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PR特別企画 全国社会保険労務士会連合会(厚生労働省委託事業)働き方改革の現状は?施行3年目 専門家が議論

働き方改革の現状を議論 施行3年目の成果と課題

大野実氏(左から2人目)を司会役に、話し合う水町勇一郎氏(左端)と今野浩一郎氏

 働き方改革関連法は施行3年目を迎えた。先進的な改革事例が積み重なる一方、中小企業を中心に取り組みの遅れも指摘されている。施行3年目の成果と課題について、労働法が専門の水町勇一郎・東京大教授、人事管理に詳しい今野浩一郎・学習院大名誉教授、人事管理が専門の松浦民恵・法政大教授、改革を後押しする大野実・全国社会保険労務士会連合会長の4人が語った。

待遇格差是正の動きも 不可欠な社労士の支援

今野 浩一郎氏

今野 浩一郎氏(いまの・こういちろう)1946年東京都生まれ。東京工業大大学院修了。専門は人事管理。

 大野 働き方改革関連法が施行3年目となる中、成果や課題は何か。

 水町 就業規則や三六協定の作成など法的なインフラを整備する動きが中小企業にも広がった。法が定めた正規・非正規雇用労働者(短時間・有期・派遣労働者)間の不合理な格差をなくす「同一労働同一賃金」の原則や、時間外労働の上限規制などに対応するためだ。しかし、全体には広がっていない。社会保険労務士(社労士)ら専門家や国の後押しでさらに広げる必要がある。

 今野 中小企業の改革には社労士の支援が欠かせない。ただ、就業規則の作成、見直しは、中小企業自身が事業内容に照らして同一労働同一賃金などの諸課題にいかに対応するべきかを、しっかり考えた後にやるべきだ。法の要請に合わせることのみを考えて、取り組むことは避けてほしい。

 松浦 中小企業の法対応のタイミングが新型コロナウイルス感染拡大と重なった。働き方改革に向けるはずだった企業のパワーが、助成金受給などのコロナ対応に取られた面がある。一方、コロナ禍はテレワークの普及など従来の働き方を見直すきっかけにもなった。企業はコロナ後も見据え、多様な働き方や、公正な賃金制度など、本質的な課題に取り組めるよう体制を立て直す必要がある。

水町 勇一郎氏

水町 勇一郎氏(みずまち・ゆういちろう)1967年佐賀市生まれ。東京大法学部卒。専門は労働法。

待遇の一本化も

 大野 正規・非正規雇用労働者間の不合理な格差をなくす具体的な動きは広がっているか。

 水町 実態はさまざまだ。大企業は〝安全運転〟の様子見の傾向が強い。裁判例や国の指針で支給や額の基準が明確な手当(通勤手当や食事手当など)は非正規雇用労働者にも支給するが、不明確なもの(賞与や退職金など)の支給判断はまだ世の中の動きをうかがっている。一方、競争が激しく優秀な人材の獲得に熱心な中小企業は、判例や指針の枠内にとどまらず、正規・非正規雇用の垣根を取り払った人材活用、待遇改善を進める傾向にある。

 今野 正規・非正規雇用の垣根を設けない、広い意味で待遇を一本化する企業が出てきている。非正規雇用を実質なくす動きだ。こうした企業は、法に従う点よりも、非正規雇用を戦力化し、有効活用しないと厳しい企業間競争に勝てないと考えて動いている。乱暴な言い方をすれば、非正規雇用の働きに多くを依存している企業は、非正規雇用労働者に横を向かれたら、つぶれる可能性があるからだ。

 松浦 公正さを欠く人材活用は、労働市場からいずれ手痛いしっぺ返しを受け、そういう企業は必要な人材を採用できなくなる。そうならないためにも、正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇格差の解消はもちろん、多様な人材にさまざまな働き方を認め、それぞれが活躍できるようにする「ダイバーシティ」の視点が重要になる。

松浦 民恵氏

松浦 民恵氏(まつうら・たみえ)1966年大阪市まれ。学習院大大学院修了。専門は人事管理。松浦教授は後日、リモートによる取材回答。

激烈な競争

 大野 建設事業、自動車運転の業務、医師は、時間外労働の上限規制の適用を5年間猶予された。適用が始まる2024年4月まで残り3年弱。これらの事業・業務の準備は進んでいるか。

 水町 いずれも長時間労働の是正が難しい業界だ。建設業は是正に向けた業界全体の準備が比較的進んでいる。運送業界は建設業のゼネコンのように全体に影響を及ぼせるような旗振り役が不在で動きはまだ鈍い。事業者間の激烈な競争に伴う長時間労働が続いている。

 医師の上限規制は一般より緩いが、それでも医師不足や大・中小病院間の連携不足、医療資源の偏在など現在の医療制度の課題を同時に見直さないと、医師の働き方は簡単には変わらない。このままでは法と実態が食い違う問題を24年に発生させてしまう。

 大野 法律の施行に合わせて、医師は一気に増えない。

 今野 同じ医師といっても大病院と個人病院では対応は異なるだろう。個人病院は大病院に比べれば、長時間労働の是正に比較的取り組みやすい立場にある。知り合いの看護師によると、長時間労働をいとわず多くの経験を積んでこそ「一人前の医師」になるといった風潮があるようだ。医療制度の問題のほか、こうした医療界特有の〝文化〟も、長時間労働是正の妨げになりかねない。

 大野 医療だけではなく、教育の現場にも似たような文化がある。業界文化は業界内の働き方に影響する。しかし若い世代は、長時間労働を当然とすることには矛盾、反発を感じているのではないか。

 水町 長時間労働が指摘される教員や公務員の採用試験受験者は減っている。労働市場で淘汰される前に、業界のシステムを変えていくことが大事だ。

 松浦 三つの業界ともに、働き方に構造的な問題があるがゆえに、猶予期間が設定された。各業界ともに一体的な取り組みが不可欠だ。例えば、建設業では工期厳守のしわ寄せが、下請け、孫請けの中小企業の長時間労働につながっている。運送業のコスト競争は、高速道路代を節約して時間のかかる一般道を走行するなど、運転手の長時間労働の要因になっている。こうした長時間労働を招く業界の慣行を含め、業界全体で政府も必要な支援をしながら構造改革を進める必要がある。

大野 実氏

大野 実氏(おおの・みのる)1952年東京都生まれ。日本大大学院修了。2019年、全国社会保険労務士会連合会会長。

賃金は公正に決定

 大野 最後に働き方改革に取り組む中小企業へのメッセージを。

 今野 同一労働同一賃金とあらためて言われなくても、〝公正な賃金〟は昔から企業が守るべき基本原則だ。非正規雇用労働者を低賃金で活用する人材活用策はうまく回らず、いずれ破綻するだろう。頑張って成果を上げた労働者に公正な賃金を払わなければ、やる気は下がるし、新たな良き人材を採用できない。同一労働同一賃金については、法律が施行されたから、仕方なく取り組むという対応はやめてほしいし「賃金は公正に決定する」という基本に立ち返ってほしい。

 水町 今回の働き方改革関連法には、長時間労働や正規・非正規雇用労働者間の垣根を残したままでは今後、日本の雇用システムはうまく回らないという判断がある。法律ができた背景を、よく考えてほしい。

 松浦 まず自社の働き方や賃金の制度などの待遇を、よく点検することだ。その上で目指す方向を定め改革に取り組んでほしい。各企業で実情は異なるが、実態を把握するための共通のノウハウは蓄積されつつある。国が全国に設けた「働き方改革推進支援センター」の公的支援や社会保険労務士ら専門家の助言をうまく活用し、真に必要な改革を進めていただきたい。

 同一労働同一賃金 正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を設けることを禁止するもので、中小企業を含め2021年4月から全面施行されている。企業は基本給のほか、賞与、手当、福利厚生、教育訓練、安全管理などのすべての待遇について、不合理な差の解消が求められる。

 時間外労働の上限規制 働き方改革関連法の成立に伴い労働基準法が改正され、時間外労働(残業)の罰則付き上限規制が2019年4月施行された。上限を原則月45時間、年360時間以内とし、一定の要件の下、月100時間未満、複数月平均80時間、年720時間までの例外を認める(月45時間を超えることができるのは年6カ月が限度)。建設事業、自動車運転の業務、医師らは実情を踏まえ上限規制の適用を24年4月まで猶予された。

 働き方改革推進支援センター 中小企業・小規模事業者が抱える、働き方改革に関する課題解決に対応するため、47都道府県に国が開設した「ワンストップの相談窓口」。長時間労働の是正や非正規雇用労働者の待遇改善、助成金活用などについて、センター常駐の専門家による対面や電話、メールでの無料相談、セミナー開催のほか、社会保険労務士による会社訪問支援の申し込みも受け付けている。

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