「ブレンディ®」ザリットルが変える環境意識

粉末を水に溶かすだけで風味豊かな飲み物が手軽に楽しめ、プラスチック削減にも貢献できる―。味の素AGFが2021年に発売し、提案し続けているパウダードリンク「ブレンディ®」 ザリットル(以下、ザリットル)が話題だ。商品が粉末のため、2リットル用ペットボトルの約10分の1のスペースでトラック輸送でき、CO2削減に寄与。品質の高さや利便性を備えながら環境にもよい特性に地方自治体や小売店なども着目し、環境やサステナビリティについて考えてもらうキャンペーンでザリットルを活用する動きにも発展している。取り組みの原点と現在に至る軌跡について、同社のキーパーソンに聞いた。

【話者紹介】
話者近影 味の素AGF株式会社
東京支社
森 哲史 氏
話者近影 味の素AGF株式会社
営業推進部
長山 和樹 氏

※部署名・肩書は取材当時

高い輸送効率でCO2削減に寄与

ザリットルは個包装のスティックに入った粉末を1リットルの水に溶かすだけで、風味豊かな飲み物が手軽に味わえるパウダータイプの飲料だ。コーヒーや紅茶、緑茶といった定番のドリンクはもちろん、ジャスミン茶やルイボスティーなど香りが人気のフレーバーに加え、現在ではやわらかな甘みと豊かな香りが特徴のピーチティー、塩分やクエン酸入りの「水分補給応援」と題したアイテムも加わり、提案するフレーバーは計8つまで拡大している。

「おいしさだけではなく、環境やサステナビリティに配慮した工夫を数多く備えている点も大きな特徴です」。そう語るのは、営業推進部の長山 和樹 氏だ。

商品が粉末のため、トラック輸送時に省スペースで効率よく輸送することができる。2リットル用ペットボトルで運ぶ場合と比較すると、わずか9%ほどの積載スペースで済む。さらに、1回でより多くの商品を運べるため、輸送回数を減らし、CO2削減にもつながる。

さらに、発売後の1年間で「少なくとも200トン以上」(同社)のプラスチック削減につなげられたという(※1)。ザリットルは、消費者にとっても、購入後の持ち帰りがラクな上、自宅でストックしやすく、さらに家庭からのプラスチック排出の削減にも直に結び付く、といった特性がある。

※1 2リットル用ペットボトル1本とザリットル2本のプラスチック使用量を比較した場合

「新たな切り口から展開できないか」

「環境負荷の低減にも多くの貢献が可能で社会課題の解決にもつながるザリットルについて、新たな切り口から広く展開していくことはできないか」。東京支社の森 哲史 氏は、かつて所属した九州支社で当時の支社長を中心としたメンバーらとそのように思いを巡らせたという。

たどりついたのが、環境やサステナビリティへの意識を同じくする自治体や事業者とスクラムを組んで、新たな暮らしへの変化を呼びかける活動だった。それが初めて実現したのが、2021年の福岡県での取り組みだ。

福岡県のポスターを売場で展開

まず、福岡県庁において、企業としての環境への取り組み方針やザリットルの商品コンセプトを説明。県側から好評を得られ、地場のスーパーマーケットなどとの連携が実現。プラスチックごみ削減に取り組む事業所「ふくおかプラごみ削減協力店」を増やす同県の取り組みに賛同する形で、その協力店の一員だったスーパーで、同県のプラごみ削減に向けた活動を紹介するポスターなどとともにザリットルの売り場をつくって情報発信に取り組んだ。

環境やサステナビリティといったテーマをあらたまって伝えることや、さらにそれを来店客に身近に感じてもらうことは決して容易ではない。だが、ザリットルの商品と売り場を活用して環境にやさしい新たなライフスタイルをイメージしてもらうことで、環境負荷の低減に向けたメッセージを届けられるようにした試みだった。

「多くのお客さまに売り場で足を止めていただけるなど、反響を感じました」と森氏は振り返る。県にとっては同協力店を広げる取り組みを市民に発信する機会となったほか、スーパーからも「我々が『ふくおかプラごみ削減協力店』の一員で、環境への意識を持っているという企業姿勢をお客さまに知ってもらえた」などと喜ばれたという。

福岡発の取り組み、全国に広がる

このように福岡県で手ごたえを得た同社はその後、社内での反響も広がり、活動を九州支社全体から、さらに全国まで拡大していった。

静岡県との店頭用連動POP(2021年度)

静岡県では、海洋プラスチックごみの防止に取り組む県民運動で、エコ活動やエコ商品を購入にした人が応募できるキャンペーンの賞品としてザリットルの提供を実施。さらに温暖化防止につながる行動をした人にポイントが付与される県などの実行委員会の事業では、市民がザリットルを購入した場合、「エシカル商品(=人や社会、環境を意識して作られた商品)の購入」のアクションの一つと認められ、ポイントが贈られる対象となった。

「ザリットルを購入して使っていただくことが、環境のために起こせる行動の一つとして多くの人に認知いただく機会となりました」と長山氏は説明する。これらの活動が縁で、同県内の高校において、ザリットルの開発経緯やSDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けた同社の活動をはじめ、行政や流通の取り組みを紹介する課外授業も行われることになった。

生徒から「ザリットルを使ってみたくなった」などの声も上がったといい、「入り口は環境がテーマでしたが、結果的に当社商品や、行政や流通の取り組みに関心を持っていただき、身近に感じてもらえたことで未来のファンづくりにもつながりました」と長山氏は振り返る。

粉末を水に溶かすだけでドリンクが簡単で便利につくれるという、ザリットルの商品特性をさらに生かした活動を展開したのは、仙台市の「マイボトルキャンペーン」でのことだ。

仙台市のPOPと店頭での展開

近年、マイボトルの推進自体はさまざま取り組まれてきているが、環境などへの利点は分かっていてもきっかけがないため導入していないという人も少なくないはずだ。同市や同社ではそうした人々などにアプローチすべく、ザリットルを取り入れたライフスタイルを具体的に提案。あらためてマイボトルの利点に気づいてもらい、導入を後押しするように取り組んだ。

「ザリットルを選択することで、地球にいいことが日常からすぐに始められるというメッセージを伝えられたと思います」と長山氏は語る。

また直近では、秋田県が実施する「マイボトル持参運動」に賛同する形で、国の「環境月間」が始まる2023年6月に合わせ、県内複数のスーパーの店頭でマイボトル持参の普及活動を展開。ザリットルなど商品の陳列棚付近に啓発ポスターを掲示したり、県作成の啓発動画を流したりといったキャンペーンで、こちらも官民一体となり、多くの人々にプラスチックごみの削減とマイボトルの持参を呼びかける取り組みを深化させている。

環境への新たな行動を「後押し」

このように同社では、ザリットルそのものの販売にとどまらず、環境やサステナビリティの観点と組み合わせたキャンペーンなどをさまざまな自治体や事業者と協力して展開することで、最終的には多くの消費者に環境負荷低減に向けたメッセージやザリットルの価値を伝えてきた。

「ザリットルを通じて、取り組みに共感いただく人々の輪が広がってきている」と森氏。九州支社から始まった活動は、現在では40を超える都道府県まで広がり、環境に対する人々の行動の新たな選択を後押しする取り組みに昇華している。

そんな同社ではザリットルの今後を巡り、さらにどのようなビジョンを描いているのか。

「ザリットルは『すぐに始められるSDGs(の行動)』として人々にアプローチしやすいアイテムだと考えています。環境への意識や行動を変えるきっかけとして、これからも共感が得られるような提案を、チームAGFとして全国で継続していきたいです」と長山氏は強調した。

ただ一方で、ザリットルを通じて同社が全国で取り組んできた活動は、「環境に良い」というだけで、これほど大きなうねりを生み出した訳ではない、とも考えられる。

同社が培ってきた独自技術であるパウダーがすぐに水に溶ける機能性や、好みや気分に合わせて高品質なドリンクが選べる多様なラインナップなど、ザリットルの商品としての高い価値や魅力があってこそ、その先にある「環境に良い」というメッセージが人々に伝わっていったのではないだろうか。どんなに環境にとって好ましいことも、商品が使いにくい、またはおいしさが伴わなければ消費者の共感を得ることは難しいからだ。

サステナビリティの重要性が広く問われるようになった今、ペットボトルを使用しないパウダードリンクという切り口から環境に対する人々の意識や行動に変化を起こしつつあるザリットル。便利でおいしく、楽しみながら、そして環境にも良い―。そんな支持や共感を広げ続けるザリットルの今後になお一層、目が離せない。