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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

重要なのは「勇気」 集中し、常に全力で臨め

2016.10.6 11:05 中村 多聞 なかむら・たもん
「ライスボウル」で最優秀選手になったアサヒ飲料時代の中村多聞さん
「ライスボウル」で最優秀選手になったアサヒ飲料時代の中村多聞さん

 法政大学の新監督安田秀一氏が「フットボールは勇気を競う競技である」と、最新のコラムに書かれていました。僕も正にその通りだと思っています。試合や練習でのあらゆる局面で勇気はとても重要です。

 失敗するかもしれないという時に「構うもんか、やってやれ!」と全力で臨むことは簡単ではありません。

 弱気になった心を操作するのは本当に難しいものです。性格的に失敗をそれほど気にせずドーンとできる人もいらっしゃいます。小心者の僕はそういう人を本当に羨ましく思っていました。

 以前このコラムでも「心の迷いや不安、雑念がいいプレーを生まない」というようなことを書きましたが、やはり心の在り方は非常に重要です。

 このところしょっちゅうコーチングでグラウンドに立っていますが、ギャーギャー大声を出しながらいろいろなポジションの選手を客観的に冷静に観察しています。

 平常心でリラックスし、プレッシャーがない時には簡単に成功する技でも、シチュエーションが決められピンチを想定した練習では失敗を恐れてミスをします。もちろん試合でも失敗します。

 ギリギリまで己に挑戦したミスではなく、失敗を恐れ逃げ腰で臨んだ結果のミス。これは「勇気」が足りないわけです。

 ノジマ相模原ライズ用語で言う「メンタルエラー」です。勇気を出し渋った選手は、そのプレーの失敗は反省するが、勇気の出し渋りには注目せずまた同じことを繰り返します。

 勇気を出す訓練が必要なことに気づかぬまま、真面目に熱心に技の練習に明け暮れ大切な局面ではいつも失敗する。その結果コーチや仲間からの信頼を失い出場の機会がだんだんと失われていく。よくある話です。

 僕自身も選手時代、自分の実力がリーグのレベルに達した時には勇気が無限に湧き出てどんどん挑戦した良いプレーができるのですが、また一段上のレベルに上がると失敗やミスを恐れて腰が引けてしまうという繰り返しでした。

 思いっきりの良さが自分の武器なのに、腰が引けていては実力が上の人と対戦してもかないっこありません。コーチの考えた作戦を覚え間違っていないだろうか? 自分の役割はコレで合っているのだろうか? そんなことを迷っていてはハードで確実なプレーなど絶対にできません。

 僕の場合はNFLヨーロッパ時代、キックオフカバーでいろんな恐怖や迷いから抜け出すことができました。

 直線を走るスピードにはアメリカ人と比べても自信がありましたし、体重も100キロオーバーですから威力がつけばアメリカ人も怖くない! と勘違いをしていました。

 当時は常に重心が高く、強い走りというものを理解できていなかったのに自分の不完全さを認識せずに自信満々で「ウェッジバスター」を率先してプレーしていました。

 重心が高く視野が狭いので、横からアメリカ人にハードヒットされるとかなり吹っ飛ばされたりもしました。しかし、なぜかこのキックオフカバーだけは心が折れたりビビったりすることなく、毎試合毎プレーフルスピードで突っ込むことができたのです。

 相手はドラフトでNFLに就職したがベンチ入りがかなわず仕方なくマイナーリーグで修行し、本国のメジャーリーグへの復活を目論む猛者ばかりです。彼らも本気の本気ですから、キッキングで日本人の「ホケツ野郎」に負けるわけにいかなかったでしょう。

 僕のプレーがうまくいった次節はマークが厳しくなったりしました。しかし、すごいスピードで突き抜けながら広い視野を確保し、可能な限り重心を低くしてリターナーの手前にいる大きな体の「ウェッジ」に突き刺さるまでノンブレーキで突っ込むという実践練習が、ランニングバックとしてスクリメージで走る訓練になったことはいうまでもありません。

 スクリメージ上のスピードはキッキングに比べると非常にスローです。ただし、キッキングのような勢いに任せたマグレは絶対に起こりませんが。

 自分だってNFL級の連中に対して戦える土俵がある。ただし実力では圧倒されるので、スピードと根性(勇気)をフルに満タンでプレーしなければ大けがをさせられる可能性もあります。

 少しでもビビって減速したら僕の存在価値はなくなります。そして「あ、この気持ちでランニングバックの時もやらなきゃダメなんだ」と気づくのです。

 それからは毎日の練習でどんな小さなドリルも、ハンドオフ練習も、もちろんスクリメージ練習も、気持ちを試合以上のモードに切り替えて臨めるようになったのです。

 最初の話に戻りますと、いかに勇気が重要か。失敗などのネガティブなことを連想したとしても、そんなことに惑わされず全力で戦わねばいけません。しっかり切り替えができるようになった時、僕はあらゆるゲームで自分の実力を完全に出すことができるようになりました。

 緊張していても、興奮していても、病気でもけがでも全く関係なくチカラを出し切れるようになったのです。

 リラックスした状態でできることが、別の局面になるとできなくなる。この誤差が小さくなればなるほどチームの役に立つ「いい選手」になります。

 元々の実力など同じリーグ内ならそれほど変わりません。そのゲームやそのプレーでいかにフルパワーでいつも通りに動けるか。練習ではできるけど試合じゃ失敗することが一つでもある選手は、もう一度自身を振り返り心の安定度をチェックしてみてはいかがでしょうか。

 集中していましたか? 失敗を恐れていませんか? 自信満々ですか?他に雑念はありませんか?

 シーズンは中盤戦。思い切りのいいプレーで自分に挑戦してくださいね。集中しているとけがも少ないですよ!

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。

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