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伝える・訴える

当たり前と思っていた自由が、突然変調を来す。決して人ごとではない。事実を伝え、思いを訴える。表現は今、どれほど自由なのか。あるいは抑圧、封殺、監視されているのか。世界の国々をめぐりながら考える。

【伝える訴える 番外編】「表現の現在③」 英ガーディアン紙前編集長 アラン・ラスブリジャー氏

2017.4.6 17:07

弾圧者は親しげに来訪する 穏やかに強靱に立ち向かえ 

ハードディスクの残骸を手にする英ガーディアン紙前編集長のアラン・ラスブリジャー氏=英オックスフォード(共同)
ハードディスクの残骸を手にする英ガーディアン紙前編集長のアラン・ラスブリジャー氏=英オックスフォード(共同)

 英高級紙ガーディアンは2013年、米中央情報局(CIA)元職員エドワード・スノーデン氏が暴露した米英情報機関による大量の個人情報収集・監視をスクープした。前編集長のアラン・ラスブリジャー氏が、同紙が受けた弾圧やジャーナリズムの未来について語った。(聞き手は共同通信編集委員 軍司泰史)

 

 

 

 

 

 

 

アラン・ラスブリジャー氏
アラン・ラスブリジャー氏

ハードディスクを破壊せよ

 ―スノーデン氏と昨年9月、モスクワで会ったそうですね。

 「元気でしたよ。やるべき有益な仕事に取り組んでいました」

 ―スクープの最も重要な意義は。

 「スノーデン氏は、米国家安全保障局(NSA)や英政府通信本部(GCHQ)による、想像をはるかに超えた個人情報収集を暴露しました。問題は、適切な法的枠組みを外れ、人々の同意なく行われた点です」

 「多くの議会や裁判所が、これを法令違反、憲法違反として組織を縮小したり議会の監視下に置いたりしました。スノーデン氏の暴露の結果、世界はより良い場所になり、ほとんどの人々がスノーデン氏の暴露の理由を理解したと思います」

 ―報道に政府の弾圧があったと聞きました。

 「報道開始後、首相府の高官が来訪して『(記事は)実に興味深い。だが、もう終わりだ』と言いました。私は『あなたから言われる筋合いはない』と反論しました」

 「米国には(報道の自由を守る)憲法修正第1条がありますが、英国にはありません。編集長としての難題は、英当局が報道差し止めを命令できることでした。当時(スノーデン文書の)素材は、ブラジル在住の同僚や米紙も持っており、私はロンドンで報道を阻止しても、外国での報道は止まらないことを理解すべきだと主張しました」

 「それでも役人たちは(素材の入った)ハードディスクの破壊を要求しました。私はこれで報道を続けつつ差し止めを免れると考えました。代償がパソコン数台の破壊で済むなら、悪くないと」

アラン・ラスブリジャー氏
アラン・ラスブリジャー氏

冷静さを保て

 ―役人たちの態度は。

 「皆親しげでしたよ。強圧的なところはなかった。でも、われわれが拒否すれば、次は警察当局が出てきたでしょう」

 「ここにハードディスクの残骸があります。破壊作業が終わったとき、こんな状態でした」

 ―スノーデン文書の後、各国指導層の租税回避を暴いた「パナマ文書」の報道がありました。

 「パナマ文書報道は驚くべきものでした。(世界各国の)400人近いジャーナリストが全員規律を守り、一斉に報道を始めました。それぞれの調査に資する合同システムを立ち上げて。こうした協力は、未来への良き指針になるでしょう。ある国家が報道を規制しようとしても、別の場所から報道が続きますから」

 ―報道機関を敵視するトランプ米政権とどう向き合うべきでしょうか。

 「冷静さを保つことが必要です。初めから敵対しないこと。われわれが信じることをやることだと思います。事実に立ち向かい続け、強靱(きょうじん)でなければなりません」

 「もし、トランプ大統領が質問への回答を拒否したら、別の記者が同じ質問をすべきです。穏やかに、粘り強く。同僚記者が狙い撃ちされるのを許してはいけません」

人々に納得してもらう方法を

 ―ネット上で偽ニュースが出回る現状を、どう考えていますか。

 「教育が何とかすべきです。ここ(英オックスフォード大)でも、学生らはフェイスブックからニュースを得ます。ではフェイスブックの情報入手先はと聞くと、彼らはポカンとします。信頼できる報道と、そうでない報道の違いを教える必要があります」

 「われわれはジャーナリストとして、事実がいかに民主主義に必要かを、人々に納得してもらう方法を考える必要があります。事実についての共通理解なしに、民主主義はあり得ないことを」

 ―ジャーナリズムの未来をどう見ますか。

 「まあまあ楽観しています。私はミツバチの比喩を使います。ミツバチは当たり前のように辺りにいる。万一全滅すれば、(多くの)生命の終わりです。ミツバチは植物の受粉に必要だから」

 「記者も当たり前のようにいると思われている。記者がいなくなれば、ニュースのない社会になります。民主主義は機能不全に陥るでしょう。何も信じられない。ある種の政治家が、こうした混乱を望む理由は分かりますね。自分の語りが唯一の語りとなるからです。実に邪悪な考え方です」

   ×   ×   
 ALAN・RUSBRIDGER 1953年生まれ。79年ガーディアン紙に入り、95~2015年編集長。ウィキリークス文書などもスクープ。現在は英オックスフォード大レディー・マーガレット・ホール学長。

◎国家のむなしさ

 政府が報道機関に、機密ファイルの入ったパソコンの破壊を要求する―。「ラッダイト運動」の時代ならいざしらず、現代のロンドンで起きるには、あまりに異様な出来事ではないか。

 ガーディアン紙のスタッフは政府役人たちの目の前で、ハンマーやドリルを使ってパソコンをたたきつぶした。火花が上がり、粉じんも舞ったという。その残骸を今も所持する理由について、ラスブリジャー前編集長は「国家による弾圧の象徴だから」と述べた。

 役人らは報道が続くと知りつつも、破壊させており「国家がいかにむなしいかの象徴でもある」。ラスブリジャー氏は「歴史的事物として(工芸品を集めた)ロンドンのビクトリア・アンド・アルバート博物館に複製を展示すべきだね」と笑った。私も同意した。

 (2017年03月03日)

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