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週刊TURNOVER

共同通信社が運営するアメリカンフットボール専門のウェブマガジン。国内外のフットボールを紹介するベテラン記者のコラムや、国内注目試合の見どころやリポートなどを毎週掲載する。監修は共同通信記者で、NFLの解説者でもある宍戸博昭。

細かい技術は安定した心があってこそ武器になる 大切なのは「戦いの準備」 

2017.10.5 10:37 中村 多聞 なかむら・たもん
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立教大との試合で、早稲田大のサイドラインから戦況を見つめる中村多聞コーチ=撮影:seesway
立教大との試合で、早稲田大のサイドラインから戦況を見つめる中村多聞コーチ=撮影:seesway

 このコラムを書き始めて、4年が経過しました。時々お休みをいただきましたが、ほぼ毎週1話ずつ「TAMON’Sスタイル=僕の考え」をつらつらと書かせてもらっています。

 当初は自称「フットボール評論家」として、耳で聞いたことや目についたことを取り上げたり、僕が体験してきたフットボールの昔話を交えたりして文字にしてきました。

 そして最近はコーチとして現場に戻り、時にはチームの中から見たことを書いています。

 そして2017年シーズン初となる「コーチタモン、早稲田ビッグベアーズ公式戦のサイドラインに立つ!」が叶いました。

 場所は東京都江東区にある夢の島陸上競技場。関西人の僕はこの会場を全く知りませんでした。都会の便利な場所にあって、天然芝のきれいなスタジアムでした。

 観客席が片側にしかないので、応援が少し変になっていましたが、学生フットボールはブラスバンドなんかが来ていたりして、校歌や応援歌を合唱する雰囲気は僕にはとても新鮮な時間でした。

 相手はあの京都大学ギャングスターズ前監督の水野彌一さんがアドバイザーを務める立教大学ラッシャーズです。

 僕は攻撃側のコーチですので立教大の守備は事前にビデオ映像で確認しているのですが、攻撃側は一切見ておりませんでした。

 攻撃権を先に取った立教大学は、僕らが大学生の頃から慣れ親しんだ二人のランニングバックと二人のレシーバーという非常にベーシックなアイ(I)フォーメーションも使いながら、今じゃ完全に時代遅れな攻撃方法で攻めて来ました。

 しかし、フォーメーションの種類が少なくプレーも複雑なものを多用せず、おそらく練習の精度が非常に高められており、目を閉じていても遂行できるほどに完成されているのでしょう。テンポよく息の合ったプレーで早稲田陣にグイグイと侵攻して来ます。

 パスを3回、ランを6回したところで40ヤードほどの前進です。あと少しでフィールドゴールを蹴られる場所まで到達しそうなサードダウン1ヤードで、痛恨のフォルススタートの反則を犯してしまいそのあとのパスを失敗。やむなくパントとなりました。

 このファーストシリーズは結果として40ヤードの前進だけに留まりましたが、僕の目から見ると結局フットボールはこういうことが大切なんだなと、あらためて考えさせられました。

 何度も何度も同じプレーを練習して皆が不安なく動けるようになるまで反復する。その中で選手は全力でファイトする。

 強く動き激しくヒットする。相手が地面にめり込むような強いタックルやブロック。大きな激突音が会場に響き渡る。それがあってから、スタンドの上から戦況を冷静に観察して分析、最高のタイミングで最高の作戦を指示。フィールド上の選手全員が見事に最高のパワーとスピードを出しながら熱い闘志と冷静な平常心のバランスを取り、すばらしいパフォーマンスを発揮。その繰り返しがゲームの勝敗を分けるということなんですね。

 ですが日本のチームは学生も社会人も選手をはじめ、チーム関係者は生活のためではなく、ほとんどの人が好きということでやっています。

 釣りが趣味でも釣りたくない魚を狙う人がいないのと同じで「自分がこうやりたい」を叶えるべきですし叶えたいでしょう。

 なので流行のプレーなどに目がいくのは当然です。真剣勝負ですから「何をすれば必ず勝つ」というものもありませんので、毎年毎年が試行錯誤のチャレンジ続きになることは言うまでもありません。

 ただし、どんな戦略や戦術、チームフィロソフィーがあろうとも、ライスボウル制覇を目指しているチームの選手ならば絶対に守らねばならないことがあります。

 それは当たり前のことばかりですが、ライスボウルが最も重要なものと設定し、練習の全てを全力でやり、ゲームも全力でやる。日頃のハードワークも当然です。

 練習はけがをしないように軽くやって、作戦だけはなるべく間違えないでね。やれる範囲でそれぞれある程度頑張ろう、なんて方針を掲げているチームはチャンピオンになれないでしょう。

 フットボールをプレーしたりコーチしたりというのは、作戦の優劣と指先の操作だけを競い合うテレビゲームではありませんから、プレーヤーは自分のできることを毎プレー毎プレーで精神集中して、フルパワーを使い切らなければならないのです。

 心肺機能の限界を超え、けがや脳しんとうの恐怖に打ち克つ精神力。人間ですからフルパワーで走ったり敵にぶつかったりを何十回も繰り返すことなどできません。

 しかし、それをやっているのが米国のプロフットボールリーグなのです。超人的な体力というのは筋肉量や持久力のことだけじゃありません。もうダメだとなっても体のどこかに貯めてあったエネルギーを振り絞って、怖がらずに全てをかけて敵に突進し続けるのです。

 そのうわべだけを見て、ワンハンドキャッチや作戦だけ真似していても本物には近づけません。僕はコーチとしては全く持って未熟で、戦術面でのアドバイスや提案は苦手です。

 ただし「戦いの準備とは」については独自に長く研究して来ていますので、その部分を選手たちに伝えています。

 細かい技術は安定した心があってこそ、敵を倒す強烈な武器になります。心が乱れ、技術が発揮できない状況で最高の作戦があってもうまくいき続けるとは思えません。

 「ゲームで良いパフォーマンスを発揮したければ、練習時間をいかに過ごすかにかかっている」は、これまでこのコラムで何度も書いてきました。

 タモン式ランニングバック養成所の理念の一つでもある「何をやるかではない、どうやるかだ」に集約されていますが、通常のチーム練習はただこなすだけなら軽いものです。

 しかし、僕がアメリカで見たプロ選手の練習への取り組みは僕の持っていたそれまでの概念を完全に覆しました。

 どんな小さなドリルでも、全てのプレーでフルに全力で動くのです。気温が一桁のような寒い日に練習前は「寒い寒い、こんなんで練習するのイヤイヤ」と愚痴をこぼしていたような選手も、夏の日のように汗だくになり、時には大声で叫びながらプレーしていました。

 2時間ほどのチーム練習はプレー数も大して多くありませんが、練習が終われば皆ぐったりです。プロのアメリカ人こそ「ド根性」で練習に取り組んでいるのです。

 今日うまくいかなかったプレーやテクニックをもう少し居残りして練習しよう。走り込みをしようというようなことは非常に希で、皆エネルギーの残存量がゼロの状態です。

 そりゃあそうでしょう。あれだけ必死に2時間動き回れば。

 プロのチームは人数が約50人とギリギリに設定してあるので、予備の選手があまり存在しません。

 ですから、今日はあんまり練習してないという選手はほぼいないという特性もあります。これが本来あるべき姿だと思っています。

 まずは練習のやり方をNFLに近づけて、いついかなる時も全力で動けるプレーヤーになりましょう。

 次の練習からは、限界に挑戦するつもりで全力投球してみてはいかがでしょう。世界が変わりますよ。

中村 多聞 なかむら・たもん

名前 :中村 多聞 なかむら・たもん

プロフィール:1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優 勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は梅田と西麻布でバーガーショップを運営する有限会社 タモンズ代表取締役。。

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