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損保業界は“大変革期”「テレマ技術」の推進強調 講演で金杉損保協会長

 日本損害保険協会会長であいおいニッセイ同和損害保険の金杉恭三社長はこのほど、東京都内で開いた地方新聞東京支社長らとの意見交換会で講演し、ITなどの技術革新に応じて変化する損保業界の取り組みや今後の業界の展望などを次のように語った。

 損害保険は、事業者の活動や個人生活のリスクを幅広くカバーする保険だ。その種類は多く、生命保険以外の分野のほとんどを損保は扱っている。生活や事業の多様化で今後も新しい種類の保険がどんどん加わっていくはずだ。

 近代の損保は海上保険に始まる。ヨーロッパの大航海時代、危険な航海に出て、無事戻れば大もうけ、途中で沈んだら大損という、一獲千金を狙う事業家のハイリスク・ハイリターンビジネスの“平準化”のニーズに応じて損保ビジネスは誕生した。新しいビジネスに伴う「新たなリスク」への対応は、いまも変わらぬ損保の基本的な役割だ。

護送船団から自由化へ

 日本の損保業界は自由化されるまで厳しい競争はなかった。旧大蔵省(現財務省)の行政指導、いわゆる「護送船団行政」で、一番船足の遅い船に業界みんなが足並みをそろえる時代が続いた。保険商品の内容、価格、そして代理店に支払う手数料まですべて同じだった。護送船団の時代は、自動車の急激な普及で自動車保険のマーケットが拡大し、販売規模の大小にかかわらず利益を出せた。

 しかし1993年の「日米構造協議」で外資が進出しにくい「非関税障壁」があるとして「保険業」がやり玉に挙がった。当時の米クリントン政権の意向を受けて急速に自由化が始まったと認識している。一番規制が厳しかった損保業界が真っ先に自由化を迫られた。

 構造協議からおよそ5年で業界は自由化を受け入れ、2000年前後に損保各社の合従連衡、合併統合が始まった。各社は経営効率化を進め、自由化された保険料の価格競争に突入した。その後「サブプライムローン問題」や「リーマンショック」で世界経済が低迷し、日本経済も急激に冷え込んだ。保険料の価格競争に、世界経済の大不況が重なり、業界の売り上げは急速に落ち込んだ。

 一般企業の売上高にあたる収入保険料は10年ごろから回復し、自由化以後「第二の再編期」を迎え、この10年前後に業界の大再編が起こった。損保業界は現在、三井住友海上火災と私どもあいおいニッセイ同和損保の「MS&AD HD」、東京海上日動の「東京海上HD」、損保ジャパン日本興亜の「SOMPO HD」の「3グループ4社」に分かれている。損保市場は、この大手3グループ4社がおよそ9割のシェアを握る。

活発な海外展開

 少子高齢化や労働人口の減少で損保の国内市場は縮小している。このため3グループ4社は海外での事業展開に積極的だ。例えば、東京海上日動や三井住友海上火災、損保ジャパン日本興亜は、海外の保険会社を積極的に買収している。

 私どもあいおいニッセイ同和損保は親しいパートナーであるトヨタ自動車が販路を広げている海外で自動車保険の販売を強化するほか、自動車に搭載するの通信端末を活用したサービス「テレマティクス」技術に特化した、英国の自動車テレマティクス自動車保険最大手BIG社を買収した。このように、海外の先進取組みや技術の獲得という観点からも、M&Aを含めた海外進出は、各社にとっても有力な経営戦略の選択肢になると考えている。

新たな保険ニーズ

新たな保険ニーズ

【データを示して損保市場をめぐる環境の変化を説明する、あいおいニッセイ同和損保の金杉恭三社長=2019年10月29日、東京都港区】

 国内乗用車の保有台数は約6千万台(15年)。35年には900万台減って5100万台になる見込みだ。少子高齢化やカーシェアリング・自動運転の進展に伴う運転者人口の減少が主な要因。残念だが乗用車は減り、従来型の自動車保険は減っていく。

 ただ一方で、これらの自動運転やカーシェアリングは、新たな成長分野で、これまでになかったリスクを生み出す。新しいビジネスが誕生すれば新たな保険ニーズが生まれてくる。

 自動運転やカーシェアリングは、新たな保険ニーズを生み出す分野としていま注目されている、いわゆる「CASE」(ケース)や「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)と呼ばれる成長分野の一つだ。

 CASEは、コネクティッド(接続性)の「C」、オートノマス(自動運転)の「A」、シェアード(共有)の「S」、そしてエレクトリック(電動化)の「E」の4つの頭文字からとった造語。ICT(情報通信技術)端末としての機能を有する自動車「コネクティッドカー」や自動運転、カーシェアリング、電気自動車などの成長分野を指す。MaaSはICTを活用し、出発地から目的地まで、利用者にとっての最適経路を提示するとともに、複数の交通手段やその他のサービスを含め、一括して提示することによって、交通手段の円滑な連携で快適な移動サービスを目指す分野だ。CASEやMaaSは自動車に関わるビッグデータを活用して大きなビジネスを生み出すものとして期待されている。

 世界のコネクティッドカーの新車販売数は17年時点でおよそ2千万台。35年には1億1千万台を超える見込みだ。MaaSの米・欧・中の市場規模は900億ドル(17年)。30年には1兆4000億ドルに膨らむと見るレポートもある。

 従来型の自動車保険ビジネスはいま最大の危機を迎えている。最先端技術を活用した新ビジネスの急拡大に対応した保険商品を損保業界はこれからどんどん創造していかなければならないだろう。

プラットフォーマー

 このように損保業界を取り巻く環境は激変している。中でも、グーグルやアップル、フェイスブック、アマゾンの頭文字を取った「GAFA」(ガーファ)など「プラットフォーマー」と呼ばれている巨大IT企業の台頭に目を向けなければならない。これらの巨大プラットフォーマーは、顧客に一番近い存在として接触し、取引相手となってデータを取得し、独自商品・サービスの開発・構築に活用している。いま、あらゆる市場でその存在感が高まっている。

 商品を作るメーカーは何もしなければ、プラットフォーマーが望む商品・サービスを提供するだけの「下請け的な存在」になってしまう。プラットフォーマーの注文に応じてメーカーが商品設計する時代にすでに突入している。

 損保業界も対応を誤れば、損保を扱うプラットフォーマーの下請け的な存在に転落する可能性はある。いまのところ、損保会社は、車から得たビックデータを使って保険商品を設計し、提供することができている。少なくともプラットフォーマーを経由せず直接、新商品の設計に使えるデータを取得できる仕組みを持っている。

 損保業界は対応を急ぐ必要がある。GAFAのような巨大プラットフォーマーではない、ニッチ(すきま的)な分野で独自の技術力を発揮する個性的なプラットフォーマー的企業と早急に連携し、あくまで損保業界自身が損保市場で主導的な地位を保ち続けなければならない。それができなければ、損保会社は衰退していくだろう。

テレマティクス

テレマティクス

【講演でテレマティクス技術の推進を強調する、あいおいニッセイ同和損保の金杉恭三社長】

 弊社は運転挙動を保険料に反映させる「テレマティクス自動車保険」を開発し、日本では18年1月、販売を開始した。テレマティクスは、自動車搭載の通信端末から取得した走行データを活用し保険料算定や安全運転など有益なサービスに生かす仕組みだ。さきほど触れたCASEやMaaSの中に位置付けられる。

 従来の日本の自動車保険は、事故を起こしたかどうかで保険料が変わる。事故がなければ安くなり、事故を起こせば高くなる。一方運転挙動反映型のテレマティクス自動車保険は、事故を起こす確率が低ければ保険料を安く、高ければ高くする。ヨーロッパではすでに、こうした類いの「テレマティクス自動車保険」が普及している。

 弊社のテレマティクス自動車保険には“前史”がある。いまから15年前の2004年にトヨタ自動車と一緒に走行距離に応じて保険料が算定される実走行距離連動型保険「PAYD」(ペイド)を開発した。トヨタ自動車のコネクティッドカー発売に合わせて販売を開始した新商品だった。残念ながらICT端末を備え走行情報を取得できるコネクティッドカーそのものが時代に先んじすぎたために売れず、PAYDも販売自体は振るわなかった。

 しかし、トヨタ自動車がコネクティッドカーの販売強化方針を打ち出し、弊社もさきほど触れたBIG社を買収。16年にはテレマティクス保険サービスを提供する会社をトヨタと米国で共同設立した。こうした一連の経過を経て、日本でも運転挙動反映型のテレマティクス自動車保険の販売にこぎ着けた。

 弊社のテレマティクス自動車保険は、通信機能付き車載器から走行距離や速度、急発進、急ブレーキなど各種走行データを取得できる。これらの「運転挙動データ」を解析して保険料に反映する。そのほか高齢ドライバーに逆走などの危険行為を音声で知らせる安全運転サポート、取得データから安全運転の達成度を点数評価し、ドライバーに通知する「安全運転診断レポート」など、データを有効活用したさまざまなサービスを展開している。さらに車載器で一定の衝撃データを把握し、コールセンターから顧客に事故の有無を確かめる電話を入れることもできる。

 テレマティクスの技術は事故処理にも活用できる。19年4月から始めた「テレマティクス損害サービスシステム」は、ドライブレコーダーのデータを活用して事故現場をほぼリアルタイムで把握する。この映像と事故時の走行経路や標識、時速などの各種情報を突き合わせることで、迅速、正確な事故処理が可能になった。

 弊社は19年1月から、後付けの専用ドライブレコーダーを使ったテレマティクス自動車保険を提供開始したが、20年1月からは、その端末から得られる走行データを活用した、運転挙動反映型自動車保険を提供する。これまでは、トヨタ自動車のコネクティッドカーのみが運転挙動反映型自動車保険の対象であったが、これを搭載すればどんな車でも運転挙動反映型のテレマティティクス自動車保険の対象車になる。

産学連携

産学連携

 これからデータビジネスは飛躍的に拡大する。当然、これらのビッグデータをビジネス用に分析、解析する技術者、データサイエンティストが必要になるが、日本は不足している。

 弊社は、日本初のデータサイエンス学部を設けた滋賀大学と“産学連携”し、人材や資金を提供している。テレマティクス保険で取得したビッグデータを実験材料にしていろんな研究をしている。データサイエンティストはこれから多くの企業から引っ張りだこになる。これから奪い合いになる。人材育成を支援し、同時に人材確保も図りたい。

 群馬大学とは2016年12月から自動運転に関する共同研究を始めた。高齢者の大切な移動手段となっているバスなどの公共交通機関の存続が運転手不足で危ぶまれている中、自動運転車を走らせた場合、どんなリスクが生じ、どういう保険やサービスが必要になるか、などを研究している。

 群馬県は1世帯当たりの自動車保有台数が日本一。自動車が重要な移動手段である車社会だ。一方住民の高齢化が進んでいる。運転免許を返上して重要な移動手段を失う「高齢者の孤立」を考慮しなければならない。群馬大学との共同研究の背景には、地域の切実な課題が存在している。

サイバー保険

 自動車分野以外でも新しい保険ニーズは生まれている。例えばサイバーリスク。今後はこの分野に関する市場の拡大が見込まれるが、現時点ではサイバーリスクを喫緊のリスクとして感じているお客さまはまだ少ない。まずはこれらに関する啓発活動として、全国各地で地方自治体や警察などと協力しながらセミナーを開催していく。またサイバーリスクは、被害に遭わないための事前対策が重要で、事前対策を助言できるコンサルティングへのニーズが大きい。なぜなら、サイバー被害に遭った事業者はサイバー攻撃を受けた後、お詫び対応、利益喪失、風評被害などが発生するケースが多く、事後の金銭的穴埋めだけでは、あまり意味がないからだ。従って、保険販売についても、サイバー攻撃に対する対策や対応のノウハウを助言できるコンサルティングサービスをセットし、お客さまに提案している。

 最近多発する自然災害に対しては、横浜国立大学などと連携し、気象庁のデータを使いリアルタイムで災害を予測する「cmap.dev(シーマップ)」を公開している。台風などでどういう被害が出るかを予測する。多くの企業や自治体に利用され、ご評価いただいている。

金杉 恭三

金杉 恭三(かなすぎ やすぞう)

1956年生まれ。早大政経学部卒。79年4月大東京火災海上保険(現あいおいニッセイ同和損害保険)入社。2016年4月からあいおいニッセイ同和損害保険社長。19年6月、日本損害保険協会会長就任。

あいおいニッセイ同和損害保険

あいおいニッセイ同和損害保険

MS&ADインシュアランス グループホールディングス株式会社の中核会社。
すべてのお客さまに高品質の商品・サービスをお届けし、一人ひとりのお客さまからの確かな信頼を基に発展する企業を創造するために、「お客さま第一」「誠実」「チームワーク」「革新」 「プロフェッショナリズム」「地域密着」「情熱」を行動指針としている。 企業メッセージとして掲げる『全力サポート宣言(3つの宣言「迅速」「優しい」「頼れる」)』を実践し、「明るく元気な社員がお客さまを全力でサポートする会社」を目指している。