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共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

「ドカーンと突っ込め!」 パスプロテクションの極意教えます

2017.9.14 12:10 中村 多聞 なかむら・たもん
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「パスプロテクション」の方法を教え子のRBに指導する中村多聞さん=写真提供・中村多聞さん
「パスプロテクション」の方法を教え子のRBに指導する中村多聞さん=写真提供・中村多聞さん

 僕は「ランニングバック(RB)」の技術向上に特化したコーチをしておりますが、RBというポジションの人だけでなく、ボールを持って走る可能性のある人全てに「知っておいてもらいたい」「守ってもらいたい」ことを伝えています。

 パスを受けるレシーバーも、捕った後にたくさん走ることができた方がいいに決まっていますし、クオーターバック(QB)も時にはボールキャリアになります。

 キックされたボールを受ける「リターナー」もそうですし、守備選手がインターセプトしたらボールキャリアになりますので、ほとんどのプレーヤーにその機会が訪れる可能性があります。

 しかし、フットボールというのは分業制です。まずは自分の仕事をこなすのに精いっぱいです。

 つまり、練習時間も限られている中で「いつかボールを持って走る時のためにタモンに習っておこう」なんていう余裕がある人はたまにしかいません。

 1度や2度習っても大してうまくなるわけでもないのですが、少しでもチームに貢献したいからと個別に習いに来るやる気満々な人もいます。

 そもそもRB以外のポジションからすると「ボールを持って走る」という行為は余分な作業です。自分に与えられている仕事の量も多く、種類も多岐に渡っています。

 それを瞬時の判断で選択し最良の仕事を実行、それがとてもうまくいった後にプラスボールが目の前に来る、そしてそれを持ってできるだけ前に運ぶ。この部分のために時間を割いて努力する人などいなくて当然でしょう。

 ボールを持って走るだけなら子どもでもできます。その他のポジションに与えられた任務に比べたらかなり簡単な作業と言えるでしょう。

 RBはそんな簡単なことだけを練習しています。そう言ってしまうと語弊がありますが、選手の関心事の90%は、自分がボールを何ヤード進められるかに尽きますので、少しでもうまくなろうと努力します。

 簡単に見えることほど奥が深く、極めるのが難しいと僕は考えています。

 料理や音楽の世界、格闘技や武術、あらゆるスポーツでも同じだと思います。簡単そうに見えることほど難しい。

 ボールを持って人と人の間を駆け抜けるという技術は簡単そうに見えて実はやっぱり奥が深く、教える方も学ぶ方も大変で、試行錯誤して研究や工夫をし続けています。

 今回はボールを持って走るお話ではなく、RBにとって重要な技術の一つ、パスの時にQBを守る「パスプロテクション」について説明します。

 背が高く筋骨隆々で、さらに俊敏であればそれに越したことはありませんが、すばしっこいRBは体の小さい選手が多いのも確かです。

  「パスプロテクション」は非常に難しい技術として業界内に君臨しているので、ほとんどのRBからは愛されていないプレーの代表格でもあります。

 僕も選手時代はとても苦手としており、うまくいった記憶がありません。しかし、この「パスプロテクション」がうまくなったと同時に、ボールキャリアとしても一皮むけ、何とか一流選手の仲間入りを果たしました。

 単純な技術としてだけでなく「守備選手からQBを守る」という使命全体を頭に描き、自分が今どうするのがベストなのかを理解し先読みし実行できるようになったことが要因だと思っています。

 ボールが動き出したら敵の動きを予想し、それに負けないスピードとパワー、相手との心理戦、激突してから押し合いの中でさまざまなテクニックを駆使し合い、5秒ほどの1プレーが終わります。

 この中で、どれか一つでもおろそかにしたら敵にやられてしまいます。でも、中級者の頃はこの中のいくつかはできてもいくつかを忘れてしまい、焦ってしくじってしまうという悪循環が続きます。

 RBは「パスプロテクション」ができなくてもいいんじゃないのかな、なんて都合のいい解釈をして逃げていました。

 現在コーチをしていても、この「パスプロテクション」は見事に全員がが苦手とし、昔の僕と同じミスをしています。

 昔の僕は体力に任せて練習していた、攻撃の作戦を覚えるだけで心の病気になるほどのダメ選手でしたが、今僕がコーチしている選手たちは優等生ぞろいです。

 敵と味方の作戦を知り尽くし、自分がどうすればいいのかも理解しています。あとはほんの少しだけテクニックを習得すればいいだけなのです。

 この「テクニック」はもちろんメカニズムとしては簡単で、結局のところフットボールの醍醐味である「激突力勝負」になるはずなのですが、みなさんがフットボールを始めた時に誰かに教わった激突(ヒットと言います)の仕方がとても変で、敵にヒットする直前に「今からヒットします!」という仕草をするのです。

 そうなれば守備選手にとってはとてもありがたい話で、対応策はいくらでも思いつくというわけです。

 「相手の位置に対して、この距離で構えて、膝を少し曲げてエイやー!」と相手にヒットする。なんて感じで習ったんだと思うのですが、みんなが全く同じリズムで同じ間合いで当たろうとするのです。

 そしてなぜか力の向きは斜め上方向。誰が広めたんやろホンマこれ。

 僕が初めてプロのアメリカ人とフットボールをしたのが、今から約20年前の1998年です。この時に最も感じた彼らの特徴は「手のひらでフットボールをする」というかヒットするのです。

 日本ではまだそれほど注目されていない時代でした。

 もちろんアメリカ人選手は手が長いですから、組み合えば僕など彼らにヒットが届きません。試行錯誤しながら「パスプロテクション」に挑戦していたら、コーチがコツを教えてくれました。要約すると「もっとドカーンと突っ込め!」と。

 「ドカーンと突っ込む」とどうなるか。聡明な読者の皆さんならすぐに分かると思います。そうです、見事にスカされて触れることもできず恥をさらすわけです。

 が、その失敗を繰り返すうちに相手が僕と当たる時に左右どちらかに動く、または僕を押し込もうと強く前進して来る前に、相手の間合いに入り込んでヒットできるようになってきたのです。NFLにドラフトされるようなプロのラインバッカー(LB)相手にです。

 「ドカーンと突っ込め」の意味が分かってからは、ずっとプロのLBとの勝負を楽しめるようになっていったのです。

 僕がうまくなれた理由の一つですが、慣れたやり方でうまくいかないなら、コーチの教えを100%信じて自分をフルモデルチェンジしてみることです。

 全く新しい自分になってみて、そのやり方で褒めてもらえるまでチャレンジし続けるのです。「アンタの言った通りにやってるけど、全然うまくいかないよ!」と愚痴りながら、何度も何度も全力でやってみるのです。

 「コーチがわざわざ嘘をつくわけはない。効果が出ないのは飲み込みの悪い自分の責任だ。練習が足らないんだ。じゃあもっと練習だ。絶対にこのやり方で新しい自分に生まれ変わってやる」

 今振り返ると、これが僕の技術習得法だったように思います。

 最近のXリーグは、大型のアメリカ人選手がたくさんいて「パスプロテクション」は大変です。でも大きな選手と、これでもかというほどのハードヒットで勝負している小柄な選手がいたらカッコイイですよねー。

 セコくて賢くてうまい選手ではなく、魂のあるオトコが冬にヒーロになっていることを願っています。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優 勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は梅田と西麻布でバーガーショップを運営する有限会社 タモンズ代表取締役。。

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