新制度理由に「合憲」誤り 視標「1票の格差最高裁判決」
1月25日の最高裁大法廷判決で「1票の格差」が最大2・08倍に上った前回衆院選小選挙区の区割りが「合憲」とされた最大の理由は、国勢調査とアダムズ方式によって格差を是正する新しい制度があるからというものだった。しかし、この判断には問題が多い。
まず裁判所が判断しなければならないのは、衆院選が2021年10月31日に投票された当時、区割りが合憲だったのか違憲だったのかだ。
憲法14条は「すべて国民は、法の下に平等」と定め、衆院議員選挙区画定審議会設置法も、最大格差が「2(倍)以上とならないようにする」と規定している。また宇賀克也裁判官が反対意見で述べているように、旧区割り制度で配分された定数が変更されていない都道府県が相当数あり、新制度のアダムズ方式とでは定数配分が異なる。
前回衆院選当時の格差は2倍を超えていたのだから、合憲判断は誤りであり、最高裁は国会に対し、違憲状態にあるので是正すべきだと伝えなければならなかった。
さらに新制度があるからといって、格差は自動的に是正されず、区割りの立法が必要となる。
衆院選の後で新制度に基づく「10増10減」の改正公選法が成立してはいるが、衆院選当時に「10増10減」は提案されていなかった。提案後は、アダムズ方式に反する「3増3減」を求める声が上がったことを考えれば、やはり選挙当時の格差で判断すべきだろう。
最高裁が判決で、新制度のアダムズ方式を無批判に受け入れていることも問題だと考える。
旧制度の「1人別枠方式」は、各都道府県に、あらかじめ議席を1人ずつ配分するやり方で、最高裁は違憲状態を招く原因と繰り返し指摘し、ようやく廃止された。
これに代わるアダムズ方式は、各都道府県の人口を一定の数値で割り、それぞれの商の整数に小数点以下を切り上げた1を足して得られた合計が小選挙区選挙の定数と一致するようにする。
商が1・01でも1・99でも2議席なので、人口の少ない県などに後から1人加える「別枠方式」の変形ともいえる。
単純に人口を定数で割った数値で配分すると、アダムズ方式より東京都は2議席、埼玉、神奈川、愛知、大阪、兵庫、福岡の6府県は1議席少なく、秋田、栃木、群馬、富山、鳥取、香川、宮崎、沖縄の8県は1議席多いという結果となる。アダムズ方式にも問題があることから、目を背けてはならない。
そもそも衆院選は、格差2倍でも「1人0・5票」の有権者が生じる。参院選は反対意見が強い合区を増やせず、格差3倍を是正するのは手詰まりの状態で、自民党は都道府県単位の選挙を維持するため、憲法改正まで提案している。
私案だが、衆院選は11ブロックの比例代表をやめ、全て人口比例の小選挙区か中選挙区に、参院選は選挙区と全国区の比例代表から、11ブロックの比例代表だけに変えるのはどうだろうか。
1人1票ではない選挙は、個人の尊重と法の下の平等、それらに基づく民主主義に反する。ただ同じ町の1丁目と2丁目で選挙区を分けないなどの合理的配慮は必要なので、許される格差は1・3倍程度だと思う。(聞き手は共同通信編集委員・竹田昌弘)
(新聞用に2023年1月26日配信)