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当たり前と思っていた自由が、突然変調を来す。決して人ごとではない。事実を伝え、思いを訴える。表現は今、どれほど自由なのか。あるいは抑圧、封殺、監視されているのか。世界の国々をめぐりながら考える。

【伝える訴える 番外編】「表現の現在②」 国連人権理事会の特別報告者デービッド・ケイ氏

2017.4.4 16:26

報道人は今こそ連帯を トランプ流に深い懸念

インタビューに答えるデービッド・ケイ氏(共同)
インタビューに答えるデービッド・ケイ氏(共同)

 国連人権理事会の特別報告者デービッド・ケイ氏は昨年、日本、トルコ、タジキスタンの言論・表現の自由をめぐる実態を調査した。メディアを敵視するトランプ米大統領やジャーナリストの対抗手段についても考えを聞いた。(聞き手は共同通信ロサンゼルス支局 中川千歳)

調査報道により力を

  ―米大統領とメディアの関係をどう見ますか。

 「非常に問題だと思います。トランプ氏は自分に都合の悪いニュースや媒体を『偽ニュース』『不正直なメディア』と断じています。米国の民主主義のために最も重要な監視機関を、このように扱うことは指導者のすべきことではありませんが、彼はそうは考えていないようです」

 「当選後、最初の記者会見ではCNNテレビの質問を拒絶しました。対抗して(その場で)声を上げた記者はいなかった。問題だと思いました。米国だけでなく日本もそうですが、職業人としてのジャーナリストの連帯が必要だと思います」

 「トランプ氏はツイッターで考えを一方的に発信しますが、問い返すことはできません。プロパガンダの形になっています。今後米国の記者はホワイトハウスの会見をカバーするよりも、調査報道により力を入れる必要があるでしょう」

デービッド・ケイ氏(共同)
デービッド・ケイ氏(共同)

意図的な「ポスト真実」

 ―米大統領選では多くの「偽ニュース」が出回り、投票行動にも影響したとみられます。「ポスト真実」時代のメディアの役割はなんでしょう。

 「長期的にはメディアが自分たちの取材について一層説明することが求められると思います。結果だけを伝えるのでなく、取材の過程や理由、意義を明らかにし、ジャーナリズムの技法はうわさやプロパガンダとは大きく異なることを示すことが、非常に大切になると思います」

 「偽ニュースに伴うヒステリーも懸念しています。トランプ氏は『オバマ(前大統領)はケニア生まれ』などと偽ニュースを流し、ヒステリーの火をあおりました。われわれは特に高度な監視が必要だと思います」

 「欧米ではテロや難民問題により、従来の社会環境が保障されない時代になりました。人々は運命を自ら制御できないと感じると悪者を探します。社会が不安定になると、偽ニュースのようなものがけん引力を持つようになります。『ポスト真実』は、力を得ようとする人間が意図的につくり出したものなのです」

身を守る組織づくりを

―日本の調査で見えた問題は何ですか。

 「きっかけの一つは(2014年12月に施行された)特定秘密保護法の法案審議に前任者が気を留めたことです。同法の問題は、何が法に触れるのかが明らかになっていない点と、秘密漏えいなどに厳しい懲役刑が科されることです。記者が原発政策などについて取材しようとしても、取得した情報が同法に抵触しているか分からず、取材をやめてしまうこともあり得ます。記者らを保護し、仕事ができるよう法に明記すべきです」

 「公平性侵害などの理由で、政府による放送局の放映権停止を可能にする放送法第4条も問題です。放送局への脅しとなっており、政府には微妙な問題の報道をやめさせる圧力手段になっています。総務省ではなく独立組織が規制権限を持つべきです」

 「記者クラブを廃止することでも、状況が改善すると思います。所属する媒体はクラブから外されることを恐れて(当局に)厳しい質問をぶつけることが困難になっています。廃止は独立系メディアの取材範囲を広げることにもなります」

 「日本政府は、メディアによる厳しい質問に耐え、独立したメディアを奨励する役割を担わなくてはいけません。それが信用や開かれた議論をもたらします。メディアも圧力に屈しないよう、一層結束して身を守る組織づくりが必要です」

―トルコなどの状況は。

 「トルコでは昨年7月のクーデター未遂以来、ジャーナリストらへの締め付けが激しくなり、投獄されています。多くはクーデター未遂の黒幕に加担したとして訴追されましたが、具体的な証拠もないまま罪に問われており、不条理さに当惑しています」

 「タジキスタンの言論状況はさらに劣悪でした。長くソ連の影響下にあったため有力な報道機関の歴史は短く、多くの報道機関や表現者が政府からの嫌がらせを受けています」

 「日本を含む3カ国の調査報告は6月に行う予定です」
   ×   ×   
 DAVID・KAYE 1968年米テキサス州生まれ。カリフォルニア大アーバイン校教授。2014年8月から国連人権理事会の「言論および表現の自由の保護に関する特別報告者」。

◎魔女の火あぶり

 ケイ氏は、トルコで面会がかなわなかった獄中の著名作家アスリ・エルドアンさんから後日手紙をもらった。エルドアンさんは「なぜ私が『魔女の火あぶり』に遭ったのか非常に驚いている」とし「私たちは人権を守る国際組織の助けを、死ぬほど必要としている」とつづった。

 トルコはクーデター未遂後、非常事態宣言を悪用して言論機関を弾圧しているとの批判を浴びている。ケイ氏に対し当局者は「国は脅威に直面している」と言論人の取り締まりを正当化した。

 日本でも戦時下の治安維持法による言論弾圧の苦い過去がある。特定秘密保護法や、「共謀罪」の構成要件を厳格化した「テロ等準備罪」を新設する法案が懸念を広げている。心してかからないと「魔女の火あぶり」は人ごとではなくなる。


 (2017年2月3日)

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