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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

「二足のわらじ」とフットボール 自身が綴る中村多聞物語62 

2017.5.11 10:31 中村 多聞 なかむら・たもん
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念願だった「タモンズバー」をオープンし、店内でシェイカーを振る多聞さん=写真提供・中村多聞さん
念願だった「タモンズバー」をオープンし、店内でシェイカーを振る多聞さん=写真提供・中村多聞さん

 念願のお店「タモンズバー」を試合日である日曜日に開店させ、ご機嫌で初日の営業を終えました。

 しかし、明日は平日の「月曜日」です。前に所属していたサンスターのグラウンドの近くに引っ越しているので、職場までは電車を使って1時間と少しかかります。

 早朝の通勤ラッシュに揺られ出勤。午前中はオフィスで仕事をこなし、そのあと車で1時間以上かかる取引先に向かいます。

 ゆっくりレストランで食べる金銭的な余裕はありませんので少しの栄養を摂取し、状態の良い公園などで45分ほど一人で走り込みをします。

 走るフォームをチェックする日、体力アップを目指す日といろいろです。シャツを着替えて午後一番に取引先に顔を出し、仕事の打ち合わせです。

 道路建設会社ですので、その後現場で測量などを行い夕方会社に戻って製図したり積算したりで退社時間の17時が来ます。

 残業禁止の会社でしたので、17時10分には電車に乗り大阪で最も大きなターミナル駅「梅田」に出ます。

 そして駅前のフィットネスクラブでウエートトレーニングとカーディオトレーニングを2時間強こなし、20時に「タモンズバー」をオープンさせます。

 アサヒ飲料の選手を中心にその友人たちで毎日賑わっていました。彼らも終電に間に合うように帰るので、店は0時に閉店。僕も終電で帰宅しすぐに寝る、というスケジュールです。

 わずかですが利益も出て、普通の30歳くらいの収入に手が届く感じになって来ました。

 4週間後に控えたプレーオフに向け、アサヒ飲料は対戦相手もわからない状況だし、休息も必要だということで1週だけオフになりました。

 久しぶりの土日オフで、ここぞとばかりに商売に打ち込みました。当時を振り返ると、何もかもが順風満帆で闘争心やチャレンジ魂、ハングリー精神が薄れていました。それだけが自分の武器だったのに、少しばかり結果が出たからとそこそこ満足してしまいました。

 リーグ戦から2週間後、アサヒ飲料の練習が再開されたのですが、ここでアクシデントが発生します。

 自称守備の要であるラインバッカー(LB)の山田晋三が大けがをして、試合出場は不可能という診断です。

 守備とキッキングで持ちこたえて、肝心要のところでサクッと点を取りロースコアの根性勝負がアサヒ飲料のスタイルなのにこれは大変だ! となりますが、いかんせん当時はあまり晋三の性能のことは知らなかったので「ガリガリの関学OBがけがした」くらいにしか考えていませんでした。

 試合前日にアサヒ飲料グラウンドで練習をしていると、そのグラウンドを見下ろす形でかかっているバイパスを通る観光バスの窓が開いていて「ヘイヘイヘーイ!」なんて言いながら大勢が手を振っているではありませんか。シーガルズ関係者のバスです。

 僕も含めて全員があっけに取られました。もう相手に飲まれている感じです。彼らがどこからどこに移動していたのかわかりませんが、こんなことがあり得るんだなと感心しました。

 そして試合当日になりました。僕が敵のフィルムスタディーをあまり参考にしない理由になった大きな原因となる試合になります。

 フィルムで見ている限り、動きの速さや強さはそれほど見えません。関西では見られない隊形で特殊な守り方をしていることぐらいしか特徴は見えません。あとは全員がいつも元気で走って走って追いかけまわす、という印象です。

 とてつもなく強いことは理解していますが「どう強いのか?」が僕の洞察力ではフィルムからの情報だけじゃ理解できないのです。

 戦ってみてタックルをされてみてから分析をするスタイルを取るようになったきっかけでもあります。

 ですからガツン! とぶつかってみて、どんなものなのか体感してみるしかないと腹をくくって勝負の時間になりました。

 スコアこそ16―21となんとかカッコはつきましたが、僕自身は完全に雑魚扱い。まるっきり走らせてもらえませんでした。

 攻撃パターンの少ない僕らアサヒ飲料オフェンス、相手の戦い方の全てを予測してシュミレーション練習を繰り返します。しかしその仮想シーガルズ守備は本物とは全然違うものだったわけです。

 動きの速さ、タックルの強さ、闘争心と、これまで出会った日本のチームではナンバーワン。すさまじい強さがありました。

 走る隙間があるように感じて突っ込んでも、何重にも警備態勢が敷かれていてあっさり捕まります。見えたのは抜け穴ではなく罠なのです。

 何度か挑戦しましたが全然ダメでした。通用しません。敗戦後の取材で「シーガルズの守備はスクリーンとかフェンスのようだった。どこに逃げても捕まる。何をやってもどんどん人が集まってきて走らせてもらえなかった。一から出直します」と悲しく話す僕でした。

 個人記録=12回で28ヤード、タッチダウンなし

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優 勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は梅田と西麻布でバーガーショップを運営する有限会社 タモンズ代表取締役。。

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