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シンポジウム 観光立国と地域社会の創作に向けて 2020年以降を踏まえた持続可能な観光と成長を考える

民泊の社会的役割を探るシンポジウムでインバウンド対応を議論

 観光による地域活性化と民泊の社会的役割を考えるシンポジウム「観光立国と地域社会の創生に向けて」(株式会社共同通信社主催、観光庁・日本政府観光局(JNTO)後援、Airbnb(エアビーアンドビー)協賛)が2月25日、東京都内で開かれ「2020年以降を踏まえた持続可能な観光の成長」をテーマに有識者が活発に意見を交わした。自治体職員や旅行業者ら関係者約160人が参加し、観光ニーズの多様化について理解を深めた。

インバウンド3千万は“通過点”―田端長官

【講演する観光庁の田端浩長官】

 冒頭講演した観光庁の田端浩長官は、18年のインバウンド(訪日外国人旅行者)の人数は3119万人、消費額は4兆5064億円とそれぞれ「過去最高を記録した」と説明した上で「これは“通過点”。30年に6千万人の高い目標に向けて取り組む」と成長の継続を強調した。

 さらに観光を「地方創生の切り札」とするには、団体から個人旅行、都市から地方旅行、モノからコト消費への移行や、スマートフォン活用、リピーター増加など旅行スタイルの変化を踏まえた施策の展開が「非常に重要」と指摘。中でも地方の空き家・空き室など遊休資産を活用した「民泊」サービスは、「地方創生につながる」重要な事業との認識を示し「地方で民泊の普及に努める」と話した。

世界中に“居場所”がある世界の実現を目指す―レへイン氏

【自社の取り組みを発表するAirbnbのクリストファー・レへイン氏】

 世界中の旅行者(ゲスト)と部屋を貸したい人(ホスト)をつなぐ旅のプラットフォームを展開するAirbnbのクリストファー・レへイン氏は「日本が抱える地方創生や高齢化、空き家問題の解決に貢献したい。リオ五輪では8万5千人の宿泊を民泊が引き受け、新しいホテルの建設に伴う建築コストや環境コストを抑えることができた。環境に優しく持続可能な未来を実現する民泊を推進し、誰もがどこでも”居場所”を見つけられる世界を目指したい」とあいさつした。

 幅広い視点から観光、民泊事業の課題を探ったパネルディスカッションには、日本総合研究所名誉理事長の高橋進氏、岐阜県高山市長の國島芳明氏、日本商工会議所観光専門委員会学識委員の望月照彦氏、東洋大国際観光学部教授の矢ケ崎紀子氏が参加し、熱心に議論した。進行は共同通信社編集局企画委員兼論説委員の伊藤祐三氏。

 パネルディスカッションの主なやり取りは次の通り(敬称略)。

観光産業は地域発展の鍵―伊藤氏

【共同通信社編集局企画委員兼論説委員の伊藤祐三氏】

伊藤 観光産業はすそ野が広く、地域発展の大きな鍵を握る。日本の観光産業やそのベースとなる宿泊事業の現状をどう見ているか。

高橋 20年の東京オリンピック・パラリンピック後も、大阪万博があり、インバウンドがもたらす経済効果は今後も大きくなるはずだ。宿泊施設を含めたインフラなど受け入れ態勢の整備が課題になる。

國島 人口減少に伴う市内消費の落ち込みを観光でカバーしている。高山市の観光客は年間およそ460万人。このうち市内に宿泊するのは約半分の220万人。うち外国人は約55万人を占める。市内の宿泊施設は、簡易宿所が増え、大手ホテルの進出を合わせると今後およそ5年間で1000室増える見込みだ。お客様のニーズに合わせた宿泊施設をいかに整えるかが大きな課題だ。

望月 これからの宿泊事業は、個人客のニーズをつかみ、いかに居心地の良い“居場所”を提供できるかにかかっている。地域の暮らしぶりを紹介、案内し、地域全体でおもてなしする「コミュニティー・プラットフォーム」の構築が鍵だろう。

矢ケ崎 世界のインバウンド先進国は宿泊を重視する。滞在時間の長さと観光消費の伸びは相関関係にある。宿泊で地域に落ちるお金のおよそ5割は同じ市町村内を循環する。同じ県内なら8割強にもなる。お金も地域に「泊まる」。さらに滞在時間が増えると魅力的な観光資源や人々との接点が増える。地域のファンとなる確率が高まり、リピーター客や地域の“宣伝役”になる。地域経済活性化と人的交流の両面で宿泊の果たす役割は大きい。インバウンド客の多様なニーズを満たす宿泊形態が求められている。

地域は“外”に胸襟開く文化を取り戻せ―望月氏

【日本商工会議所観光専門委員会学識委員の望月照彦氏】

伊藤 多様化するニーズへの対応状況と今後取り組むべき課題は何か。

國島 団体客用の6人部屋、8人部屋は人気がない。シングルやツインルームが必要だ。お客様の好みの違いに応じて柔軟に対応できる旅館やホテルがいま求められている。

高橋 日本全体でみると多様化するニーズへの対応は遅れている。例えば日本には海外の富裕層が泊まるような五つ星ホテルが少ない。価格や食事、言葉も含めてインバウンドのニーズを満たす宿泊施設が少ない。日本はお金を稼ぐチャンスを逃している。

望月 日本の地域社会には、芸人や物売りの商人、技術者など外からくる人に胸襟を開いて迎え入れる文化があった。定住者の文化に大きなインパクトやイノベーションを与える「漂泊者」を大切にした。地域社会はもう一度“外”に対して胸襟を開く文化を取り戻し、観光に生かすべきだ。

宿泊施設は地域の魅力伝える“陳列棚”―矢ケ崎氏

【東洋大国際観光学部教授の矢ケ崎紀子氏】

矢ケ崎 宿泊施設は地域の魅力を旅行者に伝えるためのショーケース(陳列棚)。地域独自の建築、建具、古民家など地域の独自文化を伝える魅力的な宿泊施設に泊まれば、地域の生活文化に触れることができる。既存建物の空き室を貸し出す民泊はこのような役割を果たせる可能性を秘めている。

伊藤 民泊は、観光客と地域の“接点”になれるか。

高橋 地域の中で民泊をどう位置付けるかが重要だ。きちんとした地域の位置付けの下で民泊を育てていく必要がある。

民泊は「ホームステイ」イメージで推進―國島氏

【岐阜県高山市長の國島芳明氏】

國島 1月の統計では、岐阜県の民泊届出件数は92件、高山市は24件。地方都市では「他人に家を貸す」ことに抵抗感を持つ人が多い。そのため、地元住民がホームステイの延長のような形で民泊を行うほうが浸透する。ホームステイ的な民泊は国際交流に役立つ場を提供できる。旅で印象に残るのは人との触れ合い。旅で出会った人との会話は何年も忘れない。民泊をホームステイのイメージで市内に広げていきたい。

望月 これからは観光客一人ひとりが旅先で友達を作る「フレンド・ツーリズム」が重要になる。私はパリで民泊を利用する。ホテルのような「四角い部屋」にいても友達はできない。民泊などコミュニティーの中にある宿泊施設でこそ友達はできる。

矢ケ崎 民泊の浸透速度は地域で異なる。家を貸すことに慣れていない地域では、年に1、2回の地域イベント開催に併せて行う「イベント民泊」がお勧めだ。自治体が「我が地域のベスト民泊」を選び顕彰・周知することも民泊への理解促進に繋がる。民泊は、世界のミレニアル世代(2000年代に成年または社会人になる世代)と地方を結び付ける最適のツール。この世代は世界を暮らしながら旅する。新しいビジネスモデルの民泊は新しいお客さんを連れてくる。

観光も「共助」で取り組む時代―高橋氏

【日本総合研究所名誉理事長の高橋進氏】

伊藤 観光、民泊の将来像を聞かせてほしい。

高橋 健康づくりや防災活動では地域社会で助け合う「共助」の取り組みが進んでいる。観光も地域の助け合いという共助の中で、インバウンドを魅了する観光資源や受け入れる態勢が作られていくのではないか。その意味で地域社会、市町村のレベルで「観光のコミュニティー・プラットフォーム」づくりを考えていく必要がある。

國島 民泊は、地域の文化や生活が感じられ、日本人と外国人が触れ合える「交流の広場」にしていくべきだ。そうすれば、地方でも受け入れやすくなる。

望月 観光とは“交流”することだ。交流によって人々は和解したり、イノベ―ションを起こしたりして、新しい未来を開く。交流を促す観光は、市民、自治体、事業者、観光客のすべてを幸せにする「四つ葉のクローバー・ツーリズム」の時代を迎えている。

矢ケ崎 民泊を行う「ホスト」同士の交流を促進しながら、地域を代表するベスト民泊を拠点に民泊事業を広げてほしい。観光は他の産業を元気にする機能があるので、地場産業の活性化に活用して欲しい。