「外資系は違う」退ける     焦点2022「バークレイズ証券解雇無効判決」

2022年02月26日
共同通信共同通信

 東京地裁は昨年12月13日の判決で、世界的金融グループに属するバークレイズ証券(東京)による男性元幹部社員の解雇を無効とし、未払い賃金の支払いを命じた。同社の「日本の企業と外資系の雇用慣行の違いを考慮すべきだ」との主張を退け、日本の判例に基づいて判断した判決を読み解く。同社は判決を不服として控訴している。

六本木ヒルズ
バークレイズ証券の本社がある東京都港区の六本木ヒルズ(2022年1月28日、竹田昌弘撮影)

 ▽「解雇無効なら国際企業が撤退」

 判決によると、男性は別の外資系の証券会社などを経て、2006年にバークレイズ証券に入社した。当初はディレクターで、12年に従業員の職位として最上位のマネージングディレクター(MD)に昇進。16年には、金融機関の協調融資などを担当するシンジケーション本部長に就いた。

 ところが、男性は17年11月以降、グループ全体の業績が低迷し、同本部の収益も振るわないなどとして退職を促された。応じないと、労働者に責任のない整理解雇に当たる就業規則の「会社の運営上やむを得ない事由」などに該当するとして、18年6月に解雇された。

 解雇当時、男性の賃金は年4200万円。12~16年には1749万~2970万円の賞与も支給され、MD昇進後の6年間の報酬は3億7千万円を超えていた。

 男性は提訴し、訴訟では、労働契約法が「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合、権利を乱用したものとして無効」と規定しているので、これに該当するかどうかが争点となった。

 また整理解雇の場合には、①人員削減の必要性②解雇回避努力③人選の合理性―などの要素を考慮する「判断の枠組み」も判例で確立している。

 同社は▽日本企業のような終身雇用や長期雇用を想定していない▽ポジションごとに人材を採用し、一方的な配転はしない▽転職を繰り返して高額な報酬を得るが、会社に貢献できなくなると退職を求められるのは外資系金融機関で働く者の常識▽日本の判例で男性の解雇が無効とされれば、国際企業は日本から撤退する―などと主張した。

 ▽「整合する契約、規則で対処できる」

 これに対し、東京地裁の三木素子裁判長は「判断の枠組み」を否定する理由はないとして各要素を検討。①は、16~18年にグループの従業員や賞与総額、役員報酬は増え、シンジケーション本部も16~17年は前年を超える収益を上げていたなどの理由から認めなかった。

バークレイズ訴訟
 

 ②も配置転換の検討が3部門だけで、降格や賃金減額を検討していないことから、③も他の従業員に希望退職を募ったり配置転換を命じたりせず、解雇対象者の選択に合理的基準があったとは認め難いことなどから、どちらも否定した。

 同社は就業規則の別の条項に基づき、勤務成績・態度も解雇の理由と主張したが、三木裁判長は「勤務評価書で勤務成績・態度の不良は指摘されておらず、一貫して賞与が支給されていた」などとして、解雇理由と認定しなかった。

 さらに「男性はディレクターで採用され、MDに昇進した。ポジションで採用されていない。男性と会社との労働契約では、果たすべき職責や期待される評価などに関する合意があった証拠もない」と指摘。同社が言うような外資系の雇用慣行が男性に適用されていたことにも疑問を呈し、解雇は客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当とは認められず、無効と結論づけた。

 その上で、三木裁判長は外資系撤退の懸念について「国際企業の人事労務管理と整合する合理的な労働契約や就業規則を締結、制定したり、解雇の有効性を示す事実の裏付け資料を適切に作成、保管したりすることで対処できる」と述べた。

 支払いを命じた未払い賃金は、住宅手当を差し引くなどして18年6月が約186万円、同年7月~21年2月は月約283万円、翌3月以降は月350万円となっている。

 ▽恣意的解雇許されず

 【解説】バークレイズ証券による元幹部社員の解雇を無効とした東京地裁判決は、たとえ使用者が外資系企業でも、労働者が年収4200万円の高額所得者でも、恣意(しい)的な解雇は決して許されないことを示した。

 労働者の解雇については、最高裁が1975年4月、日本食塩製造の従業員解雇を巡る訴訟の判決で「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の乱用として無効になる」との解釈を示した。

 この解雇権乱用の法理が裁判では「判断の枠組み」となり、労働契約法などが条文に取り入れて恣意的な解雇を規制してきた。

 また解雇のうち、労働者に責任のない整理解雇については、保育士や工場労働者の解雇を巡る「あさひ保育園事件」の最高裁判決(83年10月)や「東洋酸素事件」の東京高裁判決(79年10月)などによって、①人員削減の必要性②解雇回避努力③人選の合理性④手続きの相当性―という四つの要素を総合的に考慮する「判断の枠組み」が確立している。

 バークレイズ証券の訴訟では、①~③が認められず、④は判断するまでもなかったようだ。

 このような法律や判例の解雇規制に対し、国際企業に整合する合理的な労働契約や就業規則を締結、制定せず、そもそも労使に職責や評価などに関する合意もなく「外資系の雇用慣行は違う」と主張しても通らないだろう。

佐々木亮さん
佐々木亮さん

 ▽日本企業に差別的主張

 バークレイズ証券の解雇無効判決について、労働事件に詳しい弁護士の佐々木亮さん(東京弁護士会)に聞いた。

 一般的で、論理的な判断だと思う。企業側に要因がある場合でも、外資系だから労働者を簡単に整理解雇できるというのであれば、自分たちが雇用の維持を必死になって追求している日本企業は差別的だと感じるのではないか。

 高額所得という点は、能力不足など労働者側に要因がある解雇については、それなりに考慮されるだろう。

 しかし、ここでも外資系というだけでは、特別扱いの理由にはならない。そもそも「外資系」と一口に言っても、米国系もあれば、英国、欧州、中国、台湾、韓国、インドなど、さまざまで、それぞれに労働の文化がある。日本で活動する限りは日本の法律・慣行に服するべきだ。

 ▽一切ノーコメント

 バークレイズ証券の話 係争中のため、一切ノーコメント。

 (2022年1月30日配信)