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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

ブレイディが脳しんとう? ジゼル夫人の発言に揺れるNFL

2017.5.18 16:38 生沢 浩 いけざわ・ひろし
イベントにそろって参加したペイトリオッツのスターQBトム・ブレイディ(右)と夫人のジゼル・ブンチェンさん(AP=共同)
イベントにそろって参加したペイトリオッツのスターQBトム・ブレイディ(右)と夫人のジゼル・ブンチェンさん(AP=共同)

 「口は災いのもと」というが、ちょっとした弁解のつもりが思わぬ事態を招く火種となる。

 飛び火を受けることになるのは5度目のスーパーボウル制覇を達成し、4度目のMVPに輝いたNFLペイトリオッツのQBトム・ブレイディ。そして、火元は妻でスーパーモデルのジゼル・ブンチェンさんだ。

 ジゼルさんは5月17日に出演したCBSテレビのニュースショー「This Morning」の中で「去年、ブレイディが脳しんとうを起こしていた」と発言したのだ。

 しかし、ペイトリオッツが発表する故障者リストにブレイディの脳しんとうは含まれていなかった。ジゼルの発言が事実であれば、ペイトリオッツは虚偽の発表をしたことになる。

 それがNFLに対して報告義務のある脳しんとうであれば問題は深刻だ。ブレイディとペイトリオッツに新たなスキャンダルが発覚したことになる。

 ジゼルさんの発言が話題になるのは今回が初めてではない。2011年シーズンのスーパーボウルでジャイアンツに敗れた直後に、試合中にブレイディのパスを落球したレシーバーを名指しで批判したことがあった。

 今年のスーパーボウル後には、優勝を機に引退することを懇願したとも言われる。

 NFLというスポーツの世界ではブレイディはスーパースターだが、世間一般ではジゼルさんの方が世界的なファッションモデルとして知名度が高い。

 それだけに彼女自身が各種のインタビューに答える機会は多く、この日の出演もそうだった。

 番組司会者のチャーリー・ローズ氏が「あなたがブレイディに引退を勧めたと、あなたの夫である彼自身が言っているが」とたずねたところ、ジゼルさんはやや興奮気味にこう答えた。

 「フットボールが危険のないスポーツだとは言えませんよね。彼(ブレイディ)は去年、脳しんとうを患ったんです。これまでに何度も。それについてお話しするつもりはありませんけど、本当に何度も経験しました。これは健康にいいことだとは思いません。私は100歳になっても彼が健康でいて、今と同じように楽しく過ごしたいと思っているんです」

 弁明に懸命すぎるあまりの発言かもしれないが、ジゼルさんはブレイディが脳しんとうを患っていたことを認めてしまった。

 その後2度も「脳しんとう」という言葉を繰り返し強調している。これは単に口が滑ったでは済まされない。

 ジゼルさんの発言がツィッターやスポーツニュースで話題となると、NFLは当日中に「ブレイディが脳しんとうを受けたという記録はリーグにはない」との声明を発表した。

 これはペイトリオッツにまつわる新たなスキャンダルなのか。07年には対戦相手の練習やサインを不法に録画していた、いわゆる「スパイゲート疑惑」で処分を受け、15年にはボールの空気圧を規定以下に低くする違反行為をしたとする「デフレートゲート」と名付けられた疑惑が発覚し、処分を受けた。

 デフレートゲートでは、リーグの調査に非協力的だったとして、関与が疑われたブレイディが昨季4試合の出場停止処分を受けたばかりだ(ブレイディが実際に関与したかどうかは不明のまま)。

 過去16年で14回の地区優勝、5度のスーパーボウル優勝を果たした常勝チームのペイトリオッツだけに注目される一方で妬みもあり、時にはちょっとしたことが針小棒大に伝わることも否定できない。しかし、今回は脳しんとうに関わる問題なだけに看過はできない。

 脳しんとう対策はNFLのみならず、アメリカンフットボールという競技の存続にかかわる課題である。

 頭や首へのダメージを少なくする「ヘッドアップタックル」が導入され、その指導が浸透しつつあるのもこの課題への取り組みの一つだ。

 NFLも脳しんとうには厳しいルールを設けてきた。脳しんとうの疑いがある選手には、チームと利害関係のない第三者の立場の医師が診断し、練習再開と試合出場の許可が出るまでは復帰できない。

 また、昨年は試合途中であっても脳しんとうの症状が出た場合は医師がタイムアウトを要求できるとする新ルールも導入された。

 ブレイディの脳しんとうを隠ぺいしていたのが事実なら、アメフット界全体の流れに逆らうものであるし、模範であるべきNFLへの背任行為でもある。

 もっとも、この件に関する真相の究明は難しい。ブレイディが脳しんとうを起こした証拠は今では確認できないだろうし、ジゼルさんが「発言は間違いでした」と否定すればそれでピリオドが打たれてしまうからだ。

 ブレイディといえば、最近は人気のビデオゲームシリーズ「マッデンNFL18」のパッケージの表紙に起用されることが話題となった。

 これは「マッデンの呪い」とまで呼ばれるジンクスがあり、表紙を飾った選手がそのシーズンに故障や不振に見舞われる例が過去にいくつもあった。

 もっとも、当のブレイディは全く気にしていないようで、SNSなどを通じてそのジンクスを笑い飛ばしている。

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。英字新聞ジャパンタイムズの運動部長を経て現在は日本社会人アメリカンフットボール協会の事業部広報兼強化部国際戦略担当。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。大学時代のポジションはRB。日本人で初めて「Pro Football Writers of America」の会員となる。

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