敬称略)

秋季リーグ初戦の早大との試合までの日数が書かれた張り紙=埼玉県富士見市の立教大グラウンド
秋季リーグ初戦の早大との試合までの日数が書かれた張り紙=埼玉県富士見市の立教大グラウンド

練習で激しいタックルを繰り返す森上選手=埼玉県富士見市の立教大グラウンド
練習で激しいタックルを繰り返す森上選手=埼玉県富士見市の立教大グラウンド
宍戸 博昭 ししど・ひろあき

名前 :宍戸 博昭 ししど・ひろあき

プロフィール:1982年共同通信社入社。運動記者として、アトランタ五輪、テニスのウィンブルドン選手権、ボクシングなどスポーツ全般を取材。日本大学時代、「甲子園ボウル」にディフェンスバック、キックオフ、パントリターナーとして3度出場し、2度優勝。日本学生選抜選出。NHK―BSでNFL解説を20年以上務めている。

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