ヤオコーが挑む省エネと快適性の両立 空調制御システムで深化する小売業の節電

小売業の現場で、空調を自動的に制御するシステムを採用する動きが出ている。取り組みを進めるのは、サステナビリティ(持続可能性)を重視した経営に力を入れる食品スーパー大手の「ヤオコー」(埼玉県川越市)だ。エネルギー費の高騰が続く中、多くの事業者にとって悩みの種となっている空調にかかるコスト低減や運用最適化に向け、同社ではいかに成果を上げているのか。また、今後どのような計画の下、さらなる省エネを進めようとしているのか。取り組みをリードする担当者に話を聞いた。

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▲ 株式会社ヤオコー ロジスティクス推進部 戦略調達担当副部長 栗原 一昭 氏

店舗運営の重要なカギを握る空調

「以前から省エネには取り組んできていましたし、さらに空調の電力使用量を下げていくというのは、なかなか難しいだろうと思っていました」。そう語るのは、同社ロジスティクス推進部の戦略調達担当副部長の栗原 一昭氏だ。

不特定多数の人々が絶えず訪れるスーパーは、空調による快適な店内環境の維持が店舗運営で重要なカギを握る。売り場が暑すぎたり、寒すぎたりしてしまっては客の滞在時間を縮め、売り上げに響くだけでなく、最悪の場合、客足を遠ざけてしまう恐れもあるからだ。

一方、2022年度版のエネルギー白書によると、商業やサービス業などの第3次産業(運輸関係事業などを除く)における空調の電力使用量は全体の3割ほどを占める。空調によって快適な環境を保ちつつ、いかに省エネや経費削減につなげるか。以前から多くの事業者を悩ませてきた課題ともいえるが、電気・ガスともにエネルギー費が高騰する昨今、古くて新しいテーマとなっている。

同社によると、スーパーの場合、業種ならではの特殊な店内事情も省エネの取り組みを難しくしているという。店内には多くの冷蔵ショーケースが設置され、漏れ出た冷気が店内温度を押し下げる。幅広い品目の食料品を扱うため多くの商品棚が林立し、それが空気の循環をさまたげる。さらに、客が一気に押し寄せる繁忙時間帯に空調の制御に人手を割くことも決して容易ではない。

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同社では2019年の夏ごろから、埼玉県内の店舗で新たな試みに着手。関西電力グループの「関電エネルギーソリューション」(Kenes〔ケネス〕、大阪市北区)が独自に開発していた空調の自動制御システム「おまかSave-Air®」(おまかセーブエアー)の試験導入だ。

「お客さまや従業員に不快感を与えることなく、効率的に空調を制御しながら、省エネも実現することができないかと考えました」と栗原氏は語る。デマンドモニターのような電力量を監視するシステムはいろいろとあったが、さまざまな忙しい店内作業の合間に毎回、従業員がシステムを見ながら空調を制御することに限界も感じていたといい、「自動で制御してくれるシステムが最も好ましい」(栗原氏)とおまかSave-Air® を選んだ。

快適性損なわず、省エネ効果も確認

おまかSave-Air® は月額利用料金制のため、原則、初期費用はかからないシステムだ。導入工事は空調室外機に制御用のコンピューターを接続する簡易な配線工事などで済み、客が出入りする店内エリアの工事は不要。ヤオコーの店舗でも、営業を止めずに導入ができたという。

ただ、当該店舗では、売り場を見て回る際の利便性を優先し、入店した客に通路を同一方向に進んでもらうようなつくりとなっていた。そのため、空気の流れが偏りやすい環境となっており、効果検証に入っていく過程では、その店舗環境に合わせたチューニングが必要だったという。

「レジ周りが不快な温度になっていないか、特定の売り場だけが暑くなっていないかなど、Kenesの担当者に足を運んでもらい、従業員へのヒアリングも行ってもらいながら、丁寧かつスムーズにシステムを調整していただきました」と栗原氏は振り返る。

ヤオコー売り場イメージ

そうした調整作業や、Kenesの助言も受けた効果検証を進めていったところ、店内の快適性を損なうことなく、目標だった電力使用量低減の実現を確認。具体的には、導入した2店舗で、空調の使用電力量を約25~45%削減、建物全体の最大電力についても約13~16%削減が図れたという。さらに、それまで従業員の手で空調温度を上げ下げしたり、止めたりしていた手間も大幅に解消され、店舗オペレーションの改善にもつながった。

A店舗:空調の使用電力量・建物全体の最大電力の推移
電力グラフ
B店舗:空調の使用電力量・建物全体の最大電力の推移
電力グラフ

手ごたえを得た同社は、2023年5月現在、おまかSave-Air®の導入を6店舗まで拡大している。

おまかSave-Air®は、AI(人工知能)によって快適性を維持しつつ、効率の悪いフルパワー運転などを回避。年間を通した空調の高効率運転を可能にする。システム販売元のKenesでは空調にかかる電気料金を1~2割程度、低減させる効果が見込めるとしている。

おまかSave-Air

導入に際しても、室外機まわりの簡易な配線工事などでシステムを取り付けられるため、「他社の商業施設にテナントで出店しているようなケースでもメリットが大きかったです」と栗原氏は語る。

テナント出店の場合、施設を訪れた客への影響だけではなく、他のテナントの営業に支障が出るような事態は絶対に避けなければならないシビアな事情がある。「関西電力グループで電気のプロである Kenesに工事を行ってもらえるので、安心してお任せすることができました」と栗原氏は振り返る。

センサー設置し、取り組み深化へ

ヤオコーでは、おまかSave-Air®の導入拡大にとどまらず、空調のほか、店舗全体の電力使用量のうち4~5割を占める冷蔵・冷凍設備のより効果的な運用に向けた取り組みを深化させようとしている。それは、店内温度に影響を与える場所や要因、電力使用量についてデータを収集して効果検証する取り組みだ。

「店内のどこにどのような施策を打てば電力使用量が下がっていくのか。店内の現状をデータで把握できるようになれば、トータルでより大きな省エネにつなげていけるのではないかと考えました」と栗原氏は説明する。

スーパーでは、店内のいろんな場所に冷蔵や冷凍のショーケースが設置され、そこから冷気が流れ込んだり、機器の種類によっては排熱が出たりする。店内温度に与える影響に加え、空調とショーケースをどう連携させて運用すれば電力使用量を最適化していけるか。それらを検討するためにもデータ収集の必要性が高かったという。

そこで、同社が導入したのが、おまかSave-Air®と連携して安価に利用できるKenesのIoTモニタリングサービス「みえる化+(プラス)」だ。電力、温湿度、CO2の3種類のセンサーを使って調べたい場所のデータを取得できるサービスで、各センサーは無線通信のため配線工事不要で簡単に設置・増設ができる。

計測したデータはおまかSave-Air®の制御用コンピューターで受信してクラウドで共有される。そのため、関係者はどこからでもアクセスが可能で、リアルタイムの情報を含め、データを見やすく整えたWeb画面からデータを確認できる。蓄積したデータのダウンロードも可能で、細かい分析や施策の立案に役立てられる仕組みだ。

同社では5月から順次、みえる化+の導入作業を開始。今後、センサー類が収集するデータを基に店内の電力使用の実態やさらなる改善点を明らかにしていきたい考えだ。

「冷蔵や冷凍のショーケースの温度を変更することでどれほど電気使用量が下がるか、また、変更するならばどのくらいの温度が最適かなど、一カ所一カ所、検証しながらよりよい運用を探っていきたいと考えています」と栗原氏は期待を込める。

みえる化+

地域の人々の快適な環境を考える

同社が空調の最適な運用を模索する背景には、サステナビリティの観点から店内で働く従業員の満足度も高めたいという狙いもあるという。

栗原氏は次のように強調する。「地域で発展していくには、まずは従業員から支持されるような店舗運営でなければならないと考えます。店で働く従業員はその地域で暮らす人々でもあるからです。店内が暑すぎたり、寒すぎたりといったことがなく、快適な温度で働きやすい職場づくりを進めることは、お客さまにも快適な環境となっていくと考えています」

空調の問題だけにとどまらないが、従業員も含めた地域の人々にとっての快適な環境づくりがその地域の発展にも寄与し、ひいては企業のサステナビリティの向上につながっていくという発想だ。「我々の場合、チェーンとして数多くの地域に展開しているので、なお、そうした行動が問われていると考えます」と栗原氏は言う。

実際、サステナビリティ経営を重視する同社では、具体的な目標を掲げてさまざまな方策を既に進めている。

環境の領域では、2030年度までに2013年度比原単位でCO2排出量の60%減を実現すべく、全社的な課題として、節電や節水、クリーンエネルギーの活用で省エネ型店舗の運営推進などに取り組んでいる。空調の省エネや運用最適化もそうした全体の取り組みの一環として位置づけられている。

エネルギー費の高騰が続く昨今、同社では空調制御システムの採用を通じ、企業のサステナビリティ向上にもつなげる発想で省エネの取り組みを充実させている。コスト削減だけにとどまらず、多くの成果や気づきを得ている同社の活動に、空調の運用で悩みを抱える他の企業・組織から今後さらに注目が集まりそうだ。

ヤオコー店舗イメージ