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【外国人と生きる 失踪の陰で】(2) パワハラ恐れ「別職場を」 懇願かなわず帰国

2020.9.4 7:01 共同通信

 日本人の同僚男性が犬のようにひもを付けられ、四つんばいで歩かされていた。東京都内の建設会社の敷地内。社員のパワハラ行為を、ベトナム人技能実習生のブオン・カック・タンさん(29)が目撃した。「次は自分の番だ」

 ▽下僕
 タンさんは、パワハラの証拠を残そうと、物陰から行為の動画を撮影していた。会員制交流サイト(SNS)にも投稿した。「暴力が怖かった。職場を変えて日本で働き続けたかった」。今はハノイで暮らす。

 2018年に来日。建設会社で実習を始めた。同じ寮の日本人は、社長から日常的に暴行を受けていた。「資材で殴っていた。同僚を『下僕』と呼ぶよう命じられたこともある」とタンさん。犬のような先輩の姿を目の当たりにしたのは、配属からわずか1週間後だった。矛先が次第に自分へ向かう恐怖を感じた。

 ▽不公平
 タンさんは会社を指導する立場の監理団体に動画を提供。団体側は「実習生が怖がっている。同じようなことがあれば技能実習を停止します」と社長に警告した。

 一方で、監理団体はタンさんの実習先を変える「転籍」に慎重だった。「配属から時間がたっていないのに認めれば、受け入れ先で悩んでいる実習生たちに不公平感が広がる」のが理由だ。

 監理団体の担当者は「不満を抱え、転籍したがる実習生が山ほどいる」と明かす。転籍には手続きや企業探しで時間もかかる。それまで恐怖に耐えて働くのか、帰国か。タンさんは選択を迫られ、暴力を恐れて帰国を決めた。離日直前に「仕事が自分に合わず退職したい。会社に問題はなかった」という趣旨の「同意書」を書いた。「本意ではなかった」と悔やむ。来日に絡む数十万円の借金が残り、建設現場で働いて借金を返す日々だ。

 ▽限界
 タンさんの件が起きて以降、この監理団体は、賃金や待遇などを独自に調べ、悪質な企業を排除する制度を設けた。だが「詳細な状況を把握するのは限界がある。今振り返っても同じ対応を取っただろう」と漏らす。

 ベトナム人を支援する寺院「日新窟」(東京都港区)寺務長の吉水慈豊(よしみず・じほう)さんは「職場が劣悪で転籍を望む実習生の相談は増えている」と指摘。しかし、制度を監督する外国人技能実習機構が関わり実習先を変えられたのは17年11月以降で約40人にすぎない。吉水さんは「雇用側は実習生の人権を一番に考えてほしい」と訴えた。

(共同=泊宗之、千葉響子)

*写真・記事の内容は、2020年3月20日までの取材を基にしたものです。