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「ピアノと海と車いす」第3話 13年ぶりの海 できること増やしたい

2017.8.28 12:00 共同通信

 いよいよ海での実習が始まった。池田さんにとって、一度だけ体験したダイビングから13年ぶり。長い間、憧れてきた海の中は想像していたよりずっと広かった。

 プールでの訓練通り、講師の太田さんとサインを確認し合い、潜行。水中で思いきり腕を伸ばして水をかいた。

 「魚、魚、おるよ、おるよ」水中マスクを着けたまま叫び声を上げた。泳ぎ回る自由な魚と自分を重ねていた。「進めば進むほど自由な世界が広がっている。もっと深くへ行きたい」と思った。

 途中で彼女の水中マスクが緩み、中に海水が入ってきた。池田さんは慌てず介助するダイバーたちに、マスクを締め直してと手ぶりで伝えた。

  「以前の自分ならパニックになった。痛いとか、助けてとか伝えられるようになったのは進歩です」と振り返る。

 プールと海、3日間で計6回潜り、無事ライセンスを取得した。合格を告げた講師の太田さんは状況に応じて彼女が自ら対応した点を評価した。
 
  「全身全霊で海と関わり感動しました」。スタッフに囲まれた池田さんの目に涙があふれた。
 
  「僕らから見れば小さなことでも彼女にとって大変な壁になる。それを理解してサポートしたい」と太田さんはその場にいた全員に話した。

  「車いす生活で、できないこともたくさんある。でも、そこに目を向けるのではなく、できることをもっと増やしたい」。今まで必死に病気で失った機能を取り戻そうと努力を重ねてきた池田さんだが、心のゆとりが生まれたようだ。

 朝から小雨模様だった空は晴れ、まぶしい夏の太陽が戻っていた。

 池田さんに新たな目標ができた。潜って体全体で味わった海の世界を音楽で表現することだ。「この気持ちをピアノの音に乗せたい。自分の中に新しい引き出しができた」と思い切り笑った。

*写真・記事の内容は、2017年8月28日までの取材を基にしたものです