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学校法人成城学校 成城中学校・成城高等学校 激動の時代に輝く、臨海学校の先駆け・成城のリーダー教育

 世界の時価総額ランキングの上位を日本企業が占めた時代も今や昔。スイスのビジネススクールIMDが公表した世界競争力ランキングでは、日本は過去最低の34位に沈んでいる。技術革新が相次ぐ変化の激しい時代、日本が再び活力を取り戻すためにはどのような人材を育成すればいいのだろうか。そのヒントになりそうなのが、創立135年を迎えた中高一貫の男子校「成城中学校・成城高等学校」(東京都新宿区)のリーダーシップ教育だ。1925年に日本で先駆けて行われ、今も続く臨海学校はその象徴ともいえる行事だという。どのような狙いがあるのか。同校を取材した。

補助員は先輩

補助員は先輩

朝のラジオ体操の風景。白色のTシャツ姿が中1、青色のTシャツ姿が高2の補助員だ(2019年7月、千葉県南房総市で)

 「イチ、ニッ、サン、シッ、ゴ、ロク・・・」

 南北約2キロの砂浜が続く千葉県南房総市の岩井海岸。水泳帽をかぶった中学1年生280人が点呼する声が響く。

 7月に行われる同校の臨海学校の一場面だ。今年はコロナ禍に見舞われ中止となったが、毎年、泳力別に初級、中級、上級に分かれ、3泊4日の日程で行われる。

 「ちょっと元気ないよ。やり直し」「しっかり前を向いて」――。初日ということもあって緊張気味の生徒たちを周囲で鼓舞するのは、よく見ると教員ではない。補助員を任された高校の2年生約50人だ。

 後輩に水泳を指導するほか、臨海学校で使うブイやボートの準備なども教員と共に行う。事故なく全日程を終えられるよう、後輩の命を守ることも重大な役目だ。

 「高2が中1を指導するのには実は意味がある」と栗原卯田子校長。どういうことなのか。同校の臨海学校の特徴を詳しく見ていこう。

校舎

冷暖房を完備した教室や人工芝のグラウンドなど充実した施設を備える校舎

①各部活動の精鋭

 補助員の高2はどのようにして選ばれているのだろうか。「実は中1から高2までの5年をかけて補助員を選抜しており、最終決定の際には学年教員全員で生徒一人一人を確認し、校長に推薦している」と保健体育科の古志野潤哉教諭は明かす。

 基準になるのは、授業や行事に積極的に取り組む姿勢、友達と協力して物事を行えるか、損得勘定なしで人のために動けるかどうかなど、生活態度全般だ。さらに、学業の成績も考慮しているという。

 補助員には希望すればなれるというわけではなく、各部活動の精鋭から選ばれることが多い。補助員に任命された生徒たちは4~5日をかけて心構えや役割分担、準備体操、実技指導方法などの事前指導を受け、責任感を持って臨海学校に臨む。

 「後輩は憧れの先輩の姿から学び、『自分もあのようになりたい』と背伸びをしていく。誰に指示されるでもなく、自分で考え自分で行動する能動的な人物に育っていく。先輩と後輩という縦のつながりから学び取ることこそ、成城のリーダー教育の核心と言えるものだ」と栗原校長は話す。

②時には厳しく

 中1と高2は初日こそ緊張してよそよそしい雰囲気だが、砂遊びやドッジボールなどのレクリエーションを通じて絆を深め、互いに笑顔が増えていく。

 もっとも、補助員は優しいだけではない。教員の話をよそ見して聞いていなかったり、友達とふざけ合ったりしている時は叱ることも忘れない。特に海の中で指示に従わない場合は、命にかかわる恐れもあるため厳しく注意する。

 叱られた中1の反応はどうか。「教員ではなくお兄さんみたいな人から怒られるということで、逆にひきつけられる部分があるようだ。『ちゃんと聞かなきゃ』と、教員が注意するより耳を傾けることもある」(古志野教諭)

③自分で考える

 補助員の1日は激務だ。中1が集合する午前6時半より1時間早く海岸に出て、海水の温度を測ったり、朝礼の準備をしたりする。1日のプログラムが終わった後も道具の後片付けを行う。

 民宿に帰ってからはミーティングだ。教員が見守る中、その日の反省点について生徒たち自らとことん話し合い、翌日に生かす。初日は中1との接し方さえおぼつかなかった補助員が、日に日に頼もしくなっていくのが目に見えてわかるという。

 「最終日には教員が何も言わなくても、自分たちで考えて動けるようになっている。何も注文を付けることがないぐらい。補助員の経験は高2にとっても得るものが大きい」と古志野教諭。

 自ら試行錯誤するのは中1も同様だ。民宿に帰った後に行うクラスレクリエーションの内容は生徒たち自らで考える。

 「臨海学校に限ったことではないが、失敗しても構わないから何でも挑戦するよう伝えている。失敗しても自ら課題を発見し、解決策を仲間と相談しながら見つけ出すことに意義がある。リーダー教育のノウハウがここにもある」と栗原校長は狙いを語る。

遠泳に挑む

遠泳

「生徒たちのやり抜いた表情を見ると清々しい気持ちになる」と話す古志野教諭

 そんな臨海学校のクライマックスとも言える行事が、3日目の午後、上級の生徒約40人を対象にして行われる遠泳だ。

 二人一組の隊列を組み、沖に出て約2~3キロを1時間半かけて泳ぐ。隊列の周囲には補助員が付き、地元の漁船や学校が所有するボートが同行するなど安全確保には万全を尽くす。それでも、海のコンディションによっては過酷な行程となる。

 沖に出ると急に水温が低くなり、寒さで体が動かなくなることも珍しくない。また、潮の流れに逆らうところでは思うように前に進まないこともある。

 補助員の「大丈夫だよ」という掛け声に励まされ、残された力を振り絞るといよいよ浜が見えてくる。「頑張れー」。初級・中級の生徒たちの拍手に迎えられ、ゴールとなる。

 上級以外の生徒も午前中に「ミニ遠泳」を行う。浜に近いところで隊列を組んで30分~1時間ほど泳ぎ、遠泳と同じように「達成感」を得ることができるようになっている。

 「みんな晴れやかな表情になって東京に帰っていく。『高2になったら自分が補助員になる』と、その後の学校生活の過ごし方が変わる生徒も多い」(古志野教諭)

「僕も先輩のように」

「僕も先輩のように」

昨年の臨海学校に参加した中学2年の(左から)長谷川君と山中君

 臨海学校を経験して初めて正式な成城生になるとも言われる伝統行事。参加した生徒はどう感じたのだろうか。

 中学2年の長谷川優輝君は昨年、上級班として参加。「水泳を小学3年生まで習っていたが、いざ遠泳が近づくとだんだん不安になった」と当時を振り返る。

 隊列の前方で泳いでいたがスピードについていけなくなり、隊列を何度か外れて泳いだが、すぐに高2の補助員が横についてくれたことが印象に残っているという。

 「クラゲに刺された時も先輩が助けてくれた。ゴールした時の感動は忘れられない。なんだかんだ怖気づいていた部分があったと思う。高2になったら補助員になり、先輩に助けてもらったように中1を応援してあげたい」と話す。

 初級班として参加した中学2年の山中真凪人君は、臨海学校で一番大変だったこととして、「共同生活の中で何でも自分たちでやらなければいけなかったこと」を挙げる。

 しかし、「クラスメートみんなで考える自主的なレクリエーションの時間が充実していて、楽しく過ごせた」。

 海に入る時は緊張もあったが、高2の補助員の先輩が一発芸を披露するなどして緊張を解きほぐしてくれたことをよく覚えている。

 サッカー部に所属しており、中2になって後輩を指導する立場になった。「臨海学校を思い出し、高2の先輩にしてもらったように、後輩に積極的に声をかけるようにしている」。

「成長を実感できた」

「成長を実感できた」

自習室でチューター業務を務めるOBの鷲尾さん。生徒たちが鷲尾さんを目当てに詰めかける人気ぶりだ

 臨海学校に象徴される先輩と後輩の「縦のつながり」は卒業後も続く。同校の自習室「自修館」でチューターの一人として、放課後に生徒の質問に応じるOB、早稲田大政治経済学部2年の鷲尾拓洋さんに話を聞いた。

 臨海学校では補助員として上級班の遠泳で隊列の先頭を務めた。細かく班が分かれる中級以下と異なり、上級班は約40人の大所帯。上級と言っても生徒によって泳力差もかなりある。

 「泳ぎが上手な子はついてこられるが、助けてもらわないと遅れてしまう子もいて、隊列が崩れてしまう恐れがあった」。遠泳中は何度も後ろを振り返り、後輩たちを励まし続けた。

 海岸からたくさんの声援に迎えられ、ゴールした時の達成感は忘れられない。「後輩たちを無事に連れて帰り、自分が中1から高2になって成長できたと実感できた。補助員や部活動の経験が今の自分の基礎になっている」。

 大学に通いながら自修館のチューターを務めるが、自身も高校生の頃は塾や予備校に一切通わず、自修館をよく利用していたという。

 「チューターの先輩に勉強はもちろん、受験直前の不安の解消法や入学後の話を聞くこともでき、勉強のモチベーションになった。自分も力になりたいとチューターになった」と後輩たちに自身の経験を伝える。

 来年は就職活動。変化の激しい時代だが、「今の日本に足りないもの、そして自分に足りないものは何なのか、自分なりの視点をもって分析できる力を身に着けていきたい。日本のため世界のために貢献できる社会人になりたい」と意欲を語る。

「経験、海外でも生きた」

「経験、海外でも生きた」

台湾の大学に留学しているOBの梅澤さん。同級生とは英語のほか中国語も駆使してコミュニケーションを図る

 「補助員の経験が海外でも生きた」と話すのは、同校OBで台湾・実践大学国際ビジネス学科3年の梅澤悠月さん。臨海学校では補助員として初級の班長を務めた。

 高2の頃は剣道部の部長だったこともあり、「どちらかと言えば上からガツガツと言うタイプ」。

 しかし、臨海学校に来る中1は数か月前まで小学生だった生徒たちだ。話を聞いてくれなかったり、自分たちで勝手に遊び始めてしまったりと、「今までにあまり経験をしたことのない状況。まとめるのに苦労した」と振り返る。

 「とにかくコミュニケーションを取るよう心がけた。『学校の勉強はどう?』などと休憩中に話しかけ、自分の経験談を語るようにした。2日目から中1の間で笑顔が見られるようになったのは何よりの収穫」という。

 高1の夏休み、同校の「グローバルリーダー研修」でオーストラリアに2週間ホームステイしたのがきっかけで、台湾の大学に留学。現在はすべて英語で授業を受ける日々だ。

 大学ではクラスリーダーを務める。アジアや欧米など様々な国から訪れている留学生と意思疎通をはかることは容易ではない。「みんなに自然と気遣いができているのは臨海学校で後輩をまとめた経験が生きているかもしれない」と語る。

 今一番興味があることはマーケティングだ。「日本人がまだ踏み込んだことがない国で、日本人のノウハウを持って行き、そこでマーケターとして活躍したい」と夢は膨らむ。

「自分をリードできるのがリーダー」

「自分をリードできるのがリーダー」

「生徒たちの挑戦を後押ししたい」と話す栗原校長。毎朝、正門の前に立って全生徒にエールを送る

 激動の時代に求められる人材像とはどのようなものだろうか。成城中学校・成城高等学校の教育方針について栗原校長に聞いた。

――IoTやAIといった技術革新のほか、グローバル化、さらにはコロナ禍と変化の激しい時代です。どういった資質・能力を磨くべきでしょうか。

 「成城では教育方針として、校章の三光星が象徴する『知・仁・勇』を掲げています。急速に変化する現代にこれを当てはめると、『知』は単なる教養にとどまりません。AIの活用が進む時代においては、何でもかんでも覚えて知識にするというよりは、知識を活用できる技術が重要だと言えます」

 「また、知識や教養だけの頭でっかちになってしまってもいけません。時代の変化に対応できるように、多様なものを受け入れられるチームワークや思いやりの心が必要です。これが『仁』です。さらに、いかなる困難な課題にも果敢に挑戦する『勇』を備える必要があります。どうしても人より前に出るとなると、『嫌われたくない、目立ちたくない』という心理が働くものです。ただ、今世界で活躍する先端企業を起こした人々は、自分がこうだと思ったことをやり抜いた人が多いのではないでしょうか」

――日本人は「真面目で勤勉」とも言われますが、かたや「忖度」という言葉が流行したように、今おっしゃったような「知・仁・勇」がいずれも物足りないところがあるように思います。どういったところに問題があったのでしょうか。

 「私が指摘できる立場かわかりませんが・・・経験から思うに、『失敗させない』からではないかと思います。これまでの時代は、良い大学に入って良い企業に就職といったように、レールの上を歩いていけばある程度未来が見えた。でも、価値観が変わってきているのですから、一つの物差しだけでは上手くいきません。例えば偏差値という知の物差しがその典型でしょう」

 「従来の受験戦争の中で価値観が単純化されすぎました。例えば異なる国同士で紛争が起きようとしている場合、どれだけコミュニケーションによってバランスをとれるかとなると、それは人間力だと思うんですね。そういった力をどうやって身に着けていくかとなると、結局はもまれて失敗して強くなるほかないと思います」

「自分をリードできるのがリーダー」

部活動・同好会の活動が盛んなのも成城の特徴だ。中学では9割、高校では6割を超える生徒が参加している

――そのためにはどうしたらいいのでしょうか。

 「成城が掲げる文武両道の教育を通して、まずは、いろんな経験を積むことです。本校には45の部活動と同好会があり、さらに臨海学校や林間学校、行事もたくさんあります。様々なチャンスを生徒に与えていますので、その中からたくさん挑戦して失敗を重ね、リーダーとして育っていってほしいと思います」

 「私たちが掲げる『リーダー』の意味は、組織の長になるということではありません。誰かに指示されるのではなく、自ら考え行動する人材を目指すということです。やがて組織の長になる人も生徒の中にいるでしょうが、それぞれの生徒がそれぞれの機会を通じて自分をリードしていくという意味なのです。その意味ではどの生徒にもリーダーシップを発揮するチャンスがあると考えています」

――臨海学校でもたびたび登場した先輩と後輩の「縦のつながり」。これは成城特有のものなのでしょうか。

 「私はもともと都立高の教員を経験してきましたが、2013年に成城の校長に就任したとき、これは公立ではできない教育だなと即座に思いました。先輩が取り組んできたことが下に継承されるというのは、一見、3年間でもできそうなことではあります。しかし、実はそれを支える教員が変わらないからできることなのです」

――来年度からは完全な中高一貫校となります。

 「6年間という長期間だからこそ、知識の植え付けだけでなく、人間教育が可能となるのです。実は、それは臨海学校とも大いに関係があります。これまで高校から入学してくる生徒は臨海学校を経験することができませんでした。しかし、入学した年に、まず優れた先輩を手本に学校生活を始めるには、中1を含めた6年という期間がどうしても必要です。もちろん、学業面でもカリキュラムを改編していますが、何より6年間で人を育てるというのが中高完全一貫校化の本当の目的なのです」

成城中学校・成城高等学校

成城中学校・成城高等学校

1885(明治18)年の創立より135年以上続く伝統ある男子校。新宿区に広大な校地を持ち、2015年にリニューアルした校舎は学習・運動施設が充実している。文武両道主義に基づく伝統男子教育を生かしながら、時代に合わせた「成城版グローバル教育」も展開しており、校章「三光星」に象徴される「知・仁・勇」を備えた、次代を生き抜く人間力の高いリーダーを育成することを目標としている。2021年度より中高完全一貫校となる。