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海底の車内、育まれる命
震災から10年の海

東日本大震災の津波で流されたがれきは、まもなく10年となる今も各地の海中に残る。岩手県大船渡市の漁港近くの海底には倒壊した防波堤の一部が横たわり、ホヤの養殖施設の下に沈む自動車内では魚が卵を守り新たな命が育まれていた。越喜来(おきらい)湾を望む三陸鉄道の甫嶺(ほれい)駅から約1㌔沖合。水深18㍍の海底にある車体は茶色く変色し、ピンクの藻が斑点のように付着していた。車の下にミズダコ、シートの間にアイナメ、マフラーの中にはリュウグウハゼの姿。シフトレバーの近くから顔を出していたフサギンポの奥には白い卵塊が見えた。厚い唇と頭の突起が特徴的な魚で、雌が卵を守る。カメラを近づけても逃げず、尾びれをゆっくり動かし卵に水を送っていた。運転席の足元で1月下旬にナンバープレートが見つかり、近所に住む小松康志(こまつ・やすし)さん(45)のものだと分かった。フォルクスワーゲンの小型車「ゴルフ」で、甫嶺駅近くの実家に止めていたところを津波にさらわれた。別の場所にあった自宅も全壊。車は沖に流されていって沈んだと地元の漁師に聞いたが、心にずっと引っ掛かっていた。朽ちながらも水中で形を保っている写真を見せると、「そこに居たんだね。悲しいようなうれしいような複雑な気持ち」と目を赤くしながら話した。ライトやタイヤのホイール、ハンドルなどを気に入ったものに交換、修理しながら長く乗り続けるつもりだった。夏になったらダイビングのライセンスを取り、水中で生き物のすみかになった愛車を見に行きたいと思っている。(写真と文 鷺沢伊織、金子卓渡・共同通信写真映像記者)*写真・記事の内容は2021年1月27日までの取材を基にしたものです。

共同通信