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サンゴの危機 温暖化で変わる海に潜る (2回続き) (上)回復鈍い国内最大サンゴ礁 「海の悲劇は見えない」

2021.6.22 20:31 共同通信

 地球温暖化に伴う海水温の上昇傾向が続けば、今世紀中に世界の海でサンゴ礁が消えるかもしれず、2024年には日本周辺の海でサンゴ礁の白化が当たり前になる可能性があるとの報告書を、国連環境計画(UNEP)が昨年末発表した。サンゴ礁は9万種を超える生き物を養っているともされ、生物多様性の象徴だ。人々の暮らしとも関わりが深い。温暖化の影響が表れつつある海に潜り、現状を探る。

 青い海に潜ると、藻に覆われたサンゴの死骸が見渡す限り続いていた。

 沖縄県にある国内最大のサンゴ礁「石西礁湖」は、2016年夏の大規模白化からの回復が鈍い。環境省の最新調査によると、昨年秋に確認された生きたサンゴの割合は全体の1割にとどまる。

 「今の状況を自分の目で見てみよう」とプロダイバーで環境活動家の武本匡弘さん(65)が呼び掛ける観察ツアーに今年4月初め、同行した。

 石西礁湖の環礁内にある竹富島北東の海域、水深5~10メートルまで潜ると、朽ちた枝サンゴが折り重なり広大な斜面を覆っていた。灰色の世界に淡色の幼いサンゴが10メートルごとに二つ三つ、ぽつりと根付き、まるで闇にともる明かりのようだ。

 「こんなにひどいとは」武本さんは息をのんだ。「山が枯れたら誰もが騒ぐが、海の悲劇はなかなか人の目に見えない」。

 環境省によると、サンゴは潮流が速い天然の水路や外海に面した環礁の周りでは元気に育っているが、環礁の内側では潮の流れが悪く、増えていない場所が多い。

 船のかじを取る南西観光の上勢頭保さん(71)は「この10年で海の変化は加速した」と実感する。竹富島で生まれ育った上勢頭さんは「昔はサンゴの産卵で波打ち際が赤く染まったが、今は卵の量がまるで違う。以前は人の背ほどもあった枝サンゴも大きくならない」と嘆く。

 上勢頭さんは、サンゴが減った後、沿岸で取れる魚が大幅に減ったという。かつては鮮やかな青や赤の「イラブチャー(ブダイ)」がたくさん捕れ、島特産のかまぼことなったが、今では他の島で取れた魚や、北海道から仕入れたタラを混ぜるようになった。

 竹富島南部では、サンゴが消えた岩礁に短い藻がびっしりと付いていた。環境省によると、藻が密生するとサンゴの赤ちゃん「幼生」の着床が難しくなる。同省担当者は「サンゴ礁の回復力が衰えている」とみる。

 その原因は複合的だ。近年、台風の進路が島から外れ、温かい海水が周囲にとどまるようになった。赤土やリンなどの化学肥料の流入、生活排水で養分が増え過ぎてもサンゴの成長は妨げられる。藻を食べる魚が減り、はびこる藻の除去も難しくなった。

 一方、石西礁湖の周辺海域、石垣島名蔵湾ではサンゴ復活の息吹も感じられた。高さ約10メートル、外周約70メートルのコモンシコロサンゴは、16年に頂上部がほぼ白化したが、回復している。塊状のサンゴ群体としては国内最大規模で、太い枝状の突起が伸び、小魚が群れていた。

 「生きものたちの団地みたい」。参加者の声がここでは弾んだ。サンゴ礁は本来なら多様な生物が住む豊かな海の森だ。

 環境省石垣自然保護官事務所の大嶽若緒保護官(31)は、サンゴ礁の負荷が高まれば「何百年もかけてできた光景が一瞬で変わる。対策は待ったなしです」と強調した。(写真と文、共同通信・京極恒太、金子卓渡)

サンゴの白化

 サンゴ体内に共生し、光合成を担う微小な藻の褐虫藻(かっちゅうそう)がいなくなり、サンゴの骨格が白く見える現象。水質汚濁などでストレスを受け、海水温が30度程度を超えた状態が続くと広範囲で起きるとされる。短い間なら褐虫藻が再び増えサンゴは生き延びるが、長引くと死滅する。環境省は石西礁湖の東西30キロ、南北20キロの31地点で生きたサンゴが海底を覆う被度を調査。大規模白化前の2016年は19・1%だったが、白化後の17年は9・2%と半減。回復は緩やかで20年は11・5%だった。

 

*写真・記事の内容は、2021年4月30日までの取材を基にしたものです。