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PR特別企画 薬剤耐性(AMR)とは?抗菌薬のリスクと私たちにできること AMR臨床リファレンスセンター

 現在、コロナ禍において手洗い、消毒、換気など、さまざまなウイルス感染のための予防策が取られている。

 ウイルスの除去には殺菌、抗菌といった言葉が目につくが、服用する抗菌薬というのはウイルスに有効なのだろうか。実はコロナ、かぜやインフルエンザといったウイルス性の感染症には抗菌薬は効果がない。抗菌薬は細菌による感染症の治療薬なので、かぜを早く治そうと思って抗菌薬を求めても効果がないのである。そればかりか、必要なときに処方された抗菌薬を残したり、人にあげたりといった間違った服用が一因で「薬剤耐性(AMR)」といったリスクが発生することもある。

 では、そのようなリスクとは私たちにどのような影響を及ぼすのだろうか。

 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長の藤友結実子先生に話を聞いた。

薬剤耐性(AMR)とはどんな問題なのか

薬剤耐性(AMR)とはどんな問題なのか

 身近に起こりうる問題にもかかわらず、「薬剤耐性」「AMR」という言葉を初めて聞いた……という読者も多いのではないだろうか。

 抗菌薬が病気に効く仕組みや、正しく使わないとどんな問題が起きるのか、藤友先生に質問してみた。

---そもそも「抗菌薬」とはなんでしょう?「抗生物質」「抗生剤」といって処方されることもありますが、同じものと思ってよいですか?

 「はい、抗生物質(抗生剤)とは、日常生活では抗菌薬と同じ意味で使っていると考えてよいです。

 抗菌薬とは、体内で細菌をやっつけたり増殖を抑えたりする薬のことで、細菌が原因の病気や症状には効果がありますが、ウイルスによる病気には効きません」

---ウイルスによる病気とはどんなものがありますか?

 「ウイルスによる代表的な病気は、“かぜ”や“インフルエンザ”などです。新型コロナももちろんウイルスが原因で、これらにはいずれも抗菌薬は効きません」

 実は、欧米ではほとんどの人がこの「かぜに抗菌薬は効かない」という事実を正しく知っているという。

 しかし、AMR臨床リファレンスセンターが2016年より毎年実施しているアンケート調査によれば、抗菌薬について正しく理解している日本人の割合は22-25%で推移している。

 参考:国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター 「抗菌薬意識調査レポート2021

 同様の調査はヨーロッパでも行われているが、スウェーデンなどでは8割を超える人が「かぜに抗菌薬は効かない」と正しく回答している。

 参考:「抗菌薬意識調査レポート2019

 また、同アンケートでは、「今後かぜで医療機関を受診した場合に抗菌薬を処方してほしい」と希望する人が約26%、「余った抗菌薬をとっておいて、体調が悪いときに飲んだ」と答えた人が約20%いたことがわかっている。

 参考:「抗菌薬意識調査レポート2020

 これらの結果からわかるように、日本では抗菌薬に関する正しい知識はあまり普及していないのが現状である。

---このような間違った抗菌薬の飲み方をしているとどのような問題が起こるのでしょうか?

 「抗菌薬を頻繁に使用していると、細菌の中には、少しずつ性質を変化させて、自分たちを攻撃する抗菌薬から生き延びようとするものがときどきあらわれます。

 抗菌薬が効かない、もしくは効きにくくなった細菌のことを“薬剤耐性菌”といいます。

 抗菌薬を飲むと、病原菌だけでなく、普段から体の中に棲んでいるさまざまな菌も殺してしまいます。

 すると、普段は多くの菌がバランスをとって共存しているのに、生き残った抗菌薬の効かない菌は周りに他の菌がいなくなり増えやすい状況になります。

 つまり、必要のないときに自分の判断で抗菌剤を飲んだり途中で止めてしまったりすると、薬剤耐性菌に増えるチャンスを与えてしまうのです。

 その結果、現在も世界で年間70万人もの人が薬剤耐性のために死亡しています。このまま放置すると、約30年後には死亡者は1000万人に上ると予想されています」

 薬剤耐性菌は、手洗いなどの感染対策が不十分だと人の間で広がり、人を介して動物や自然環境にも広がって汚染しているという。

 目には見えないが、すぐそこにある大きな脅威だといえる。

身近にある薬剤耐性症の例

身近にある薬剤耐性症の例

 「30年後には1000万人もの人が薬剤耐性で命を落とすかもしれない」とはいえ、現在健康な人にとってはどこか遠い出来事のように感じられるかもしれない。

 しかし実際は、薬剤耐性の問題は私たちのすぐ身近にあり、明日にもその影響を受ける可能性は十分あるという。

---私たちが薬剤耐性で困るとしたら、どんなケースがありますか?

 「身近な例としてはお子さんの中耳炎があります。

 本来、中耳炎を引き起こす細菌にはよく効く抗菌薬があるのですが、それまでにちょっとしたかぜ症状で何度も抗菌薬を飲んでいると耐性菌が増えて抗菌薬が効かなくなり、長期間耳鼻科に通ってもなかなか中耳炎が治らない……という状態が起こりえます。

 また、高齢の親御さんが入院し、手術が必要になることもあるでしょう。

 しかし、耐性菌を保菌(体内に菌はいるが病気にはなっていない状態)していると、術後感染予防のために投与する抗菌薬の効果が期待できず、手術そのものができない可能性があります」

 これらは誰にでも起こりうることであり、本当に抗菌薬が効いてほしいときに薬が効かない事態が広がることが今、危惧されている。

医師に聞く「今すぐ私たちにできること」

医師に聞く「今すぐ私たちにできること」

 薬剤耐性を食い止めるために、今から私たちができることはあるのだろうか?

 藤友先生によると、ポイントは2つあるという。

 「まず、抗菌薬を適切に使用することが何よりも重要です。

 抗菌薬を飲むなと言っているのではありません。抗菌薬が必要で処方された場合は必ず飲みきり、とっておいて後日飲んだり、人にあげたりもらったりしないでください。

 そして、かぜと診断されたときには、抗菌薬が欲しいと医師に頼まないようにしましょう。

 かぜに抗菌薬は効きません。過去に同じような症状で抗菌薬を処方されたことがあっても、原因はそのときにより異なります。

 医師は、今回抗菌薬は必要なさそうだと思っても、患者さんに希望されると処方してしまうことが多々あります。

 以前、私たちが行った調査でもそのような結果が出ています」

 参考:全国の診療所医師を対象とした抗菌薬適正使用に関するアンケート調査

 「次に、日頃から基本的な感染対策をして健康に過ごすことも大切です。

 体調を崩して病院に行くことが減れば、薬を飲む機会も減り、結果的に耐性菌を増やさないことにつながります」

 ただ実際に自身や家族が受診した場合、抗菌薬を断ったり、処方された薬について確認したりするのはハードルが高い……と感じる人もいるだろう。

---不要な抗菌薬を断りたい場合、どう切り出せば良いでしょうか。

 「実は、患者さんのおよそ半数が、診断や薬についてわからないことがあっても遠慮して医師にたずねないというデータがあります。

 しかし、自分の身体や病気について理解し、納得して治療を受けるのはとても大切なことです。昔のように何でもお医者さん任せ、という時代ではありません。

 不安な場合はぜひ、遠慮せずに質問してみてください。

 処方される薬の説明があったタイミングや、診察の最後に“何か聞いておきたいことはありますか”と言われたら、“そのお薬は抗菌薬ですか?” と聞いてもよいのです。

 “かぜなら抗菌薬を飲まないでおこうと思うのですが……”と切り出すのもよいかもしれません。

 患者さんからそのように言われると、医師は“かぜに抗菌薬は効かない”ということを説明しやすくなります」

抗菌薬を正しく知ろう

抗菌薬を正しく知ろう

 誰でも一度は医療機関で処方されているであろう抗菌薬だが、正しい飲み方や薬剤耐性について知っている人はまだまだ少ないのが現状だ。

 日本では毎年11月を「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」に定めて普及啓発活動を進めている。

 AMR臨床リファレンスセンターでは、医療従事者に向けて薬剤耐性対策や抗菌薬の適正使用活動に生かせる情報やデータを提供すると共に、広く一般の方にも抗菌薬や薬剤耐性を知ってもらうための広報を行っている。

 自分自身や家族のために「もっとAMRについて詳しく知りたい」という方は、以下から最新情報が見られるので、ぜひチェックしてみてほしい。

「かしこく治して、明日につなぐ」
藤友 結実子

藤友 結実子

法学部卒業後、一般企業に就職したが、滋賀医科大学医学部で学び直した。総合内科専門医、呼吸器専門医。大阪医療センター、京都府立医大で感染症診療や院内感染対策に従事した後、AMR臨床リファレンスセンターで薬剤耐性・抗菌薬の適正使用の教育啓発活動に携わっている。医療従事者も含め、人が医療に関する行動変容を起こすには、どのように情報を伝えればよいか、に関心を寄せている。東京大学医学系研究科医療コミュニケーション学教室在学中。