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JAPIC 先進事例に学ぶインフラストラクチャー

欧州の先進的な公共事業に学べ JAPIC「欧州視察報告会」

欧州の先進的な公共事業に学べ JAPIC「欧州視察報告会」

 産官学民の英知を結集して政府への政策提言などに取り組む一般社団法人日本プロジェクト産業協議会(東京都中央区、進藤孝生会長、略称JAPIC)は9月29日、東京都内の鉄鋼会館で「JAPIC国土・未来プロジェクト研究会 欧州視察報告会」を開いた。産業界らの関係者約60人が参加し、2017年と19年に欧州を訪れ先進的で大規模な公共事業を視察した会員メンバーの報告に耳を傾けた。

未来プロジェクト示せ―中村氏

JAPIC 副会長 中村英夫氏

 冒頭、JAPIC副会長で国土・未来プロジェクト研究会最高顧問も務める中村英夫氏があいさつ。「これからも安全で豊かに暮らしていけるよう次世代のことを考えて新しいプロジェクトを構想することがJAPICの目的だ。民間の人間を中心に前例主義や縦割りの弊害にとらわれない自由な発想で、新しい構想を打ち出していこう。仲間と一緒に議論しながら欧州のプロジェクトを視察すると、これまでとは違った“モノ”が見えてくる。そこで生まれた新しいアイデアをわれわれの構想に生かしてきたい」と未来構想の重要性を訴えた。

インフラ投資で成長を―藤本氏

JAPIC国土・未来プロジェクト研究会委員長 藤本貴也氏

 続いてJAPIC国土・未来プロジェクト研究会の藤本貴也委員長が研究会の意義などを説明した。

 藤本氏は「2015年8月に研究会を設け、17年11月に日本に必要なプロジェクト構想を提言した。全部で140程度のプロジェクトを議論し、その中から20前後の重点プロジェクトを選定した。重点プロジェクトの必要性や計画・施工段階の工夫、事業手法などをさらに詳しく勉強している」と述べ、2本目を造る津軽海峡トンネル構想や単線方式による四国新幹線、瀬戸内地域の観光クルーズや循環交通ネットワーク構想、名古屋・中川運河周辺の再整備構想など提言した主要な構想を紹介した。

 さらに欧米諸国との比較データを示し、積極的なインフラ投資で着実に成長している欧米諸国に比べ、ここ20年ほどの日本のゼロ成長とインフラ(社会基盤)投資の半減ぶりが際立つと強調。「視察した欧州のプロジェクトに学びつつ、日本のインフラ整備を進めていかなければならない」と訴えた。

空間全体の設計図が重要―林氏

中部大学 持続発展・スマートシティ国際研究センター長 林良嗣氏

 欧州視察の報告は、視察団団長の林良嗣・中部大学持続発展・スマートシティ国際研究センター長が視察全体を振り返り、視察団メンバーの7人が現地で見聞した個別公共事業の詳細を説明した。林団長は、視察した全ての公共事業には、次世代に継承可能な質の高い都市・国土を残す「アドバンス・インフラストラクチャ―」の“思想”が根底にあり、地域、欧州全体の都市構造の中に事業を位置付ける「ランドスケーピング」の構えと、個々の事業の目線ではなく、都市・欧州全体の空間構造と一体化した「インテグレーション(統合)」の視点が全事業に貫かれていることを強調した。

 その上で「個別にとにかく何かを造れば将来必ず使われるという時代はもうとっくに終わっている」「欧州では(アドバンス・インフラストラクチャ―の思想で)小規模の都市が、非常に大規模なインフラ投資をして、自らを輝く都市に変えている」と述べ、「東京の一極集中に苦しむ日本の諸都市にとっては、改善策の参考になる」と主張した。

 またJAPICの使命は「質の高いインフラを整備して将来継承可能な都市や国土をつくるプロジェクトを考えることだ」と訴えた。

工期短縮の仕組み必要-松崎氏

戸田建設(株)土木営業統轄部 土木営業第一部 課長 松崎成伸氏

 個別事業報告の“トップバッター”は戸田建設の松崎成伸氏。スウェーデン・マルメとデンマーク・コペンハーゲン間の海峡を橋や海底トンネル、埋め立て地で結ぶ「オーレスン・リンク」プロジェクトなどを説明した。

 オーレスン・リンクは総延長15・8キロメートル。2000年7月に全線開通、総事業費は約3500億円。陸上で製作した“箱”を海底に掘り込んだ溝に埋める「沈埋(ちんまい)工法」の海底トンネルには耐用年数100年の耐水性コンクリートを使用。幅38・8メートル、高さ8・6メートル、長さ175メートルの箱20個を特殊な伸縮ジョイントでつないだ。5カ月の工期短縮も特徴。

 松崎氏は「工期の短縮で受注者に約20億円、発注者側職員に給料6カ月分のボーナスが支給されており、工事短縮の意欲を刺激するインセンティブが働いていた。工事の契約本数も少なく発注者の職員数も少なかった」と述べ、「今後日本でも大規模プロジェクトの工期を短縮する方法として参考にする必要がある」とした。

 またスイスのアルプス山脈を貫く世界最長(総延長57・1キロメートル×2本、総事業費約2兆7千億円)の鉄道トンネル事業(2016年完成)も紹介。「貨物輸送がトラックから鉄道に移り、アルプスの自然環境保護に寄与したといわれている」と話した。

観光と生活の調和大切-栗栖氏

(株)淺沼組 土木事業本部 技術設計第2グループ グループリーダー 栗栖寛氏

 淺沼組の栗栖寛氏は、オーストリア・ザルツブルクの防空壕跡地に造った収容台数1500台の「山腹駐車場」事業(1974年完成、建設費約30億円)などを報告。ザルツブルクはモーツァルトが住んだまち。夏開催の音楽祭に多くの観光客が訪れる観光地として有名。山腹駐車場は観光政策の一環で建設された。駐車場から音楽祭のメイン会場など旧市街地の主要施設に直接つながる歩行者通路が伸び、利便性に配慮している。利用者の増加に伴い650台分の増築が計画された(建設費約40億円)。

 栗栖氏は「およそ50年前に完成した駐車場だが、特に老朽化した感じはなかった。駐車場の整備で観光客が多い旧市街地への車の流入を抑制でき、観光客の増加につながっている」と観光振興と調和した事業の特徴を解説。「市民と観光客のために景観・環境・利便性に配慮し、市民の生活と観光地としての魅力を両立している」として「日本の観光地における交通政策を考える上で非常に参考になる」と締めくくった。

公共の役割は重大―塩﨑氏

(株)IHI 顧問 塩﨑正孝氏

 IHIの塩﨑正孝氏は、旧東ドイツ領だったライプツィヒ市の旧炭鉱跡地再開発事業を取り上げた。

 この事業は“環境破壊の象徴”であった石炭の露天掘りの荒地を、レストランなどが並ぶ「水と緑を満喫できるオアシス」の水辺空間(20カ所の湖)に変えたもの。約60年間の採掘期間に5億7千万トンの石炭を採掘し、17億立方メートルの表土を掘り起こした。掘り起こした土の層の厚さは平均40メートル以上と膨大。汚染水の流出などと合わせ環境悪化を招いていた。環境再生のため連邦政府と関係州政府は1兆2千億円を拠出して事業を主導し、跡地の利用計画を地元3市が策定した。

 塩﨑氏は「東西ドイツ統一の結果、生まれた成功事例の一つとして評価されている」と説明。「さまざまな意見があり財政制約も大きい民主国家・成熟社会でも世代を超えた“未来”に投資して巨大プロジェクトを推し進めた。巨大プロジェクトはリスクが高く民間だけでは進められないが、ドイツでは民間の知恵と工夫を引き出しながら、(連邦政府や州政府、自治体の)“公共”が大きな役割を発揮している」と公の役割の重要性をあらためて強調した。

親水性保つ浸水対策は魅力的―長南氏

(株)建設技術研究所 東京本社都市部PFI・PPP室 室長 長南政宏氏

 建設技術研究所の長南政宏氏は、ドイツ北部のハンブルク市ハーフェンシティ地区のウォーターフロント再開発事業を報告。官民の適切な役割分担が確保されている開発手法や堤防に頼らない浸水対策などを日本が学ぶべき点として挙げた。

 この事業は、河口から約100キロのエルベ川の中州およそ157ヘクタールを再開発し、就業人口4万5千人、居住人口1万2千人都市への再生を目指している。完了予定は2025年。事業費は公共投資約2800億円、民間投資約9400億円。事業主体はハンブルク市100%出資の有限会社。有限会社は、市から計画地を無償で譲り受け、うち半分を民間開発業者(入札で決定)に売却し、その売却収入を道路や橋、公園などの公共施設の整備費に充て、完成後、市に引き渡す。土地の売却価格は開発住宅価格を下げるため安く設定されている。

 市は民間業者の開発プロセスに一定期間関与でき、民間活力を生かしつつ事業を適切にコントロールすることが許されている。

 計画地は河口から約100キロの位置し、数年に一度の頻度で高潮による浸水が懸念されるが、親水性を優先しあえて堤防で囲わず、地区全体をかさ上げする浸水対策を採用した。浸水を前提に、避難するための橋をあらかじめ建物に設置したり、海抜8・1メートル以下の建物のドアと窓に防潮扉を設置させるなど巧妙な対策が取られている。

問題意識の共有が鍵-平川氏

パシフィックコンサルタンツ(株)中部支社 国土基盤事業部 部長 平川了治氏

 パシフィックコンサルタンツの平川了治氏は、東西ドイツ統一後、人口流出や環境汚染の表面化などで急速に衰退した旧東ドイツ領・ライプツィヒ市の「V字回復」を実現した都市再生の取り組みを解説した。

 ライプツィヒ市は統一後、人口流出で増えた空き家を撤去して建物を縮小改変する「減築」▽権利者の同意を経て遊休地を緑の景観に変える「暫定緑地制度」▽世界的な企業の誘致に成功(約1万人の雇用を創出)した物流強化の空港整備▽汚染物質の排出を抑制する「低排出ゾーン」の導入▽自動車の代わりに高速の路面電車(トラム)を公共交通の基軸に据えた交通インフラ整備-などに取り組み、統一前より人口を増やす(53万人→60万人)など、衰退都市から魅力ある都市に生まれ変わった。

 平川氏は「トップダウンとボトムアップがうまくかみ合っている」と分析した上で「ライプツィヒ市には、誇りと権限、専門技術を持つ行政職員と、事業を“わが事”とする関心の高い市民がいる。この両者が“協働”している。都市衰退を前に “運命共同体”という意識を両者が持った。日本の都市も緩やかな人口減少を迎えている。行政と市民が問題意識をどう共有していくかは日本の課題の一つ」と協働の重要性を指摘した。

人口減少時代の都市再生の模範-林氏

国際航業(株)公共コンサルタント事業部 事業管理部長 林栄明氏

 国際航業の林栄明氏は、東西ドイツ統一(1989年)後の人口流出などに対応したドイツのデッサウ-ロスラウ市のユニークな空き家対策など地域特性を生かした都市再生の取り組みを紹介した。

 デッサウ-ロスラウ市は人口約8万3千人(2017年)。東西ドイツ統一後、旧東ドイツ領地域を中心に多くの市民が新しい環境を求めて市外へ流出したことから、空き家が目立つようになった。デッサウ-ロスラウ市を抱えるザクセン・アンハルト州は4・75億ユーロの補助金を充て2002年から空き家対策を本格化。空き部屋が目立つ集合住宅を撤去されたほか、エレベーターがなく高層階に空き部屋が目立つ集合住宅を低層化(例、5→4階)する減築や古い建物を大改修して資産価値を高めるリノベーションなどが進んだ。市内の空き家率はまだ約13%だが、一連の空き家対策は空き家の増加率をある程度抑え込む効果があったと評価されている。

 空き家対策と連動した都市の魅力を高めるまちづくりも同時に始動した。撤去された集合住宅の跡地を緑地化して市民が憩う開放スペースにしたり、そのスペースの利活用を市民に委ねたりするなどして、市民が主体的に参加できるコミュニティーの活性化が行われている。また建築・絵画・彫刻・デザインの世界に大きな影響を及ぼした総合造形学校バウハウスという”世界遺産”が市内に存在することから、2019年にはバウハウスミュージアムがオープン。バウハウスの関連施設を自転車で巡るサイクリングルートも整備された。

 積極的な空き家対策と世界遺産を活用した街の魅力を高める取り組みは功を奏し、市の人口減少は近年、鈍化傾向を示している。

住民参加の仕組み充実-大野氏

清水建設(株)営業総本部 土木営業本部 営業部 部長 大野昌幸氏

 清水建設の大野昌幸氏は、欧州の中央に位置するシュツットガルト駅の地下化による再開発などドイツの主要鉄道駅の拠点整備・再開発事業を説明した。

 シュツットガル駅再開発は欧州の広域的な高速鉄道網の整備プロジェクトの一部。2010年に着工されたが緑の党などの反対で事業の可否を問う州民投票を実施。約6割の賛成で事業は再開され、2025年12月の完工を目指して現在工事が行われている。事業費約9800億円で建設雇用4千人、開発後1万人の新規雇用を見込む。

 大野さんは「駅の地下化で合計100ヘクタールの再開発エリアが生まれ、約20ヘクタールが公園に転換される。環境に配慮した非常に美しい駅になる」と述べ、「貨物輸送がトラックから鉄道に移り、年間1800万人の旅行者の移動手段が車から鉄道に代わるなどして年間7万トンの二酸化炭素(CO2)排出量削減が見込まれている」と環境負荷軽減の効果を強調した。

 その上で「一都市、州の目線だけではなく“欧州全体の目線”でプロジェクトが実施されている。住民投票などプロジェクトに住民意思を反映させる方法も整っている。成熟社会といわれる欧州を視察して実感したのはより良い社会をさらに構築していこうという強い意欲だ」と話した。

コロナにらみ活動強化-進藤氏

JAPIC 会長 進藤孝生氏

 最後にあいさつしたJAPICの進藤孝生会長は「ブレグジット(イギリスのEU離脱)や南北・東西格差による政治的分裂や成熟社会の“固定観念”があった欧州で、立派なインフラプロジェクトが計画的、具体的に進められていることを知り、正直大変驚いた。欧州型の資本主義、民主主義が十分に機能していると感じた」と報告への感想を述べるとともに「コロナ禍によるグローバリゼーションへの反省で内需主導の方向性が出てくる。実行を待つ具体的なプロジェクトをメニューとして整理しておくことが大事で、JAPICの活動をさらに進めていかなければならない」と活動強化へ意欲を示した。

社会インフラは次の時代の資産―丸川氏

JAPIC 専務理事 丸川裕之氏

 閉会のあいさつでJAPIC専務理事の丸川裕之氏は「今回の報告会はコロナ下ということもあり、動画でも配信した。今後もこのような形の発信が増えると思うが、社会インフラは次の時代の資産になることを多くの人に理解してもらえよう頑張っていきたい」と話した。

 JAPICは日本の明るい未来を創生することを目的に1979年11月、任意団体として発足。83年4月に社団法人化。大手ゼネコンや鉄鋼、コンサル、不動産会社、金融機関、自治体などが会員。現在の会員数は224(2020年3月31日時点)。